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後日談 片翼をもがれた不死鳥
A20.罪人
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統制領ガイストは、分割ではなく、アークランドが吸収することになったらしい。当初の予定だった半々で分けるという目的は、残念ながら下手に一国を二つに分けると、デメリットの方が多いと、上の人間が判断したようだ。
「我が国はアークランドに助けられた立場ですからね。正直アークランドが漁夫の利を得た感じはございますが、ガイストを渡すことでアークランドと永劫協定を結べられるのであれば、その方が利がございますので」
代わりに、旧ガイストでとれる鉱石や資源等は、エデンリーフに割引や収益の一部が行くことなど、細かな調整がされるらしい。
終戦から話し合いを経て、いよいよ本日二国の王が一堂に会する。つまり、このエデンリーフに、アウレリウスがやって来ているのだ。通常調印といった場所はそれなりの場所が選ばれるものであるが、アークランド側、いや、アウレリウスはこのエデンリーフ魔法学校で構わないと申し出たらしい。狙いはただ一つ。それがなんなのか、改めて言うまでもない。
別室にて、今まさに調印が行われている最中だ。そしてそれが終わり次第、私はアウレリウスに引き渡しをされる。元来であれば出産間もなくでズタズタの私の体は、しかしライゼル王子の治癒魔法によって今は事なきを得ていた。そして腕の中には、この世で最も愛らしい存在が、私に笑顔を向けてくれていた。
「・・・なあ、お師匠よ。何度も確認するが、別に逃げてもいいんじゃねえか?ライゼル王子たちはあんたの出産を手伝ってはくれたけどよ。義理よりも命の方が大切だって、俺は思うんだけどよ」
「・・・それを理由に、アウレリウスがこの国に攻めてこられたら目覚めが悪い。・・・ああ、よしよし」
私は抱いている赤子・ラークウィルをあやす。
深紅の髪をした、私の子だ。アウレリウスの面影があって、本当に愛らしい。こんな私でも、新たな命を生むことが出来たこと。そのことが今でも泣きそうなほどうれしいのだ。
本当に、愛らしい。小さな額に、口づけを落とす。長く一緒にいたからこそ、出産を終えて違う個体になることが、心の底から寂しい。
「新生児を抱いたまま、逃げ切るのは難しい。でも私の亡きあと、ライゼル王子がラークウィルの面倒を見てくれるらしい。本当はこの子が成長するところを見たかったが・・・」
ラークウィルはしかめっ面をしながら、手を閉じたり開いたりしていた。このような姿を見られるのも、これが最後なのだ。本当に、産むだけ産んで、成長を見てやれない。駄目な親で心の底から申し訳なく思う。
「お前も、せっかく私の弟子になってくれたのに、こんな結末で悪いな」
「・・・まだ、あんたが死ぬとは決まったわけじゃねえだろ」
「アウレリウスが命までは取らないでくれるといいんだけどな。でも、今はこの子をお前に預ける。本当に、迷惑をかけるな」
ラークウィルをロギルジョーに渡す。ロギルジョーも赤子を抱くのは慣れていないのか、緊張しつつも抱き上げた。
「私がラークウィルを愛していたことを、どうかこの子が成長したら伝えてほしい」
「・・・自分で伝えろよ。俺は伝えてやらねえからな」
そういえば学園での戦争前に、渡した遺書を下に投げ捨てられたことがあったな。また同じことをこうして繰り返すなんて、本当に笑える。
そうしてロギルジョーはラークウィルを抱え、部屋を後にする。二人の存在はアウレリウスには見せたくない。故にこの広い部屋にはライゼル王子と、私だけがいた。しかし、ロギルジョーと入れ替わるように、別室から誰かがやってくる。
