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後日談 片翼をもがれた不死鳥
A27.エンドロールのその先で
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「・・・い!!おーい!!」
霞む視界。光は強引に瞼の隙間から差し込むように入り込む。そして同時に、近くで誰かが私を呼ぶ声がする。
私を呼ぶ人間など、数限られている。知り合い自体が少ないのだ。それもこんなにフランクに呼んでくる人間なんて、何人いると思うんだ。
「お師匠!!大丈夫かー!?」
ロギルジョーの声。横に寝そべる私の顔を上から覗き込んでいた。私が倒れているところは固い地面で、視界の向こうには海が広がっていた。
ここは、以前にも来たことがある。ジェルドが住んでいる場所の、小さな村のはずれだ。
・・・私は確か、アウレリウスの胸の中で息を引き取ったはず。だというのに、何故ここにいるのか。
「まさかお前・・・」
「ああ、大成功だな。不死鳥の守り」
ロギルジョーは満面の笑みとともに、私にピースをする。私はふらふらする体を強引に起こし、ずかずかと近寄ってはロギルジョーを殴る。
「痛ぁ!!何するんだよ!!せっかく助けてやったのに!!」
「お前、お前は、バカか!!なんでお前たち兄弟は大事な命を人に簡単に渡すんだ!!これではお前はもう・・・」
「死んだとて、もう二度と復活は出来なくなった。でも、だからどうしたってんだよ」
ロギルジョーは堂々と、私に向き合う。
「人間、死を経験するのは一度きり。それが普通の人間ってもんだぜ。だっていうのに、俺たち王族は半端に復活できるせいで、やや投げやりに生きてしまう。大事な一回きりの人生に向き合うことを忘れがちなんだよ」
「それは暗殺の恐れがあるから、仕方のないことだろう」
「魔法使いっていうのは壊れたもんを簡単に直せるだろう?だから壊すことに躊躇がない。同様に、延命チケットを持っている俺たちも、命を軽視しがちなんだろうな。だから、実のところ、俺は早めにこの守りを捨てたいとは考えてたんだよ」
「だからと言って!!」
「それに言ったじゃねえか。あんたについていく以上は死んでも後悔ははねえって」
ロギルジョーは照れ臭そうに、視線を外しながら話す。やがて優しい表情と共に、私に向き直った。
「俺たちの中心に、あんたと、兄貴がいたんだ。だから、あんたらがいないとつまんねえだろ?」
私は師匠として、未熟なところもあっただろう。けれど、ロギルジョーはそんな私のことを慕ってくれたのだ。
・・・だから、私が今すべきことは、責めることではない。
「ありがとうロギルジョー。お前のお陰で、助かった」
「おうよ」
エデンリーフでの私の身柄の引き渡すことを決定した後、ロギルジョーは就寝している私に、事前に不死鳥の守りをこっそりと仕込んだのだろう。起きている時だと絶対受け取らないと見込んで。
しかし、私が連れ去られてここで待っていても私は一行に現れない。故に、アウレリウスは私を殺すためではなく、ただ閉じ込めているのだと推理した、あたりだろう。それでも念のためにここで待っていたのだ。
「それで、あんたはどうして死んだんだ?」
「・・・・・・」
死因は、光の首輪。つまりは、私はアウレリウスによって殺された、ということになる。けれど、あの子はそんなこと知らなかった。そして今頃、私の亡骸を抱え、絶望している頃だろう。急いで転移で戻らなければ。私は無事であることを、急いで伝えなければ。
しかし。
そんな私の次の行動を読んでいるかのように、ロギルジョーは私の手を掴んだ。
「兄貴の元へ行くんだよな?その前に悪いが、確認させてほしい」
「・・・何をだ」
「あんたは兄貴のことをどう思っている?もし息子のように愛しているのであれば、兄貴の元へ行くことは俺が許さない」
鋭いまなざしを向けてくる。相手は弟子であるにもかかわらず、一瞬威圧される。
「あんたがここで行かなければ、兄貴は自死するだろうよ。好きな相手が自分のせいで命を落とした。もうこの世に生きる理由なんてないだろう。でも、あんたがもし、行って以前のように息子のように扱えば、兄貴にとって、死ぬより辛いことだって俺は思う。好きな人がそばにいるのに、自分を永遠に受け入れてくれねえんだから」
