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犯人究明編
77.聖女
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『この書籍を記す前に、私はどうして不思議な、そして幻の生物たちを観察することにしたのかをここに記す。
(中略)
ではこのような動物たちはどのように観察したのか。私は魔法使いだ。魔法使いの中でも、気配を消すことが得意だった。けれど、気配を消す程度の練度では、これらの動物は観察は出来まい。そんな並大抵ではできないからこそ、不思議な動物たちは幻などとよばれているのだ。
だから私は代償を払った。私は基礎魔法を一切使えなくなった。そして、気配を消すこと、それも対象が希少であればあるほど、気配が完全に消せるように代償を払った。この書籍は、こうした私の血と涙によって記されたものである。』
「まったく、随分前置きの長い書籍だ。お前のことなんて誰も興味が無いって、どうして作家ってそういうことすら分からぬのか、どいつもこいつも」
「アリオン!!聞いてるの!!今はね、一人で危ないところに行った君を叱ってる最中なんだよ!!」
私はロキとの賭けに勝ち、無事に地上に戻って来た。
アバラもレオも鼓膜の負傷。けれど連れ去られた私のことを心配し、急いでアウレリウスを呼びに行ったとのことだ。そして無事に戻ってきた後、私はアウレリウスに捕まり、すぐ近くの空き教室に入り、お叱り・・・・・・親への口答えを受けている。
「いや、確かに今回は一人のこのこ行った私の行動は危険だったが、しかし魔道具をとられてな」
「だからって素直についていくことはないでしょ!!新学期早々にどうしてこうも事件を起こすの!」
「結果的にこうして無事に戻ってきたんだから怒らないでくれ」
「怒るよ!馬鹿!!何度言っても僕の言うことを聞いてくれないアリオンの馬鹿!!」
アウレリウスは本当に怒っているが、しかし状況が状況で避けられなかった案件だけに、アウレリウスは私への心配のほうがやや上回っているようだ。まあ、今回の件は大体ロキが悪いからなあれは。
「怒らないでくれ。私だって、お前から貰った大事な可愛い羽を奪われて、気が気じゃなかったんだよ」
「・・・羽を大事にしてくれて嬉しいよ。でも、アリオンの命のほうが比べ物にならないくらい大事だから」
「私も、おまえのことが世界一大事だよ」
抱きしめあい、深紅の髪を撫でる。心地よさそうに撫でられており、どことなくそれが愛らしい鳥にも見えて微笑ましく思う。
・・・寿命の宣告を受け、アウレリウスはより私にベタベタになった。以前からくっついて動くことも多かったが、しかしここ最近はエスカレートしているのだ。私のベッドに侵入することは毎日となり、授業をこっそり見学することも増えた。
・・・段々日常が侵食されていくな・・・。
けれど不安そうにしているときは、こうして甘やかすと落ち着いていく。だから綺麗な深紅の頭を撫でて、落ち着くようにさせていた。これ、本当なら余命の短い私がされるべきではないのか・・・?
やがて教室の外から足音が複数聞こえる。アバラとレオだろう。アウレリウスをパッと離す。二人はそのまま勢いよく扉に入ってきた。私を心配してくれてのことだろう。
「おチビー!!おチビ無事やったんか!!平民連れ去り事件からまだそんな時間経ってないから焦ったわ~。犯人捕まっても、なんやえらい嫌な予感しとったから」
「アリオン!!無事だったんだね!!」
走る勢いで私に抱き着こうとしたアバラだったが、それをレオが押しとどめる。アウレリウスも私を後ろにさっと隠した。
『え~親友の無事を確かめる抱擁をどうして止めるん?』
『馬鹿アバラ!恋人がいる前で、たとえ抱擁でも流石にアウトだよ!!』
『あっ・・・そういえばそうやったね』
聞こえてるぞ小僧ども。我々は恋人じゃないが?というか本当に私たちの間違った関係性が広まっていってないか?