マラカイだ。険しい表情をしている。
「先生。引き渡しって、どういうお話でしょうか。僕はそんな条件一切聞いていませんが」
「・・・誰だ、お前にそれを喋ったやつは」
「そんなことはどうでもいいです。先生!!僕があの戦争で頑張ったのは出産する先生の身を案じたからであって、守るつもりでいました!でも先生自ら、ご自身の身柄を引き渡すからだなんて、そんなつもりで僕は!!」
例え私の身元がばれても、こいつは万が一の時は遠くに連れていくつもりだったのだ。その覚悟で戦争の参加を認めてくれた。けれど、こうして私自ら引き渡しに応じるのは想定外だったのだ。
けれどそんなマラカイを、手を挙げて言葉を制止する。反対方向の扉から、複数人の足音がするのだ。今は弁論を交わすだけの時間などない。
やがて、扉はゆっくりと開かれた。
アウレリウスだ。
深紅の髪が、前に見た時よりも伸びている。それを、一年前に私が贈った髪紐で結ってあった。話に聞いていた通り、生きる希望をなくしたような、暗い瞳。
しかし、私を視認したとたんに、まるで獲物を見つけた猛獣かのように、その視線はただこちらの一点を凝視する。
アウレリウスの後ろにはロージとレオがいた。二人とも私がここにいることは予想がついていたろうに、しかし実際に私の姿を見て息をのむ。
アウレリウスは私を凝視しながら、瞬きの一つすらせず、距離を縮める。一歩、また一歩と。そのとき、微かに唇が動いた気がした。
『裏切者』
マラカイは私の引き渡しにやはり納得が出来ないようで、守るように無言で私の前に立とうとした。しかし、肩にそっと手を置いて、マラカイを制止する。
やがて、私の目の前にアウレリウスは立った。私は彼の顔を見上げる。
端正なその顔に、感情はない。目に生気も無い。だというのに、突き刺すような執念をこちらに向けていることが肌で感じられる。そしてそんな異様な光景を、周囲の人間は固唾をのんで見守っていた。手は、ゆっくりと私に向けてあげられる。
「光縛」
アウレリウスは、一切の躊躇なく私の首に光魔法を放つ。光縛、それは光による拘束魔法。これを使用されている間、対象は魔法を一切使えなくなる。そう、私の首には、光の環っかが作られた。
首輪だ。まるで、罪人のような扱いだ。引きずることが出来るように一瞬で鎖も作られ、アウレリウスはそれを優しくつかみ、目的は達したとばかりに先ほどやってきた入り口から出ようとした。
「アウレリウス、待て、私はもうお前を置き去りにしないから。だからまずは私の話を・・・」
「アリオンの言葉は鵜呑みにしないことにした」
私の焦る声を、アウレリウスは冷たく遮る。奴隷を引き連れるかのように、私は首輪で誘導される。レオもロージも、流石にここまでするのは想定外だったようで表情は驚いているが、しかし双方とも異論をはさむほどではないと判断したのか、粛々と従っている。
これから、どこに行くのだろうか。そう考えると足が重い。しかし、私の足が止まると抵抗の意があると思ったのか、アウレリウスは鎖を引く。そして部屋から出かかったその時、後ろから誰かが殺気を放っていることに気が付いた。
マラカイだ。
静かに爪をアウレリウスに向けた。
無詠唱。私が止めるよりも早く、マラカイは全身全霊の魔力を込め、光の杭をアウレリウスに向けて解き放った。殺すつもりだ。アウレリウスを殺してでも、私を引き止めるつもりなのだ。
しかし。
その瞬間、アウレリウスは少しだけ身を翻し、嘲るような笑みをマラカイに向けた。
「『報いの光幕』」
マラカイの高純度魔力の光の杭は、自身の敵を殺すために、まっすぐアウレリウスへと飛んだ。詠唱が無に等しいというのは、魔法使いの焦がれる境地。何故なら、魔法使いの最大の弱点が詠唱時間になるのだから。故に、大抵の魔法使いは無詠唱の前に破れる。先制を取られて。