私は何も言い返せない。
その通りだ。本当に。こいつなりに沢山考えて、その上で止めているのだ。
「二度目の人生は兄貴のお陰だから、自分の人生を兄貴に捧げるっつったよな。なら三度目の人生は、俺に起因している。であれば、あんたは俺の意向に沿って選択してもらう。兄貴を伴侶として扱えるのであれば俺は見送る。でも、そうでないのなら、ここで阻止させてもらう。その権利が俺にはある」
本当にこいつは、ぶっきらぼうで、でも優しい奴だな。お前の師匠になれて、よかったと心の底から思うよ。
「大丈夫だ。私を信じろ」
「・・・捕まっている間に、心変わりでもあったのか?」
「ああ、あったよ。たくさんあった」
私の表情が穏やかなことを見て、ロギルジョーは拘束を外した。
「最後に一つだけ言っておくけどよ。不死鳥の羽根に番契約の効果はねぇぜ。兄貴はあんたのことが、心の底から好きなんだよ。出会ったときから、今でもずっと」
「なんでそれが分かるんだ?」
「俺があんたに羽根を渡したのに、師匠以上の感情が湧かねえからだよ」
つまり、洗脳も契約解除も、そんなものなどどこにもなかった。学園で過ごしたあの子からの親愛の情は、心から湧いて出ていたものだった。いや、そんな真相を知らずとも、私からあの子に向ける愛は変わらない。
遠回りをして、さらに遠回りをして。そしてその果てにようやく答えを得た。本当に、なんて愚かな奴の物語なのだろうか。
「私が妃になったら、お前をこき使ってやる」
「ああ!!楽しみに待ってるぜ!!」
私は魔法学園に向けて転移した。
すると視界の先に、足元に花畑が広がっていた。死の間際に、ぼやける視界として見た光景だ。色鮮やかな景色が、美しい。そんな花畑の中央に、アウレリウスはいた。私の亡骸を強く抱え、揺さぶり、涙声を上げる。
「アリオン、ごめん、ごめんなさい、アリオン・・・。僕が、僕のせいで・・・!!」
泣きじゃくりながら私の体をゆする。私の返答を待って、僅かな望みを期待して。けれども私は命を落とした。もう二度とその瞼が開くことはない。そして私の肌に手を当てて、低くなっていく体温を実感し、少しでも温めようと肌を摺り寄せる。
「僕は、君がいれば、もう、それ以上は何も望まないから!息子って見られるのも受け入れるよ、だから、お願い。目を、覚まして、死なないで・・・!!お願い、もう一度、僕に笑って・・・!!」
悲痛な叫び。私の体にしがみつく。それはまるで、初めて私の訃報が流れた際に墓標にしがみついていたあの時のようだ。慟哭は離れているこちらにも伝わる。一心不乱に、アウレリウスは懺悔の言葉を口にしていた。
そして現実を受け止めきれず、ただ涙を溢すことしかできないのである。
「なんでもするから、どんなお願いだって聞き入れるから、お願い、お願い、アリオン・・・!!」
好きな相手と共に歩んで、ただ相手を幸せにしたかった。それがどういうわけか歪み、やがて強引な手段に出てしまった。その結果がこれ。
誰が私を殺したのか。
その事実が自分である重みを正面から受け取り、呼吸も荒くなっていた。
私の亡骸を揺する力も、段々と弱くなっていく。けれど、やがて亡骸の懐から何かが落ちる。涙をこぼすアウレリウスは、落ちたそれを見る。
臙脂の羽根だ。
「・・・・・・赤い、羽根?」
アウレリウスは綺麗な羽根を手に取る。そして、後ろから近づく私の足音に気が付いた。
「ア、リオ、ン?」
幻を見るような目を向けられる。死んだと思った相手が、自分のすぐ後ろに立っているのだ。頭がオーバーワークしているのか、アウレリウスは目を見開いて固まっていた。のろのろと立ち上がり、まるで蜃気楼に焦がれた旅人のように、苦しげな表情をしながら私に手を伸ばす。幻であれば、再び絶望に落とされる。故に、近づいてはいるが、触りたくないような、まだ希望を抱いていたいような、そんなすがるような眼差しだ。
だから私は、駆け寄って抱きしめた。そして口づけをした。ただ触れるだけの、優しいキスを。
「ア、リオ、ン・・・」
「ただいま、アウレリウス」
ここでやっと、私が一命をとりとめたことが分かったのだろう。私の背中に手を這わせ、実体があることを確認する。何度も何度も触り、夢でないことを確かめる。けれど、アウレリウスの表情は晴れない。
「アリオン、ごめんなさい、ごめんなさい・・・!!僕、僕は・・・!!」
