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犯人究明編
81.ダンス
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「もうすぐ春告げの儀になりますわ!皆様、ダンスが得意な人もそうでない人も、これを機にスキルアップいたしましょう!!」
魔法生物学のマダム・カルハはダンスも得意であるらしい。私たち一年生の中でもダンスが不得手な者たちは一か所に集められ、ダンスホールに集っていた。かくいう私とレオもアバラに引きずられ、強制召喚されている。Xデーが春告げの儀ということで、ダンスでの参加は免れないのだ。本当に憂鬱にさせられる。
私は医者から、たとえ魔力不足によって体が衰弱していても、適度な運動自体はした方がいいと伝えられていた。故に、体調を理由に欠席は難しい。
「ではお手本を誰かに・・・」
マダム・カルハは生徒たちの顔を見るが、しかし全員目を背ける。それはそうだ。誰が公開処刑に応じるというのか。しかし、隣のアバラは勢いよく挙手をする。
「マダム先生!はいー!!踊れます!!俺、ダンスは得意です!!故郷の村でよくわからない動物の骨を持って火を囲ってみんなで踊ってます!!」
「おだまり!!春告げの儀当日にそんなことをしたらしばきますからね!!」
「村では踊りは裸というルールがあるんですが、服の着用は必須ですかー!?」
「強制退出が嫌でしたら一切喋らないこと!!良いですね!?」
アバラはしなしなと意気消沈する。なんでこいつの村は隙あらば脱ぐんだ?隣にいるレオはアバラをきつく注意する。友人として恥ずかしいのだろう。
「では・・・あら、アリオン君がいるではありませんか!!前においでなさい!!」
アバラのせいで隣にいた私の存在が気づかれてしまったのであった。腹いせにアバラの背中を小突く。そして渋々前に出た。
「お相手が欲しいですわね。あら、ジェルド教授!ダンス講習を見に来てくださったのですね!嬉しいですわ、是非お手本として前に来てくださいまし」
「え?おい、ちょっ・・・俺は別にそのために来たのでは」
偶々ダンスホールの奥に用があったのだろう。しかしマダムは中々に強引な人で、断らせないという圧を感じる。貫禄はあっても、まだ若造のジェルドは渋々従った。
ちょっと待て。今から私とジェルドで踊るのか?ま、待て。嘘だと言ってくれ!!それでは、現役だった時には叶わなかった共演が今、本当にどうでもいい場面で実現するという状態になるではないか!!
マダム・カルハに押し切られ、体格差から考えてジェルドが男性役になる。そして私はジェルドの肩に渋々手を伸ばし、ジェルドは私の腰に手を当てた。仕方がない。こんなのは一瞬だ一瞬。この場の全員の注目を浴びながら、緩やかにステップを踏み始めた。
見るがいい、この場のダンス下手糞共よ。かつて春告げの儀でボイコットを起こした夢の共演が、目の前に広がっているんだぞ。
「まあ。ジェルド教授が踊るのは初めて見ましたが、とてもお上手ですわね。特にリードが相手への気遣いに満ちています」
私は踊るのがうまくはないが、貴族として本当に最低限の教養だけは身に着けている。故にジェルドに促されるままに体を運ぶのだが、確かにこいつはうまい。
「ジェルド教授・・・素敵!」
「そういえばジェルド教授ってご自身の時はボイコットされたらしいのですわよね?一体どうしてなのでしょう」
「ペアが休んだからって聞いたよ。だから教授も休んだんだって。あれだけの優雅な踊りを見せる機会を失ったなんて、可哀そうだよな・・・」
どうせお前ら、私が参加してたらそれはそれで場が盛り下がって可哀そうとか言って同情してただろうがッ!!!