だというのに。
次の瞬間、地面に突っ伏していたのは、アウレリウスではなかった。
「ガ、ハッ・・・!!」
「マラカイ殿!!」
そう、先制が取られれば。先制さえ取られなければ、無詠唱はいとも簡単に敗北する。
アウレリウスはマラカイが攻撃してくることを察して、カウンターの魔法式をあらかじめ組み立てていたのだ。ただ跳ね返すだけではない。受けた攻撃を倍以上に返す防御魔法だ。マラカイは、自分の攻撃が跳ね返されたことに気が付いて自分でも咄嗟に防御をしただろう。しかし、自分の全身全霊を込めた杭が倍以上になったのだ。到底防ぎきれるものではなく、横腹に自分の攻撃を直撃した。
「マラカイ!!」
杭に貫かれ、体が抉れている。これは、早く処置せねば絶対にまずい。近くにいたライゼル王子はマラカイに急いで近づき、同様にマラカイも自分で治癒魔法を展開している。その表情は苦悶に満ちており、その傷でよく冷静に回復魔法を展開できるのか不思議に思うほどだ。
私はマラカイの治療のために走って向かおうとした。私のような微弱な光魔法でも、やれるべきことはある。しかし。
私の鎖を、アウレリウスは大きく引っ張る。首が締まる感覚に、本当に一瞬だけ意識が飛んだ。
「どこへ行こうとした?今の、僕が攻撃を受けた被害者であったにもかかわらず、アリオンはあの男の元へ行こうとしたの?」
「今はそんなことを言っている場合では!!」
「はあ・・・」
アウレリウスはため息とともに、右手を掲げた。そして、鉄で出来た杭が3本、宙に浮かぶ。そしてそれをマラカイに放った。両腕と左太ももにそれぞれ勢いよく刺さる。
「うぐッ・・・!!」
「マラカイ殿!!あ、アウレリウス王、お願いです。マラカイ殿はもう、戦闘の意志はないでしょう!?」
「いいや、僕が後ろを向いた瞬間にその男は僕に最後の力を振り絞って攻撃すると判断した。だから、僕はマラカイ殿の弱点を行使させてもらった」
弱点・・・?
最初に自分の光の杭を受けた時、マラカイは苦しそうながらも光魔法を使えていた。しかし、先ほどのアウレリウスの攻撃を受けた途端に、光魔法は途絶えた。確かに鉄の杭が両足、腕の三本刺さるのは辛いだろう。けれど、抉れている方が遥かに辛いはずで、杭だけでマラカイの強靭な意思が挫ける物だろうか。
「アハハ、アハハハ・・・!!アリオンはマラカイ殿の正体を知らないんだね。王家の祖が不死鳥であるように、彼も遡ると人外なんだよ。彼は・・・いや、彼のルーツは妖精族。ただの平民があれだけ魔法に造詣が深く、卓越した才能を有するわけがない」
妖精族。フェニックス同様に伝説の種族。人前に現れず、人間とその文明を嫌う種。マラカイのルーツが、妖精だったというのか?
それにしては、あまりに人間に近すぎる。
「僕も人型は初めて見たけれど、どこからか妖精と人間が交わったんだろうね。やがて一つの系統が人型に近づいていき、ある世代で人里に降りてきたのがマラカイ殿なんじゃないかな?」
妖精は人間の文明を嫌うため、特に鉄を弱点とする。だからアウレリウスは鉄を打ち込んだ。マラカイは服飾に鉄はつけている故に、触れるだけでは問題ではない。しかし、体に直接打ち込まれるのはかなりの痛手なのだろう。マラカイは荒い呼吸をして汗をかきながら、アウレリウスを睨みつける。
「思うに、どこかでアリオンを知って一方的に恋をして、追ってくるために人間社会に紛れてきたんだろうね。でも、肝心の思い人は自分の正体すら考察してくれない。アリオンは、お前に全く興味を持たなかった!!だから正体を聞いた今、こうして驚愕しているんだ」
アウレリウスは、勝ち誇ったようにマラカイを嘲笑う。そして私の鎖を引いて、今度こそ退室を促す。けれど、マラカイをあのままにはしておくのは気が引け、私の体は重かった。
・・・アウレリウスは、そんな私を冷たい瞳に映す。