自分のしでかした罪の重さを受け入れきれず、まるで私から離れるようにもがく。けれど、私は腕を回して離れないようにくっついた。
「僕は、アリオンを、殺して、しまった。ごめん、なさい、本当に、ごめんなさい」
死因が光の首輪であることに思い至ったのだろう。落ち着かせるように、ゆっくりと話しかける。
「でも、最後に私を信じてくれた。だから首輪を外してくれたのだろう。そうでなかったら私は今頃子供の姿になっていて、お前を殺さなくては生き永らえないという、以前とそっくりな状況になっていた」
「違う、違う。それだけじゃ、ないんだ。僕の罪は、それだけじゃなくアリオンを2回・・・」
「いいんだよ。何を抱えていても、私はお前にならめった刺しにされようが、受け入れる。私はアウレリウスに恋をしているから、どんなことをされたって許してしまうんだよ」
パニックになっていたアウレリウスを優しく撫で、少しずつ呼吸も落ち着かせていく。そして今度は深い口づけをした。舌を入れ、互いの温度を敏感な場所で確かめ合う。
「アウレリウス、好きだよ」
「・・・・・・」
「あの日のプロポーズの答えを、ここまで引き伸ばしにして心の底から申し訳なく思ってるよ。でも、もし。お前がまだ私を愛してくれているのであれば、人生を共に歩んでほしい」
アウレリウスは答えない。ただか弱く私を抱きしめ、静かに涙を流していた。
「アリオンの心を無下にしたこと、本当にごめんなさい」
「別にいい」
「妊娠させておいて、隣にいなくて本当にごめんなさい」
「気にしなくていいから」
「いつも下心のままに動いてしまって、本当に、本当に・・・」
「うるさい!!私は今、一世一代の告白したんだ!!懺悔はいいから答えをよこせ!!」
アウレリウスの止まらない謝罪を強引に止め、返事を促す。少し苦笑いをした後に、私に口づけをした。
「愛してる。アリオン。もう絶対にアリオンのことを傷つけないし、誰にも傷つけさせないから」
「・・・それで?」
「む、今のが答えなんだけどな」
「はっきり言ってくれないと、コミュ障の私には分からない」
「ふふ。愛してるよ。一緒に生きていこう。今度こそ」
空には青空が広がり、下には色とりどりの綺麗な花畑。長い長い旅の果て。私たちはその中心で、やっと結ばれたのだ。
霞む視界。光は強引に瞼の隙間から差し込むように入り込む。そして同時に、近くで誰かが私を呼ぶ声がする。
私を呼ぶ人間など、数限られている。知り合い自体が少ないのだ。それもこんなにフランクに呼んでくる人間なんて、何人いると思うんだ。
「お師匠!!大丈夫かー!?」
ロギルジョーの声。横に寝そべる私の顔を上から覗き込んでいた。私が倒れているところは固い地面で、視界の向こうには海が広がっていた。
ここは、以前にも来たことがある。ジェルドが住んでいる場所の、小さな村のはずれだ。
・・・私は確か、アウレリウスの胸の中で息を引き取ったはず。だというのに、何故ここにいるのか。
「まさかお前・・・」
「ああ、大成功だな。不死鳥の守り」
ロギルジョーは満面の笑みとともに、私にピースをする。私はふらふらする体を強引に起こし、ずかずかと近寄ってはロギルジョーを殴る。
「痛ぁ!!何するんだよ!!せっかく助けてやったのに!!」
「お前、お前は、バカか!!なんでお前たち兄弟は大事な命を人に簡単に渡すんだ!!これではお前はもう・・・」
「死んだとて、もう二度と復活は出来なくなった。でも、だからどうしたってんだよ」
ロギルジョーは堂々と、私に向き合う。
「人間、死を経験するのは一度きり。それが普通の人間ってもんだぜ。だっていうのに、俺たち王族は半端に復活できるせいで、やや投げやりに生きてしまう。大事な一回きりの人生に向き合うことを忘れがちなんだよ」
「それは暗殺の恐れがあるから、仕方のないことだろう」
「魔法使いっていうのは壊れたもんを簡単に直せるだろう?だから壊すことに躊躇がない。同様に、延命チケットを持っている俺たちも、命を軽視しがちなんだろうな。だから、実のところ、俺は早めにこの守りを捨てたいとは考えてたんだよ」
「だからと言って!!」
「それに言ったじゃねえか。あんたについていく以上は死んでも後悔ははねえって」
ロギルジョーは照れ臭そうに、視線を外しながら話す。やがて優しい表情と共に、私に向き直った。