「おい、あまり周囲を見るな。俺もこういうのは慣れていないから、リードが難しくなる」
「ああ、ごめんなさい」
こいつの体格、がっしりとしているよな。婚約者という割にこんな向き合った至近距離にいたことがないからつぶさに観察してしまう。
けれど不思議と嫌ではなかった。むしろ、少しだけ楽しさも感じる。音楽が朗らかなものということもあって、ふと入学してからのことを私は脳裏に思い浮かべる。
思えば、学園生活の要所要所にこいつはいつもいてくれた。生徒として、私を手助けしようとしてくれたことも多かった。だからもう、今は、私からこいつへの婚約者としての複雑な感情は、整理がついたのだろう。
やがて空中に漂う楽器の演奏が終わると、周囲から拍手が鳴り響いた。
「ブラボー!!とても素敵なお手本でしたわ!即興なのに素晴らしいダンスを見せてくれたジェルド教授とアリオン君に沢山の拍手を!!」
パチパチパチと暖かな拍手が私たちに向けられた。人生で初めてこんな拍手を受け取ったな。
やがてお手本を元に、各々がペアを組み、実践に入る。最初は恥ずかしそうにしていた面々も、次第に慣れてきたのか上達させていく。人数が奇数の関係上私は組める相手がいないため、近くのジェルドに話しかけた。
「ジェルド教授も春告げの儀にはパートナーを連れていくのですか?」
「俺のパートナーは眠りについている。あんなのが婚約者だったから、パートナー無しも特例で許可されているんだ」
こいつは一人参加か。ふむ。
・・・そういえば、アウレリウスはパートナーに私を選ぶ線が濃厚なんだよな。すると、私は他にパートナーがいれば断りやすいのでは?
「あの、よければ僕と一緒にどうですか?」
その言葉にジェルドは面食らった。
「・・・ああ、貴様は一年だったな。あのな、三年以上の貴族は、血縁でもない限り、パートナーは自動的に婚約者という目で見られるんだ。俺はとっくに成人している」
「けれど、今も尚、誘いが殺到しているのではないでしょうか」
「・・・ああ、全部断っているがな」
つべこべ言わずペアになれ。頼むからペアになってくれ。お前で我慢してやると言ってるんだ。
「俺は誰とも組みたくない。一曲くらいなら応じてやるが、ペア自体は別の誰かを誘ってくれ。アウレリウス殿下と懇意にしているのだろ?大人しくそっちを選べ」
お、おおお、お前がそれを言うのか!?
なんという状況だ。こいつはローゼルアリオンをダシにして周囲からの誘いを断っておいて、私からダシにするのは許さんと!?
「僕と殿下はそういう関係ではございませんので、そういう誤解を生みたくないから教授と組みたいのです!!」
「知ってるか?奇人魔塔主マラカイは今回の春告げの儀から、王族に限って単独参加を認めたそうだ。わざわざ学園のルールに王族を付き合わせるのは国利に反するだと。それに対して王家は抗議しているんだ。なんでだろうな」
「なんででしょうね」
マラカイがまともで常識的なことって言えるんだな。初めての感覚だ。それくらいマラカイの言うことに筋しかないぞ。
しかし、アウレリウスの抗議を考えると、非常に寒気がする。羽根、ひょっとしてもっと早くに返さねばまずいか?いやでも、全てが終わるまでは私も魔法が使えなくなるのは危うい。うーむ。
ジェルドは用事の続きを思い出して去っていく。さて、別のペアを探そうか。
「えー俺?誘ってくれて嬉しいんやけどなあ、マダム先生怒らせたせいで俺のペアは動物の骨って言われたんや・・・」
「僕?僕はイヴリン姉さまと一緒だよ。親族がペアだと結婚相手は未定っていう意思表示が出来るんだよ」
「俺!?やだよ!!兄貴に無駄な喧嘩を売ることになるじゃねえか!!何のメリットもねえよ!!」
アバラもレオもロギルジョーも駄目だった。我が親族のロージも新生徒会で忙しいらしい。私は悔しさで爪を噛みながら、よくわからない場所の廊下を歩いている。
「くそ、やはり私はどこに行っても二人一組で余る運命なのか!?おかしい、絶対におかしい!!」
「うん、おかしいね。ペアが決まってる人間があっちこっちにペアの要請をしているんだもん。本当におかしい」
「本当に世は不公平だ!!・・・・・・うん?」
後ろにはアウレリウスがいた。
