誰が悪役(アリオン)を殺したか

ひまたろう

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後日談 片翼をもがれた不死鳥

A19.新しい命

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「出産予定月の12月よりも早い段階で、戦争が終結したのは僥倖でしたわね。アリオン君には落ち着いたところで赤ちゃんを産んでいただきたいので、心配しておりましたのよ?」

 イヴリン嬢は診察と共に、頬に手を当てて話を振った。

「予定日に、狂いはないのだろうか」
「ええ、ご安心くださいまし。通常は予定日より一週間や二週間ずれることの方が大きのですが、星辰の祝祭前後のあたりになります。ふふ、ここまで正確に日付がわかるのは緑魔法の精度もございますが、アリオン君の日ごろの行いが良いのでしょう。逆子でもありませんし、安心しました」

 イヴリン嬢以外の人間が同様のセリフを言うと嫌味にしか聞こえないが、流石はおっとりとしつつも芯の強さを持つ娘だ。

「わたくしはアリオン君が戦争に行ってしまったと聞いて生きた心地がしませんでしたのよ?妊婦が戦場にいくなんて、わたくし聞いたことがありませんの!!反省してくださいまし!!」

 頬を膨らませてぷんぷんと怒っていた。

「でも、これで後顧の憂いなく大仕事に挑めますわね。もしも奇跡が起こって星辰の祝祭に生まれたら、本当にロマンチックですわ」
「・・・そうだな」

 私は腹帯を付けていない、膨らんでいる腹を撫でる。星辰の祝祭では、昨年アウレリウスと一緒に王宮の屋上で流星群を見た。あの時に子宮を作られるなどハプニングはあったが、それから沢山の出来事があったせいで、それほど時は経っていないにも関わらず、本当に懐かしい思い出だ。

「星辰の祝祭。人間の女性が不死鳥の子を出産したという建国記念の伝説を持つ日。そんな日に王家の新しい命が芽吹くのは、本当にロマンチックですわね」
「すまないな。折角の星辰の祝祭は、君も家族と過ごしたかったろうに」
「いいえ、素敵な瞬間に立ち会えるだろうことは、わたくしの生涯の誇りですわ」

 お腹の子供は私の腹をポコポコと蹴っていた。出産してしばらくすると、私はアークランドに引き渡される。元来出産後というものは交通事故クラスの大ダメージを受けている状態なので、かなりの期間を休む必要があるが、ライゼル王子の光魔法によって元の状態に戻るのはかなり早いと言われた。「私にできるのはそこまでです。本当に、申し訳ございません」と謝罪されたが、心の余裕を持って大仕事に当たれるのは、ライゼル王子の存在が大きいのだ。

 引き渡しの後、私は処刑されるだろう。すると私は残り短い命。そう思うと、新しい家族に会いたいような、まだもう少しお腹にいてほしいような。複雑な思いがこみ上げる。

「アリオン君がこの学校にいること。もう陛下には筒抜けですわよね」
「ああ。ライゼル王子が規定の日まで絶対にアークランド側が立ち入らないように協定をねじ込んでくれたおかげで、なんとか今、こうしていられているが」

 「もしも約束を反故にすることがあれば、ローゼルアリオンを引き止めることは我々はしないと」、念押しをしてくれたらしい。マラカイにはまだそういった協定があったことは伝えてないが、この場にアークランドの面々が転移をしてこないように、二重三重に結界を張ってくれた。

 来月。アウレリウスはここへやってくるだろう。そう思うと、嬉しいような、恐ろしいような、ありとあらゆる感情が一気に押し寄せてくる。

 会いたい。けれども会いたくない。私は考え込むように、うつむいた。そんな私に、穏やかな声がかかる。

「アリオン君は、陛下のこと考えると、ドキドキしますか?」

 イヴリン嬢は座ったまま、私の顔を覗きこむ。

「・・・それは、まあ、あの子のことを考えると、いつもドキドキするよ。息子と思っているから」
「本当ですか?『息子と思い込みたいから』、ではございませんか?」

 イヴリン嬢は立ち上がり、茶を用意し始める。けれど、手を動かしたままゆっくりと話しだす。

「アリオン君が陛下のことを息子と言っていること。わたくしは、アリオン君が何か陛下に対して引け目を感じているから。そう予想いたします」
「・・・まあ、理由はいろいろあるけどな。例えば年齢とか。私の精神年齢的に、今更恋がどうこうではないんだ」
「・・・アリオン君は恋愛苦手そうですものね。過去には相手を断るために、独身を貫くとか発言したこともあるのではとも予想します」

 それはもう、大正解だ。私は独身を貫きたい。それをこんな若い女性に言い当てられるのはいささか恥ずかしいが。
 カップに注がれた茶を、誤魔化すように口に含む。

「思うに、貴方が陛下に向ける感情。そこから息子という思い込みを差し引けば、まるでそれは恋人に向けるものと近しいものがございます。ええ、周りの方々がお二人を恋仲と認識していたのは、決して色眼鏡で見ていたからではございません」
「外野からそう見えても私は」
「それにね。もし陛下を心の底から息子と思っていたのなら、妊娠が発覚した時点で堕ろす決断をしていたと思いますわ」

 イヴリン嬢は残酷にも私に告げる。本当にアウレリウスのことを息子と認識していたのであれば、あの子の子供を産もうなどとは思わなかったはずである、と。その発言は、私の心を深く刺す。何も言い返せないくらい、正論だからだ。

 どうして私は、出産を決めたのだろうか。生まれてくる子の為を思うなら、追われる将来よりも、いっそのこと・・・。
 だというのに、どうして。
 辛い未来が見えているだろうに、どうしてアウレリウスの息子を産んであげたいと、思ったのか。

「ゆっくりお考え下さいまし。でも、自分の心にどうか正直に」

 イヴリン嬢はそれだけ言うと茶を飲み干し、退室していった。


 エデンリーフ魔法学校は、雪の関係もあって冬期の休みが長い。12月が始まると同時に休みに入り、私も残りは出産に備えるだけとなった。一方アバラはここに残っていくらしい。

「ああ、俺は星辰の祝祭はここに残ってくで~。いやな、俺の村のイベントって、ひょっとしたら頭おかしい可能性に気づいたんよ」
「遅くないか?」

 アバラの村の伝統は、雪の上を裸でぶつかるという謎行事である。おそらくこいつも、いろんなことを見聞きして、当たり前と思っていたことを疑えるまでに成長したのだろう。

「おチビはいよいよ出産か~。どこで産むん?久々に安産祈願の舞を踊るで、準備せんとあかんからな」
「なんで私の分娩場所を聞いた?その舞は、ひょっとして同室で行う必要があるとかか?」

 こいつ、まだ謎習慣が根付いている。ロギルジョーに止めてもらうか・・・。

 冬が深まり、星辰の祝祭が近づく。





 そして流星群が夜空を彩るその日。

 時計の針が進むにつれて、痛みの大波が荒れ狂う。体が裂けるような感覚。時計の一秒一秒が、永遠にも思えるような感覚。

 バリバリと、突き破る音が鼓膜を響かせる。
 重く、熱い、柔らかな塊が、世界へと滑り出した。

「ギャーッ!!ギャーッ!!」

 新しい命が誕生した。
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