『彼、レオって言ったよね。見どころあるね』
『宰相目指すって言ってたが、あの観察眼はまずいと思う。まったく、思春期はすぐに色恋に話を繋げたがる。けしからん』
「ともかく、おチビってば新学期早々大変やったなあ」
「アバラとレオも、今も鼓膜が痛いだろうに来てもらってありがとうね」
「いいんだよ、友達なんだから」
友達。なんともむず痒い言葉だ。私は生まれてこの方友人などいなかったということを知らず、だからこそ気軽に言ってくれるそういった言葉が何とも心にしみる。
「あっ!!おチビ照れとる~」
「照れてないよ」
「ともかく、アリオンが無事でよかったよ。これが新学期早々だったのは不幸中の幸いだったね。おかげで会長がどこにいるのか分かったから」
新学期は生徒会長は、基本的に生徒会室にいる。
「ああ・・・そういえばそろそろあの時期だったね」
この冬の新学期から3か月は、生徒会の譲渡のための期間だ。このため、アウレリウスは二年主席のロージに明け渡すために準備中なのだ。
「へー、つまり、タイミングがずれとったら会長さんの場所も分からんかったってことなんや」
まあ、実際にはアウレリウスの手を借りることもなく、私一人で生還したのだが、わざわざ訂正することもないだろう。それにしても、アウレリウスがこうしてのんびり生徒でいられるのも残り3か月か。
春告げの儀という実質的な卒業式が春先にある。外部からも招待客を招く、一大イベントであるために新生徒会は引継ぎをしながら奔走するのだ。
「アリオンは僕のいる現生徒会が解散したら次のロージのところに行くの?」
首を横に振った。
「会長がいるから入ったので、次期は興味がないです」
「そっか!」
『ほんまや、ラブラブやな』
『あれが恋人じゃなかったらなんなんだろうね。でも付き合ってないんだって。ロギルジョー曰く』
『は~?無理あるやろ』
ひそひそ声だがうるさい!!恋人じゃない!!人の関係を勝手に揶揄するな小僧ども!!私は近くの机に手を置いて怒りで拳を握りしめたが、危ない。すぐそこには不思議まぼろし動物図鑑があったのだった。
「あれ?おチビ、その本なんなん?」
アバラは私の大事な本を視界に入れた。
「あれ、それって以前マダム・カルハが言ってた伝説の本じゃない?」
そういえば、レオは私と一緒に授業を受けたため、この本を私が欲する経緯を知っているのだった。
まずい、フェニックスについて、それも番契約の解除を調べてるなんてアウレリウスの耳に入れるのは本当にまずい!!言うなよ、頼むから言うなよ!!
「ああ、あの授業を二人でとったんや。でもおチビはなんでこの本を大事そうにしとるんや?」
「ああそれはフェニッ「アバラ!!よければ今から僕が読んであげるよ!?」
レオの声をかき消すような私の大声に三人とも驚いた顔をする。危なかった。余計な情報をアウレリウスの耳に入れるところだった。
「お、おう。あれか?読み聞かせか?おチビ、俺の学力そこまで低いと思っとるん?」
「タイトルからは分かりにくいけれどこれは学術書だからさ!!ええと、アバラにも分かりそうな有名な生き物・・・生き物・・・」
「馬鹿にされとる。俺のことめっちゃ馬鹿にされとる」
憤慨するアバラを放置してページをめくる。フェニックスについては後で一人で読むとして、なにかこの場のお茶を濁せる生き物はいないだろうか。目次にはマダム・カルハの言う通りフェニックスの欄がある。ページ数は62ページか。気になる。気になるが、後回しだ!!