「アリオン、一応聞くけれどなにをしてるの?」
「・・・皆のペアの意識アンケートを取っている。どういう奴を相手に選んでいるか、とかな」
「面白いね!!あのアリオンがそんなことをしているんだ!!」
笑ってる。顔は笑顔だが目が笑っていない。というかなんで私の場所が分かったんだ。
「聞いたぞアウレリウス。王族は単独参加が許可されてるんだってな。羨ましいよ。さて、1年の私は誰を相手に選んでも言い訳が通る。同じような陰の者を探しに行くかな」
「アリオン。ちょっと来て」
アウレリウスは私の腕を掴み、誘導する。もう夕方になるため、窓から差し込む光は橙を帯びている。そして階段を上り、飛行練の場所がよく見える広いバルコニーに案内される。学園は非常に広いため、私もすべてのエリアを把握できているわけではない。ここには初めて来た。
「・・・危ないな、ここ。柵がないのか」
「うん。飛行訓練の緊急着陸エリアでもあるからね。落ちたらまず助からない場所だよ。だから人は近寄らないんだけど、春告げの儀の隠れ逢引きスポットなんだよ。ほら、景色が綺麗でしょう?」
視界の先には広大な景色が広がっていた。遠くの海ではキラキラと水面が反射し、それが川としてこちらにまで伸びている。とても幻想的な光景だ。アウレリウスは私の手を引いてバルコニーの中央まで移動する。やがて、止まった。
その顔は強張っている。
「アリオン、順序を間違えてごめんね。本当は先にこれを言わなくちゃならなかったんだ」
「アウレリウス?」
アウレリウスは私の前に跪く。そして私の手を取って、唇を落とした。
「アリオン、僕は君が好きだ」
青い双眸が私を射抜く。頬はうっすら紅潮し、緊張が伝わる。
それは、愛の告白だ。
「僕はアリオンと夫婦になって、支えあっていきたい。だから、妃になって欲しい」
言葉も視線もまっすぐだ。真摯に伝えに来る。だからこそ、直球で来られて私は息が詰まった。
「・・・アウレリウス、妃の席には後ろめたいことが無い人間が座るべきなんだよ」
「アリオンはこれまで後ろめたいことを一度でもしたことがある?」
「違う、世間の認識の話だよ。例え学園では意識が変わってきたとて、世間ではそうではない。ローゼルアリオン以上に嫌われている人間がいるか?嫌われてる人間が妃になって、納得できる人間がどこにいるんだ」
仮に私が妃になる未来があったら、それは犯人を殺した後の未来になる。すると魔力は回復し、姿は大人の姿になっているだろう。つまりは、私の生存の真相が世間に知れ渡るのだ。私はアリオンではなく、ローゼルアリオンとして生きていくことになる。
「私を選ぶのはお前の為にならない。足を引っ張ることにしかならない」
「ううん、僕が絶対にアリオンを守るよ。仮に足を引っ張られたって、構わない。君が僕の隣にいてくれたら、それだけでいいんだ。それだけで僕は生きていけるのだから」
これまで私に何度もおねだりをしてきたこの子だが、この件についてだけは首を縦に振れない。それは父子関係でいたいという願いよりも先の、幸せを案じてのものだからだ。私と歩むことは余計な苦労を背負うこと。この子はそんな苦労を想像できていないだけなのだ。
「・・・どうしても、というなら側室にでも愛人にでもなる。だから正妃だけは」
「正妃じゃないと駄目。他には絶対に考えられない。他に娶るくらいなら血を絶えさせるから」
意思は固い。そしてそれを覆すことは正攻法では無理だ。
羽根を返還しなくては。羽根さえ返還できれば、正気に戻ってくれるだろう。
「アウレリウス、これについてはすぐには結論を出せない。待って、くれないだろうか」
今すぐに答えを欲していたようで、少し不満げにしている。けれど否定よりかは進んだと判断してくれる。
「・・・うん、分かった。アリオンにだって考える時間は必要だもんね」
「春告げの儀が終わって、その後の事後処理が終わった後に結論を出すよ。だから待っていて欲しい」
「うん、絶対だからね。あと、春告げの儀のペアは僕と組むんだよ?」
「ああ」
・・・?
あれ?最初に重い条件を提示してから後に軽い条件を提示すると、承諾を貰いやすい交渉のテクニックを使用されなかったか?私は思わずペアの承諾をしなかったか?