「アリオンがここに残るというのなら、あの男を今度こそ殺す。死んでしまえばアリオンは悔いなくここを去れるよね?」
断腸の思いでマラカイから視線を外し、そして退室した。こうして私は、アウレリウスに捕まってしまったのだ。
「我が国はアークランドに助けられた立場ですからね。正直アークランドが漁夫の利を得た感じはございますが、ガイストを渡すことでアークランドと永劫協定を結べられるのであれば、その方が利がございますので」
代わりに、旧ガイストでとれる鉱石や資源等は、エデンリーフに割引や収益の一部が行くことなど、細かな調整がされるらしい。
終戦から話し合いを経て、いよいよ本日二国の王が一堂に会する。つまり、このエデンリーフに、アウレリウスがやって来ているのだ。通常調印といった場所はそれなりの場所が選ばれるものであるが、アークランド側、いや、アウレリウスはこのエデンリーフ魔法学校で構わないと申し出たらしい。狙いはただ一つ。それがなんなのか、改めて言うまでもない。
別室にて、今まさに調印が行われている最中だ。そしてそれが終わり次第、私はアウレリウスに引き渡しをされる。元来であれば出産間もなくでズタズタの私の体は、しかしライゼル王子の治癒魔法によって今は事なきを得ていた。そして腕の中には、この世で最も愛らしい存在が、私に笑顔を向けてくれていた。
「・・・なあ、お師匠よ。何度も確認するが、別に逃げてもいいんじゃねえか?ライゼル王子たちはあんたの出産を手伝ってはくれたけどよ。義理よりも命の方が大切だって、俺は思うんだけどよ」
「・・・それを理由に、アウレリウスがこの国に攻めてこられたら目覚めが悪い。・・・ああ、よしよし」
私は抱いている赤子・ラークウィルをあやす。
深紅の髪をした、私の子だ。アウレリウスの面影があって、本当に愛らしい。こんな私でも、新たな命を生むことが出来たこと。そのことが今でも泣きそうなほどうれしいのだ。
本当に、愛らしい。小さな額に、口づけを落とす。長く一緒にいたからこそ、出産を終えて違う個体になることが、心の底から寂しい。
「新生児を抱いたまま、逃げ切るのは難しい。でも私の亡きあと、ライゼル王子がラークウィルの面倒を見てくれるらしい。本当はこの子が成長するところを見たかったが・・・」
ラークウィルはしかめっ面をしながら、手を閉じたり開いたりしていた。このような姿を見られるのも、これが最後なのだ。本当に、産むだけ産んで、成長を見てやれない。駄目な親で心の底から申し訳なく思う。
「お前も、せっかく私の弟子になってくれたのに、こんな結末で悪いな」
「・・・まだ、あんたが死ぬとは決まったわけじゃねえだろ」
「アウレリウスが命までは取らないでくれるといいんだけどな。でも、今はこの子をお前に預ける。本当に、迷惑をかけるな」
ラークウィルをロギルジョーに渡す。ロギルジョーも赤子を抱くのは慣れていないのか、緊張しつつも抱き上げた。
「私がラークウィルを愛していたことを、どうかこの子が成長したら伝えてほしい」
「・・・自分で伝えろよ。俺は伝えてやらねえからな」
そういえば学園での戦争前に、渡した遺書を下に投げ捨てられたことがあったな。また同じことをこうして繰り返すなんて、本当に笑える。
そうしてロギルジョーはラークウィルを抱え、部屋を後にする。二人の存在はアウレリウスには見せたくない。故にこの広い部屋にはライゼル王子と、私だけがいた。しかし、ロギルジョーと入れ替わるように、別室から誰かがやってくる。
マラカイだ。険しい表情をしている。
「先生。引き渡しって、どういうお話でしょうか。僕はそんな条件一切聞いていませんが」
「・・・誰だ、お前にそれを喋ったやつは」