しかし。
目を滑らせていくと、誰もが知っている生き物が載っていた。
その単語を目にしたとき、私は時間が止まったかのように驚いた。
「聖女」
この図鑑には、聖女の項目が載っていた。
この場の全員が私の発言に目を丸くする。
「・・・動物図鑑に聖女?まあ、確かに分類学上は人間も動物だけどさ」
「アリオン、読んでみてくれる?」
『聖女とは、光魔法に身を捧げた、選ばれた女性のことを指す。
代々、異界から召喚されるように現れ、国の危難と戦う存在だ。私が世界中のあらゆる動物を調べていた時、丁度4代目の聖女が闇魔法の使い手と戦う時代だった。
酷い時代だった。闇魔法の使い手は、あっという間に無辜の民を洗脳し、搾取した。手下は嗤いながら、無実の民の首を落としていった。親の前で赤子を殺したことも珍しくなかったそうだ。やがてアークランド王国の一地方を掌握する。魔物たちも彼を王とあがめ、やがて支配の魔の手は王都へと向かっていった。』
静かに聞いていたアウレリウスは口を開く。
「ああ、歴史通りだね。70年前の、実際にあった話だよ。だから現王の先々代にあたる王と、当時の聖女が手を組んで対処に追われたんだって」
「けれど、そんなことって別に珍しいことじゃないよなあ。誰もが知ってる話を、なんでわざわざ書いたんやろ」
『しかし、聖女と王が手を組んでも、周りの貴族たちは我関せずだった。新聞で情報を拾っているはずだろうに、盗られたところは自分の管理する領地とは関係ないということで、どうせ出兵するなら自分以外の誰かがやればいいという、他力本願だったのだ。自分が頑張ったところで栄誉はない。それどころか万が一闇魔法の使い手が勝利したのなら、そっちに頭を下げたほうがいい。なら、自分は極力出し渋った方が得なのだ。
その腐った状況を、聖女は変えた。
彼女は鼓舞といった、精神系の光魔法に特化していた。故に、闇魔法の存在を蛇蝎のごとく憎むように国全体に魔法を伸ばした。そうしてその甲斐あって、一丸となった国は無事に闇魔法の使い手を討伐することが出来たのだった。
けれど、王族は国全体を洗脳したという事実を隠ぺいした。洗脳はあまりにも聞こえが悪すぎる。大義名分があったとして、だ。けれどそうでもせねば王都は落とされていた。・・・やがて闇魔法への嫌悪感は子世代、孫世代にも受け継がれていく。闇魔法の適性の持ち主は出生後すぐに殺処分される決まりとなった。
聖女の力は次代へと継承される。寿命死以外の変死でもない限り、力を引き継ぐ素質を持つ。故に、鼓舞の聖女が息を引き取っても、洗脳は解けない。
闇魔法を憎むことは納得できることだ。あの魔法は、その大半を悪意が無ければ使えない。けれど、憎むあまりに、民たちのその行いは、闇魔法の使い手以上に唾棄すべき存在になっていく。嘆く親の前で、闇の適性を持つ赤子を殺すのだ。
あのとき闇魔法の使い手がやっていたことと、何が違うのだろう。』
私はそこまで読んで、止めた。その先は大体想像がついている。
『闇魔法適正者への意識を変えたくば、聖女を殺さなくてはならない』
殺伐とした内容に、全員の顔が険しくなっていた。私は音を立ててパタンと本を閉じた。
「アバラにとってものすごく難しい内容だったけれど、理解できた?」
「出来たに決まっとるやろうが!!煽り?え?おチビ俺のこと煽っとるん!?」
(中略)
ではこのような動物たちはどのように観察したのか。私は魔法使いだ。魔法使いの中でも、気配を消すことが得意だった。けれど、気配を消す程度の練度では、これらの動物は観察は出来まい。そんな並大抵ではできないからこそ、不思議な動物たちは幻などとよばれているのだ。
だから私は代償を払った。私は基礎魔法を一切使えなくなった。そして、気配を消すこと、それも対象が希少であればあるほど、気配が完全に消せるように代償を払った。この書籍は、こうした私の血と涙によって記されたものである。』
「まったく、随分前置きの長い書籍だ。お前のことなんて誰も興味が無いって、どうして作家ってそういうことすら分からぬのか、どいつもこいつも」
「アリオン!!聞いてるの!!今はね、一人で危ないところに行った君を叱ってる最中なんだよ!!」
私はロキとの賭けに勝ち、無事に地上に戻って来た。
アバラもレオも鼓膜の負傷。けれど連れ去られた私のことを心配し、急いでアウレリウスを呼びに行ったとのことだ。そして無事に戻ってきた後、私はアウレリウスに捕まり、すぐ近くの空き教室に入り、お叱り・・・・・・親への口答えを受けている。
「いや、確かに今回は一人のこのこ行った私の行動は危険だったが、しかし魔道具をとられてな」
「だからって素直についていくことはないでしょ!!新学期早々にどうしてこうも事件を起こすの!」
「結果的にこうして無事に戻ってきたんだから怒らないでくれ」
「怒るよ!馬鹿!!何度言っても僕の言うことを聞いてくれないアリオンの馬鹿!!」
アウレリウスは本当に怒っているが、しかし状況が状況で避けられなかった案件だけに、アウレリウスは私への心配のほうがやや上回っているようだ。まあ、今回の件は大体ロキが悪いからなあれは。
「怒らないでくれ。私だって、お前から貰った大事な可愛い羽を奪われて、気が気じゃなかったんだよ」
「・・・羽を大事にしてくれて嬉しいよ。でも、アリオンの命のほうが比べ物にならないくらい大事だから」
「私も、おまえのことが世界一大事だよ」
抱きしめあい、深紅の髪を撫でる。心地よさそうに撫でられており、どことなくそれが愛らしい鳥にも見えて微笑ましく思う。
・・・寿命の宣告を受け、アウレリウスはより私にベタベタになった。以前からくっついて動くことも多かったが、しかしここ最近はエスカレートしているのだ。私のベッドに侵入することは毎日となり、授業をこっそり見学することも増えた。
・・・段々日常が侵食されていくな・・・。
けれど不安そうにしているときは、こうして甘やかすと落ち着いていく。だから綺麗な深紅の頭を撫でて、落ち着くようにさせていた。これ、本当なら余命の短い私がされるべきではないのか・・・?