「ちょっと待て、ペアってことは実質妃に認識され・・・!」
「楽しみだね、アリオン。衣装も考える必要があるから、今度の休日に一緒に見ようね?」
本当に強かな子だな・・・。あらゆる狸と戦ってきたこの私をここまで翻弄するとは・・・。王の器だよアウレリウスは・・・・・・。
魔法生物学のマダム・カルハはダンスも得意であるらしい。私たち一年生の中でもダンスが不得手な者たちは一か所に集められ、ダンスホールに集っていた。かくいう私とレオもアバラに引きずられ、強制召喚されている。Xデーが春告げの儀ということで、ダンスでの参加は免れないのだ。本当に憂鬱にさせられる。
私は医者から、たとえ魔力不足によって体が衰弱していても、適度な運動自体はした方がいいと伝えられていた。故に、体調を理由に欠席は難しい。
「ではお手本を誰かに・・・」
マダム・カルハは生徒たちの顔を見るが、しかし全員目を背ける。それはそうだ。誰が公開処刑に応じるというのか。しかし、隣のアバラは勢いよく挙手をする。
「マダム先生!はいー!!踊れます!!俺、ダンスは得意です!!故郷の村でよくわからない動物の骨を持って火を囲ってみんなで踊ってます!!」
「おだまり!!春告げの儀当日にそんなことをしたらしばきますからね!!」
「村では踊りは裸というルールがあるんですが、服の着用は必須ですかー!?」
「強制退出が嫌でしたら一切喋らないこと!!良いですね!?」
アバラはしなしなと意気消沈する。なんでこいつの村は隙あらば脱ぐんだ?隣にいるレオはアバラをきつく注意する。友人として恥ずかしいのだろう。
「では・・・あら、アリオン君がいるではありませんか!!前においでなさい!!」
アバラのせいで隣にいた私の存在が気づかれてしまったのであった。腹いせにアバラの背中を小突く。そして渋々前に出た。
「お相手が欲しいですわね。あら、ジェルド教授!ダンス講習を見に来てくださったのですね!嬉しいですわ、是非お手本として前に来てくださいまし」
「え?おい、ちょっ・・・俺は別にそのために来たのでは」
偶々ダンスホールの奥に用があったのだろう。しかしマダムは中々に強引な人で、断らせないという圧を感じる。貫禄はあっても、まだ若造のジェルドは渋々従った。
ちょっと待て。今から私とジェルドで踊るのか?ま、待て。嘘だと言ってくれ!!それでは、現役だった時には叶わなかった共演が今、本当にどうでもいい場面で実現するという状態になるではないか!!
マダム・カルハに押し切られ、体格差から考えてジェルドが男性役になる。そして私はジェルドの肩に渋々手を伸ばし、ジェルドは私の腰に手を当てた。仕方がない。こんなのは一瞬だ一瞬。この場の全員の注目を浴びながら、緩やかにステップを踏み始めた。
見るがいい、この場のダンス下手糞共よ。かつて春告げの儀でボイコットを起こした夢の共演が、目の前に広がっているんだぞ。
「まあ。ジェルド教授が踊るのは初めて見ましたが、とてもお上手ですわね。特にリードが相手への気遣いに満ちています」
私は踊るのがうまくはないが、貴族として本当に最低限の教養だけは身に着けている。故にジェルドに促されるままに体を運ぶのだが、確かにこいつはうまい。
「ジェルド教授・・・素敵!」
「そういえばジェルド教授ってご自身の時はボイコットされたらしいのですわよね?一体どうしてなのでしょう」
「ペアが休んだからって聞いたよ。だから教授も休んだんだって。あれだけの優雅な踊りを見せる機会を失ったなんて、可哀そうだよな・・・」
どうせお前ら、私が参加してたらそれはそれで場が盛り下がって可哀そうとか言って同情してただろうがッ!!!