「そんなことはどうでもいいです。先生!!僕があの戦争で頑張ったのは出産する先生の身を案じたからであって、守るつもりでいました!でも先生自ら、ご自身の身柄を引き渡すからだなんて、そんなつもりで僕は!!」
例え私の身元がばれても、こいつは万が一の時は遠くに連れていくつもりだったのだ。その覚悟で戦争の参加を認めてくれた。けれど、こうして私自ら引き渡しに応じるのは想定外だったのだ。
けれどそんなマラカイを、手を挙げて言葉を制止する。反対方向の扉から、複数人の足音がするのだ。今は弁論を交わすだけの時間などない。
やがて、扉はゆっくりと開かれた。
アウレリウスだ。
深紅の髪が、前に見た時よりも伸びている。それを、一年前に私が贈った髪紐で結ってあった。話に聞いていた通り、生きる希望をなくしたような、暗い瞳。
しかし、私を視認したとたんに、まるで獲物を見つけた猛獣かのように、その視線はただこちらの一点を凝視する。
アウレリウスの後ろにはロージとレオがいた。二人とも私がここにいることは予想がついていたろうに、しかし実際に私の姿を見て息をのむ。
アウレリウスは私を凝視しながら、瞬きの一つすらせず、距離を縮める。一歩、また一歩と。そのとき、微かに唇が動いた気がした。
『裏切者』
マラカイは私の引き渡しにやはり納得が出来ないようで、守るように無言で私の前に立とうとした。しかし、肩にそっと手を置いて、マラカイを制止する。
やがて、私の目の前にアウレリウスは立った。私は彼の顔を見上げる。
端正なその顔に、感情はない。目に生気も無い。だというのに、突き刺すような執念をこちらに向けていることが肌で感じられる。そしてそんな異様な光景を、周囲の人間は固唾をのんで見守っていた。手は、ゆっくりと私に向けてあげられる。
「光縛」
アウレリウスは、一切の躊躇なく私の首に光魔法を放つ。光縛、それは光による拘束魔法。これを使用されている間、対象は魔法を一切使えなくなる。そう、私の首には、光の環っかが作られた。
首輪だ。まるで、罪人のような扱いだ。引きずることが出来るように一瞬で鎖も作られ、アウレリウスはそれを優しくつかみ、目的は達したとばかりに先ほどやってきた入り口から出ようとした。
「アウレリウス、待て、私はもうお前を置き去りにしないから。だからまずは私の話を・・・」
「アリオンの言葉は鵜呑みにしないことにした」
私の焦る声を、アウレリウスは冷たく遮る。奴隷を引き連れるかのように、私は首輪で誘導される。レオもロージも、流石にここまでするのは想定外だったようで表情は驚いているが、しかし双方とも異論をはさむほどではないと判断したのか、粛々と従っている。
これから、どこに行くのだろうか。そう考えると足が重い。しかし、私の足が止まると抵抗の意があると思ったのか、アウレリウスは鎖を引く。そして部屋から出かかったその時、後ろから誰かが殺気を放っていることに気が付いた。
マラカイだ。
静かに爪をアウレリウスに向けた。
無詠唱。私が止めるよりも早く、マラカイは全身全霊の魔力を込め、光の杭をアウレリウスに向けて解き放った。殺すつもりだ。アウレリウスを殺してでも、私を引き止めるつもりなのだ。
しかし。
その瞬間、アウレリウスは少しだけ身を翻し、嘲るような笑みをマラカイに向けた。
「『報いの光幕』」
マラカイの高純度魔力の光の杭は、自身の敵を殺すために、まっすぐアウレリウスへと飛んだ。詠唱が無に等しいというのは、魔法使いの焦がれる境地。何故なら、魔法使いの最大の弱点が詠唱時間になるのだから。故に、大抵の魔法使いは無詠唱の前に破れる。先制を取られて。
だというのに。
次の瞬間、地面に突っ伏していたのは、アウレリウスではなかった。
「ガ、ハッ・・・!!」
「マラカイ殿!!」
そう、先制が取られれば。先制さえ取られなければ、無詠唱はいとも簡単に敗北する。