やがて教室の外から足音が複数聞こえる。アバラとレオだろう。アウレリウスをパッと離す。二人はそのまま勢いよく扉に入ってきた。私を心配してくれてのことだろう。
「おチビー!!おチビ無事やったんか!!平民連れ去り事件からまだそんな時間経ってないから焦ったわ~。犯人捕まっても、なんやえらい嫌な予感しとったから」
「アリオン!!無事だったんだね!!」
走る勢いで私に抱き着こうとしたアバラだったが、それをレオが押しとどめる。アウレリウスも私を後ろにさっと隠した。
『え~親友の無事を確かめる抱擁をどうして止めるん?』
『馬鹿アバラ!恋人がいる前で、たとえ抱擁でも流石にアウトだよ!!』
『あっ・・・そういえばそうやったね』
聞こえてるぞ小僧ども。我々は恋人じゃないが?というか本当に私たちの間違った関係性が広まっていってないか?
『彼、レオって言ったよね。見どころあるね』
『宰相目指すって言ってたが、あの観察眼はまずいと思う。まったく、思春期はすぐに色恋に話を繋げたがる。けしからん』
「ともかく、おチビってば新学期早々大変やったなあ」
「アバラとレオも、今も鼓膜が痛いだろうに来てもらってありがとうね」
「いいんだよ、友達なんだから」
友達。なんともむず痒い言葉だ。私は生まれてこの方友人などいなかったということを知らず、だからこそ気軽に言ってくれるそういった言葉が何とも心にしみる。
「あっ!!おチビ照れとる~」
「照れてないよ」
「ともかく、アリオンが無事でよかったよ。これが新学期早々だったのは不幸中の幸いだったね。おかげで会長がどこにいるのか分かったから」
新学期は生徒会長は、基本的に生徒会室にいる。
「ああ・・・そういえばそろそろあの時期だったね」
この冬の新学期から3か月は、生徒会の譲渡のための期間だ。このため、アウレリウスは二年主席のロージに明け渡すために準備中なのだ。
「へー、つまり、タイミングがずれとったら会長さんの場所も分からんかったってことなんや」
まあ、実際にはアウレリウスの手を借りることもなく、私一人で生還したのだが、わざわざ訂正することもないだろう。それにしても、アウレリウスがこうしてのんびり生徒でいられるのも残り3か月か。
春告げの儀という実質的な卒業式が春先にある。外部からも招待客を招く、一大イベントであるために新生徒会は引継ぎをしながら奔走するのだ。
「アリオンは僕のいる現生徒会が解散したら次のロージのところに行くの?」
首を横に振った。
「会長がいるから入ったので、次期は興味がないです」
「そっか!」
『ほんまや、ラブラブやな』
『あれが恋人じゃなかったらなんなんだろうね。でも付き合ってないんだって。ロギルジョー曰く』
『は~?無理あるやろ』
ひそひそ声だがうるさい!!恋人じゃない!!人の関係を勝手に揶揄するな小僧ども!!私は近くの机に手を置いて怒りで拳を握りしめたが、危ない。すぐそこには不思議まぼろし動物図鑑があったのだった。
「あれ?おチビ、その本なんなん?」
アバラは私の大事な本を視界に入れた。
「あれ、それって以前マダム・カルハが言ってた伝説の本じゃない?」
そういえば、レオは私と一緒に授業を受けたため、この本を私が欲する経緯を知っているのだった。
まずい、フェニックスについて、それも番契約の解除を調べてるなんてアウレリウスの耳に入れるのは本当にまずい!!言うなよ、頼むから言うなよ!!