「おい、あまり周囲を見るな。俺もこういうのは慣れていないから、リードが難しくなる」
「ああ、ごめんなさい」
こいつの体格、がっしりとしているよな。婚約者という割にこんな向き合った至近距離にいたことがないからつぶさに観察してしまう。
けれど不思議と嫌ではなかった。むしろ、少しだけ楽しさも感じる。音楽が朗らかなものということもあって、ふと入学してからのことを私は脳裏に思い浮かべる。
思えば、学園生活の要所要所にこいつはいつもいてくれた。生徒として、私を手助けしようとしてくれたことも多かった。だからもう、今は、私からこいつへの婚約者としての複雑な感情は、整理がついたのだろう。
やがて空中に漂う楽器の演奏が終わると、周囲から拍手が鳴り響いた。
「ブラボー!!とても素敵なお手本でしたわ!即興なのに素晴らしいダンスを見せてくれたジェルド教授とアリオン君に沢山の拍手を!!」
パチパチパチと暖かな拍手が私たちに向けられた。人生で初めてこんな拍手を受け取ったな。
やがてお手本を元に、各々がペアを組み、実践に入る。最初は恥ずかしそうにしていた面々も、次第に慣れてきたのか上達させていく。人数が奇数の関係上私は組める相手がいないため、近くのジェルドに話しかけた。
「ジェルド教授も春告げの儀にはパートナーを連れていくのですか?」
「俺のパートナーは眠りについている。あんなのが婚約者だったから、パートナー無しも特例で許可されているんだ」
こいつは一人参加か。ふむ。
・・・そういえば、アウレリウスはパートナーに私を選ぶ線が濃厚なんだよな。すると、私は他にパートナーがいれば断りやすいのでは?
「あの、よければ僕と一緒にどうですか?」
その言葉にジェルドは面食らった。
「・・・ああ、貴様は一年だったな。あのな、三年以上の貴族は、血縁でもない限り、パートナーは自動的に婚約者という目で見られるんだ。俺はとっくに成人している」
「けれど、今も尚、誘いが殺到しているのではないでしょうか」
「・・・ああ、全部断っているがな」
つべこべ言わずペアになれ。頼むからペアになってくれ。お前で我慢してやると言ってるんだ。
「俺は誰とも組みたくない。一曲くらいなら応じてやるが、ペア自体は別の誰かを誘ってくれ。アウレリウス殿下と懇意にしているのだろ?大人しくそっちを選べ」
お、おおお、お前がそれを言うのか!?
なんという状況だ。こいつはローゼルアリオンをダシにして周囲からの誘いを断っておいて、私からダシにするのは許さんと!?
「僕と殿下はそういう関係ではございませんので、そういう誤解を生みたくないから教授と組みたいのです!!」
「知ってるか?奇人魔塔主マラカイは今回の春告げの儀から、王族に限って単独参加を認めたそうだ。わざわざ学園のルールに王族を付き合わせるのは国利に反するだと。それに対して王家は抗議しているんだ。なんでだろうな」
「なんででしょうね」
マラカイがまともで常識的なことって言えるんだな。初めての感覚だ。それくらいマラカイの言うことに筋しかないぞ。
しかし、アウレリウスの抗議を考えると、非常に寒気がする。羽根、ひょっとしてもっと早くに返さねばまずいか?いやでも、全てが終わるまでは私も魔法が使えなくなるのは危うい。うーむ。
ジェルドは用事の続きを思い出して去っていく。さて、別のペアを探そうか。
「えー俺?誘ってくれて嬉しいんやけどなあ、マダム先生怒らせたせいで俺のペアは動物の骨って言われたんや・・・」
「僕?僕はイヴリン姉さまと一緒だよ。親族がペアだと結婚相手は未定っていう意思表示が出来るんだよ」
「俺!?やだよ!!兄貴に無駄な喧嘩を売ることになるじゃねえか!!何のメリットもねえよ!!」
アバラもレオもロギルジョーも駄目だった。我が親族のロージも新生徒会で忙しいらしい。私は悔しさで爪を噛みながら、よくわからない場所の廊下を歩いている。
「くそ、やはり私はどこに行っても二人一組で余る運命なのか!?おかしい、絶対におかしい!!」
「うん、おかしいね。ペアが決まってる人間があっちこっちにペアの要請をしているんだもん。本当におかしい」
「本当に世は不公平だ!!・・・・・・うん?」
後ろにはアウレリウスがいた。
「アリオン、一応聞くけれどなにをしてるの?」
「・・・皆のペアの意識アンケートを取っている。どういう奴を相手に選んでいるか、とかな」