「俺たちの中心に、あんたと、兄貴がいたんだ。だから、あんたらがいないとつまんねえだろ?」
私は師匠として、未熟なところもあっただろう。けれど、ロギルジョーはそんな私のことを慕ってくれたのだ。
・・・だから、私が今すべきことは、責めることではない。
「ありがとうロギルジョー。お前のお陰で、助かった」
「おうよ」
エデンリーフでの私の身柄の引き渡すことを決定した後、ロギルジョーは就寝している私に、事前に不死鳥の守りをこっそりと仕込んだのだろう。起きている時だと絶対受け取らないと見込んで。
しかし、私が連れ去られてここで待っていても私は一行に現れない。故に、アウレリウスは私を殺すためではなく、ただ閉じ込めているのだと推理した、あたりだろう。それでも念のためにここで待っていたのだ。
「それで、あんたはどうして死んだんだ?」
「・・・・・・」
死因は、光の首輪。つまりは、私はアウレリウスによって殺された、ということになる。けれど、あの子はそんなこと知らなかった。そして今頃、私の亡骸を抱え、絶望している頃だろう。急いで転移で戻らなければ。私は無事であることを、急いで伝えなければ。
しかし。
そんな私の次の行動を読んでいるかのように、ロギルジョーは私の手を掴んだ。
「兄貴の元へ行くんだよな?その前に悪いが、確認させてほしい」
「・・・何をだ」
「あんたは兄貴のことをどう思っている?もし息子のように愛しているのであれば、兄貴の元へ行くことは俺が許さない」
鋭いまなざしを向けてくる。相手は弟子であるにもかかわらず、一瞬威圧される。
「あんたがここで行かなければ、兄貴は自死するだろうよ。好きな相手が自分のせいで命を落とした。もうこの世に生きる理由なんてないだろう。でも、あんたがもし、行って以前のように息子のように扱えば、兄貴にとって、死ぬより辛いことだって俺は思う。好きな人がそばにいるのに、自分を永遠に受け入れてくれねえんだから」
私は何も言い返せない。
その通りだ。本当に。こいつなりに沢山考えて、その上で止めているのだ。
「二度目の人生は兄貴のお陰だから、自分の人生を兄貴に捧げるっつったよな。なら三度目の人生は、俺に起因している。であれば、あんたは俺の意向に沿って選択してもらう。兄貴を伴侶として扱えるのであれば俺は見送る。でも、そうでないのなら、ここで阻止させてもらう。その権利が俺にはある」
本当にこいつは、ぶっきらぼうで、でも優しい奴だな。お前の師匠になれて、よかったと心の底から思うよ。
「大丈夫だ。私を信じろ」
「・・・捕まっている間に、心変わりでもあったのか?」
「ああ、あったよ。たくさんあった」
私の表情が穏やかなことを見て、ロギルジョーは拘束を外した。
「最後に一つだけ言っておくけどよ。不死鳥の羽根に番契約の効果はねぇぜ。兄貴はあんたのことが、心の底から好きなんだよ。出会ったときから、今でもずっと」
「なんでそれが分かるんだ?」
「俺があんたに羽根を渡したのに、師匠以上の感情が湧かねえからだよ」
つまり、洗脳も契約解除も、そんなものなどどこにもなかった。学園で過ごしたあの子からの親愛の情は、心から湧いて出ていたものだった。いや、そんな真相を知らずとも、私からあの子に向ける愛は変わらない。
遠回りをして、さらに遠回りをして。そしてその果てにようやく答えを得た。本当に、なんて愚かな奴の物語なのだろうか。
「私が妃になったら、お前をこき使ってやる」
「ああ!!楽しみに待ってるぜ!!」
私は魔法学園に向けて転移した。
すると視界の先に、足元に花畑が広がっていた。死の間際に、ぼやける視界として見た光景だ。色鮮やかな景色が、美しい。そんな花畑の中央に、アウレリウスはいた。私の亡骸を強く抱え、揺さぶり、涙声を上げる。
「アリオン、ごめん、ごめんなさい、アリオン・・・。僕が、僕のせいで・・・!!」
泣きじゃくりながら私の体をゆする。私の返答を待って、僅かな望みを期待して。けれども私は命を落とした。もう二度とその瞼が開くことはない。そして私の肌に手を当てて、低くなっていく体温を実感し、少しでも温めようと肌を摺り寄せる。
「僕は、君がいれば、もう、それ以上は何も望まないから!息子って見られるのも受け入れるよ、だから、お願い。目を、覚まして、死なないで・・・!!お願い、もう一度、僕に笑って・・・!!」