「ああ、あの授業を二人でとったんや。でもおチビはなんでこの本を大事そうにしとるんや?」
「ああそれはフェニッ「アバラ!!よければ今から僕が読んであげるよ!?」
レオの声をかき消すような私の大声に三人とも驚いた顔をする。危なかった。余計な情報をアウレリウスの耳に入れるところだった。
「お、おう。あれか?読み聞かせか?おチビ、俺の学力そこまで低いと思っとるん?」
「タイトルからは分かりにくいけれどこれは学術書だからさ!!ええと、アバラにも分かりそうな有名な生き物・・・生き物・・・」
「馬鹿にされとる。俺のことめっちゃ馬鹿にされとる」
憤慨するアバラを放置してページをめくる。フェニックスについては後で一人で読むとして、なにかこの場のお茶を濁せる生き物はいないだろうか。目次にはマダム・カルハの言う通りフェニックスの欄がある。ページ数は62ページか。気になる。気になるが、後回しだ!!
しかし。
目を滑らせていくと、誰もが知っている生き物が載っていた。
その単語を目にしたとき、私は時間が止まったかのように驚いた。
「聖女」
この図鑑には、聖女の項目が載っていた。
この場の全員が私の発言に目を丸くする。
「・・・動物図鑑に聖女?まあ、確かに分類学上は人間も動物だけどさ」
「アリオン、読んでみてくれる?」
『聖女とは、光魔法に身を捧げた、選ばれた女性のことを指す。
代々、異界から召喚されるように現れ、国の危難と戦う存在だ。私が世界中のあらゆる動物を調べていた時、丁度4代目の聖女が闇魔法の使い手と戦う時代だった。
酷い時代だった。闇魔法の使い手は、あっという間に無辜の民を洗脳し、搾取した。手下は嗤いながら、無実の民の首を落としていった。親の前で赤子を殺したことも珍しくなかったそうだ。やがてアークランド王国の一地方を掌握する。魔物たちも彼を王とあがめ、やがて支配の魔の手は王都へと向かっていった。』
静かに聞いていたアウレリウスは口を開く。
「ああ、歴史通りだね。70年前の、実際にあった話だよ。だから現王の先々代にあたる王と、当時の聖女が手を組んで対処に追われたんだって」
「けれど、そんなことって別に珍しいことじゃないよなあ。誰もが知ってる話を、なんでわざわざ書いたんやろ」
『しかし、聖女と王が手を組んでも、周りの貴族たちは我関せずだった。新聞で情報を拾っているはずだろうに、盗られたところは自分の管理する領地とは関係ないということで、どうせ出兵するなら自分以外の誰かがやればいいという、他力本願だったのだ。自分が頑張ったところで栄誉はない。それどころか万が一闇魔法の使い手が勝利したのなら、そっちに頭を下げたほうがいい。なら、自分は極力出し渋った方が得なのだ。
その腐った状況を、聖女は変えた。
彼女は鼓舞といった、精神系の光魔法に特化していた。故に、闇魔法の存在を蛇蝎のごとく憎むように国全体に魔法を伸ばした。そうしてその甲斐あって、一丸となった国は無事に闇魔法の使い手を討伐することが出来たのだった。
けれど、王族は国全体を洗脳したという事実を隠ぺいした。洗脳はあまりにも聞こえが悪すぎる。大義名分があったとして、だ。けれどそうでもせねば王都は落とされていた。・・・やがて闇魔法への嫌悪感は子世代、孫世代にも受け継がれていく。闇魔法の適性の持ち主は出生後すぐに殺処分される決まりとなった。
聖女の力は次代へと継承される。寿命死以外の変死でもない限り、力を引き継ぐ素質を持つ。故に、鼓舞の聖女が息を引き取っても、洗脳は解けない。
闇魔法を憎むことは納得できることだ。あの魔法は、その大半を悪意が無ければ使えない。けれど、憎むあまりに、民たちのその行いは、闇魔法の使い手以上に唾棄すべき存在になっていく。嘆く親の前で、闇の適性を持つ赤子を殺すのだ。
あのとき闇魔法の使い手がやっていたことと、何が違うのだろう。』
私はそこまで読んで、止めた。その先は大体想像がついている。
『闇魔法適正者への意識を変えたくば、聖女を殺さなくてはならない』
殺伐とした内容に、全員の顔が険しくなっていた。私は音を立ててパタンと本を閉じた。
「アバラにとってものすごく難しい内容だったけれど、理解できた?」
「出来たに決まっとるやろうが!!煽り?え?おチビ俺のこと煽っとるん!?」
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