「面白いね!!あのアリオンがそんなことをしているんだ!!」
笑ってる。顔は笑顔だが目が笑っていない。というかなんで私の場所が分かったんだ。
「聞いたぞアウレリウス。王族は単独参加が許可されてるんだってな。羨ましいよ。さて、1年の私は誰を相手に選んでも言い訳が通る。同じような陰の者を探しに行くかな」
「アリオン。ちょっと来て」
アウレリウスは私の腕を掴み、誘導する。もう夕方になるため、窓から差し込む光は橙を帯びている。そして階段を上り、飛行練の場所がよく見える広いバルコニーに案内される。学園は非常に広いため、私もすべてのエリアを把握できているわけではない。ここには初めて来た。
「・・・危ないな、ここ。柵がないのか」
「うん。飛行訓練の緊急着陸エリアでもあるからね。落ちたらまず助からない場所だよ。だから人は近寄らないんだけど、春告げの儀の隠れ逢引きスポットなんだよ。ほら、景色が綺麗でしょう?」
視界の先には広大な景色が広がっていた。遠くの海ではキラキラと水面が反射し、それが川としてこちらにまで伸びている。とても幻想的な光景だ。アウレリウスは私の手を引いてバルコニーの中央まで移動する。やがて、止まった。
その顔は強張っている。
「アリオン、順序を間違えてごめんね。本当は先にこれを言わなくちゃならなかったんだ」
「アウレリウス?」
アウレリウスは私の前に跪く。そして私の手を取って、唇を落とした。
「アリオン、僕は君が好きだ」
青い双眸が私を射抜く。頬はうっすら紅潮し、緊張が伝わる。
それは、愛の告白だ。
「僕はアリオンと夫婦になって、支えあっていきたい。だから、妃になって欲しい」
言葉も視線もまっすぐだ。真摯に伝えに来る。だからこそ、直球で来られて私は息が詰まった。
「・・・アウレリウス、妃の席には後ろめたいことが無い人間が座るべきなんだよ」
「アリオンはこれまで後ろめたいことを一度でもしたことがある?」
「違う、世間の認識の話だよ。例え学園では意識が変わってきたとて、世間ではそうではない。ローゼルアリオン以上に嫌われている人間がいるか?嫌われてる人間が妃になって、納得できる人間がどこにいるんだ」
仮に私が妃になる未来があったら、それは犯人を殺した後の未来になる。すると魔力は回復し、姿は大人の姿になっているだろう。つまりは、私の生存の真相が世間に知れ渡るのだ。私はアリオンではなく、ローゼルアリオンとして生きていくことになる。
「私を選ぶのはお前の為にならない。足を引っ張ることにしかならない」
「ううん、僕が絶対にアリオンを守るよ。仮に足を引っ張られたって、構わない。君が僕の隣にいてくれたら、それだけでいいんだ。それだけで僕は生きていけるのだから」
これまで私に何度もおねだりをしてきたこの子だが、この件についてだけは首を縦に振れない。それは父子関係でいたいという願いよりも先の、幸せを案じてのものだからだ。私と歩むことは余計な苦労を背負うこと。この子はそんな苦労を想像できていないだけなのだ。
「・・・どうしても、というなら側室にでも愛人にでもなる。だから正妃だけは」
「正妃じゃないと駄目。他には絶対に考えられない。他に娶るくらいなら血を絶えさせるから」
意思は固い。そしてそれを覆すことは正攻法では無理だ。
羽根を返還しなくては。羽根さえ返還できれば、正気に戻ってくれるだろう。
「アウレリウス、これについてはすぐには結論を出せない。待って、くれないだろうか」
今すぐに答えを欲していたようで、少し不満げにしている。けれど否定よりかは進んだと判断してくれる。
「・・・うん、分かった。アリオンにだって考える時間は必要だもんね」
「春告げの儀が終わって、その後の事後処理が終わった後に結論を出すよ。だから待っていて欲しい」
「うん、絶対だからね。あと、春告げの儀のペアは僕と組むんだよ?」
「ああ」
・・・?
あれ?最初に重い条件を提示してから後に軽い条件を提示すると、承諾を貰いやすい交渉のテクニックを使用されなかったか?私は思わずペアの承諾をしなかったか?
「ちょっと待て、ペアってことは実質妃に認識され・・・!」
「楽しみだね、アリオン。衣装も考える必要があるから、今度の休日に一緒に見ようね?」
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