悲痛な叫び。私の体にしがみつく。それはまるで、初めて私の訃報が流れた際に墓標にしがみついていたあの時のようだ。慟哭は離れているこちらにも伝わる。一心不乱に、アウレリウスは懺悔の言葉を口にしていた。
そして現実を受け止めきれず、ただ涙を溢すことしかできないのである。
「なんでもするから、どんなお願いだって聞き入れるから、お願い、お願い、アリオン・・・!!」
好きな相手と共に歩んで、ただ相手を幸せにしたかった。それがどういうわけか歪み、やがて強引な手段に出てしまった。その結果がこれ。
誰が私を殺したのか。
その事実が自分である重みを正面から受け取り、呼吸も荒くなっていた。
私の亡骸を揺する力も、段々と弱くなっていく。けれど、やがて亡骸の懐から何かが落ちる。涙をこぼすアウレリウスは、落ちたそれを見る。
臙脂の羽根だ。
「・・・・・・赤い、羽根?」
アウレリウスは綺麗な羽根を手に取る。そして、後ろから近づく私の足音に気が付いた。
「ア、リオ、ン?」
幻を見るような目を向けられる。死んだと思った相手が、自分のすぐ後ろに立っているのだ。頭がオーバーワークしているのか、アウレリウスは目を見開いて固まっていた。のろのろと立ち上がり、まるで蜃気楼に焦がれた旅人のように、苦しげな表情をしながら私に手を伸ばす。幻であれば、再び絶望に落とされる。故に、近づいてはいるが、触りたくないような、まだ希望を抱いていたいような、そんなすがるような眼差しだ。
だから私は、駆け寄って抱きしめた。そして口づけをした。ただ触れるだけの、優しいキスを。
「ア、リオ、ン・・・」
「ただいま、アウレリウス」
ここでやっと、私が一命をとりとめたことが分かったのだろう。私の背中に手を這わせ、実体があることを確認する。何度も何度も触り、夢でないことを確かめる。けれど、アウレリウスの表情は晴れない。
「アリオン、ごめんなさい、ごめんなさい・・・!!僕、僕は・・・!!」
自分のしでかした罪の重さを受け入れきれず、まるで私から離れるようにもがく。けれど、私は腕を回して離れないようにくっついた。
「僕は、アリオンを、殺して、しまった。ごめん、なさい、本当に、ごめんなさい」
死因が光の首輪であることに思い至ったのだろう。落ち着かせるように、ゆっくりと話しかける。
「でも、最後に私を信じてくれた。だから首輪を外してくれたのだろう。そうでなかったら私は今頃子供の姿になっていて、お前を殺さなくては生き永らえないという、以前とそっくりな状況になっていた」
「違う、違う。それだけじゃ、ないんだ。僕の罪は、それだけじゃなくアリオンを2回・・・」
「いいんだよ。何を抱えていても、私はお前にならめった刺しにされようが、受け入れる。私はアウレリウスに恋をしているから、どんなことをされたって許してしまうんだよ」
パニックになっていたアウレリウスを優しく撫で、少しずつ呼吸も落ち着かせていく。そして今度は深い口づけをした。舌を入れ、互いの温度を敏感な場所で確かめ合う。
「アウレリウス、好きだよ」
「・・・・・・」
「あの日のプロポーズの答えを、ここまで引き伸ばしにして心の底から申し訳なく思ってるよ。でも、もし。お前がまだ私を愛してくれているのであれば、人生を共に歩んでほしい」
アウレリウスは答えない。ただか弱く私を抱きしめ、静かに涙を流していた。
「アリオンの心を無下にしたこと、本当にごめんなさい」
「別にいい」
「妊娠させておいて、隣にいなくて本当にごめんなさい」
「気にしなくていいから」
「いつも下心のままに動いてしまって、本当に、本当に・・・」
「うるさい!!私は今、一世一代の告白したんだ!!懺悔はいいから答えをよこせ!!」
アウレリウスの止まらない謝罪を強引に止め、返事を促す。少し苦笑いをした後に、私に口づけをした。
「愛してる。アリオン。もう絶対にアリオンのことを傷つけないし、誰にも傷つけさせないから」
「・・・それで?」
「む、今のが答えなんだけどな」
「はっきり言ってくれないと、コミュ障の私には分からない」
「ふふ。愛してるよ。一緒に生きていこう。今度こそ」
空には青空が広がり、下には色とりどりの綺麗な花畑。長い長い旅の果て。私たちはその中心で、やっと結ばれたのだ。
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