アウレリウスはマラカイが攻撃してくることを察して、カウンターの魔法式をあらかじめ組み立てていたのだ。ただ跳ね返すだけではない。受けた攻撃を倍以上に返す防御魔法だ。マラカイは、自分の攻撃が跳ね返されたことに気が付いて自分でも咄嗟に防御をしただろう。しかし、自分の全身全霊を込めた杭が倍以上になったのだ。到底防ぎきれるものではなく、横腹に自分の攻撃を直撃した。
「マラカイ!!」
杭に貫かれ、体が抉れている。これは、早く処置せねば絶対にまずい。近くにいたライゼル王子はマラカイに急いで近づき、同様にマラカイも自分で治癒魔法を展開している。その表情は苦悶に満ちており、その傷でよく冷静に回復魔法を展開できるのか不思議に思うほどだ。
私はマラカイの治療のために走って向かおうとした。私のような微弱な光魔法でも、やれるべきことはある。しかし。
私の鎖を、アウレリウスは大きく引っ張る。首が締まる感覚に、本当に一瞬だけ意識が飛んだ。
「どこへ行こうとした?今の、僕が攻撃を受けた被害者であったにもかかわらず、アリオンはあの男の元へ行こうとしたの?」
「今はそんなことを言っている場合では!!」
「はあ・・・」
アウレリウスはため息とともに、右手を掲げた。そして、鉄で出来た杭が3本、宙に浮かぶ。そしてそれをマラカイに放った。両腕と左太ももにそれぞれ勢いよく刺さる。
「うぐッ・・・!!」
「マラカイ殿!!あ、アウレリウス王、お願いです。マラカイ殿はもう、戦闘の意志はないでしょう!?」
「いいや、僕が後ろを向いた瞬間にその男は僕に最後の力を振り絞って攻撃すると判断した。だから、僕はマラカイ殿の弱点を行使させてもらった」
弱点・・・?
最初に自分の光の杭を受けた時、マラカイは苦しそうながらも光魔法を使えていた。しかし、先ほどのアウレリウスの攻撃を受けた途端に、光魔法は途絶えた。確かに鉄の杭が両足、腕の三本刺さるのは辛いだろう。けれど、抉れている方が遥かに辛いはずで、杭だけでマラカイの強靭な意思が挫ける物だろうか。
「アハハ、アハハハ・・・!!アリオンはマラカイ殿の正体を知らないんだね。王家の祖が不死鳥であるように、彼も遡ると人外なんだよ。彼は・・・いや、彼のルーツは妖精族。ただの平民があれだけ魔法に造詣が深く、卓越した才能を有するわけがない」
妖精族。フェニックス同様に伝説の種族。人前に現れず、人間とその文明を嫌う種。マラカイのルーツが、妖精だったというのか?
それにしては、あまりに人間に近すぎる。
「僕も人型は初めて見たけれど、どこからか妖精と人間が交わったんだろうね。やがて一つの系統が人型に近づいていき、ある世代で人里に降りてきたのがマラカイ殿なんじゃないかな?」
妖精は人間の文明を嫌うため、特に鉄を弱点とする。だからアウレリウスは鉄を打ち込んだ。マラカイは服飾に鉄はつけている故に、触れるだけでは問題ではない。しかし、体に直接打ち込まれるのはかなりの痛手なのだろう。マラカイは荒い呼吸をして汗をかきながら、アウレリウスを睨みつける。
「思うに、どこかでアリオンを知って一方的に恋をして、追ってくるために人間社会に紛れてきたんだろうね。でも、肝心の思い人は自分の正体すら考察してくれない。アリオンは、お前に全く興味を持たなかった!!だから正体を聞いた今、こうして驚愕しているんだ」
アウレリウスは、勝ち誇ったようにマラカイを嘲笑う。そして私の鎖を引いて、今度こそ退室を促す。けれど、マラカイをあのままにはしておくのは気が引け、私の体は重かった。
・・・アウレリウスは、そんな私を冷たい瞳に映す。
「アリオンがここに残るというのなら、あの男を今度こそ殺す。死んでしまえばアリオンは悔いなくここを去れるよね?」
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