誰が悪役(アリオン)を殺したか

ひまたろう

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後日談 片翼をもがれた不死鳥

真最終話 春が告げるその日

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「まったく国民共め。人のことをこれまで散々悪のカリスマだの言っておいて、脅威を退けたり、他国で暴れまくったとたんに手のひら返して称賛しよって」
「そのわりに嬉しそうじゃねえか。お妃サマ」
「うるさい!!その小馬鹿にした呼び方をやめろ!!」

 豪奢な服を身にまとい、私は不貞腐れながら王宮の自室で新聞を捲っていた。元来であれば天鳥宮には王と妃以外に立ち入れないが、私を蘇生するという大偉業を達成したとのことで、ロギルジョーは天鳥宮のこの国王夫婦の部屋の立ち入りをアウレリウス直々に許可されていた。

「いやでも、嬉しくねえな。自分の師匠と兄貴がくっついて、その愛の巣に立ち入るなんて、完全に召使いみてえな扱いじゃねえか俺」
「それにしては嬉しそうだね。ロギルジョー」
「うお、兄貴!?」

 私の部屋に、今度はアウレリウスが現れた。今日は、国民に新王家のお披露目をする日だ。故に、私も渋々ではあるが、アウレリウスの隣に立つ。今アウレリウスに腕に抱かれている、ラークウィルとともに。

「おっとと、ラークウィル、よしよし。泣かないで」
「随分泣き虫だよな。まるでガキの頃の兄貴みてえ」
「アウレリウスを昔泣かせたのはお前だろうが!!」

 私はロギルジョーのすねを蹴る。蹴られたロギルジョーは痛いといいつつも、表情は笑顔で楽しそうだ。

「・・・ところでアウレリウス。その髪、どうしたんだ?」
「えへへ、スッキリしたでしょ?」

 アウレリウスの長く後ろに結ばれていた髪は、バッサリ切られていた。そういえば、私と夫婦になれたら切るとか言っていたが。

「わ、私はお前の綺麗な、長い髪が、好きだったのに・・・」
「願掛けは終わったんだから、切らないとね」
「いっそのこと私も切ろうかな」
「アリオンは駄目!!」

 不貞腐れた顔をしながら、私を見る。マラカイと言い、私の髪にやたら熱心になる人間が多いな。最近思うんだが、私の悪役の印象はこの長い髪もあるような気がする。私がちらちら鋏を見ていると、アウレリウスはラークウィルを抱えたまま鋏への視線を遮ってくる。ラークウィルは私の髪に向かって手を伸ばす。

「ほら、この子もアリオンの長い髪を気に入ってるから!小さなお手々を伸ばしてるでしょ?」
「僕もせんせーの髪が大好きですー!!」
「うわ!!マラカイ!?」

 話していると私の背後に、もう一人の弟子が現れる。そのまま私に抱き着いてきたため、アウレリウスはとっさにマラカイに蹴りを入れた。

「なにすんだ小僧!!僕と先生のイチャイチャをいつもいつも邪魔して!!」
「間男はお前だ!!僕たちの夫婦の時間を邪魔しているのも全部お前!!というか、ここは国王夫婦以外立ち入り禁止だから出ていけ!!」

 マラカイは魔塔主。今日は貴賓として正式に呼ばれているため、身なりは整っている。言動はふざけているのは相変わらずだが。

「あー先生。小僧が僕をいじめてきます。僕はこの間の攻撃で横腹に穴をあけられ、今でも傷が疼くのに、あいつは謝罪の一つもないんですよ・・・」
「僕は向けられた攻撃を跳ね返しただけだけど?自業自得だろ」

 マラカイは私にすり寄る。一度念話でマラカイに状態を確認したところ、全く返事が来ないことがあった。故に心配していたのだが、ライゼル王子の助力もあって何とか助かったという。先制攻撃はマラカイだったとはいえ、アウレリウスに仕返しを考えないでいるその心は師としてとてもうれしい。

「マラカイ、傷を見せてみろ」
「え?」

 仕立ての良い服に手を伸ばし、患部の確認をしようと腹のあたりのボタンをはずそうとした。

「え?せんせ?」
「あ、アリオン!?」

 アウレリウスはラークウィルをロギルジョーに渡し、ロギルジョーは面倒くさそうにこの部屋から去って行った。一方のマラカイは私の行動を想像しておらず、顔を真っ赤にして固まっている。

「ストップ!!アリオン、その先は浮気だからね!!」
「いや、私は傷を確認しようと・・・」

 マラカイはとっさに私から身を離し、衣服を直す。

「ぼ、僕は、その、人間とは言え妖精の系譜ですから、あんな攻撃くらい、だ、大丈夫ですから・・・」
「魔法攻撃への耐性が強いんだよな。でも、鉄を筆頭とした物理攻撃には弱いのだったか。そうか、見るべきは杭が刺さった部分か。脱がすぞ」
「ア、アリオン!!浮気はやだ!!」
「ぼぼぼ、僕は大丈夫ですから!!」

 マラカイは自分の体を抱えるようにして顔を真っ赤にしている。こいつ、人に散々下心をぶつけておいて、いざこちらから肌を見せるように指示すると恥じらうのか。なんなんだお前は。

「ほら、さっさと故郷へ帰りなよ。言動を人間に合わせられないマラカイ殿には、人間界は早いから」
「ああ?所詮鳥の一族風情が、人間共の頂点に立ってるってだけで、調子に乗るなよ」

 妖精と不死鳥がバッチバチである。

 なお、軍部が弱まった結果、国内では魔塔の影響力が増大した。私がジェルドに刺されて亡くなったと思われたことで平民のマラカイに座が移り、一度は国民からの恐怖心は薄れた。しかし、軍部のたくらみが露わになると、今度は軍と同等以上の力を持っている魔塔への恐怖が以前よりも上がったのである。

 しかし私が妃であれば、私とマラカイは師弟関係である以上は王家の下に魔塔がくるという序列になる。こういうこともあって、世間は私の妃に非常に歓迎的であった。そういうつもりでこいつを任命したわけではないのだがな・・・?

「よし、そろそろ時間だ。行こうとするか」
「はーい!!」
「お前は来るな!!貴賓エリアに行ってこい!!」

 私の命令に渋々従い、マラカイは離れていった。

「じゃあロギルジョーに退避してもらっていたラークウィルを拾いに行くね」
「そうだな」

 アウレリウスは隣室に行く。丁度その時、視界に何か鮮やかなものをかすめる。

 窓枠に、メッセージカードとカンパニュラの花が添えられていた。

『幸せを祈っている』

 名前はないが私だから分かる筆跡。ジェルドに違いない。あいつ、ここまでやって来て、これを置いて行ったのか。見つかったらどうするつもりだったんだ。お前はもう死んだことにしているのに。

 けれど、あたたかな気持ちがこみあげる。そういえば学園時代に私の訃報が流れた時、あいつはカンパニュラの花を供えてくれた。カンパニュラの花言葉は、「感謝」「誠実な愛」。直接言葉にできない不器用な奴だから、こうして表現するしかなかったのだろう。

「お待たせ!・・・ん?どうしたの、アリオン」
「え、あ、いや、なんでもない!!」

 咄嗟にカードを隠す。カンパニュラは・・・胸元に飾ることにした。

「んん・・・アリオンにその花は、いまいち似合ってないような・・・。どことなく、こう、ムカつくような・・・」
「私はこの花が好きだから、飾らせてくれ」
「うん・・・まあ、いいよ・・・」

 私はラークウィルをアウレリウスから抱き上げる。そしてアウレリウスに先導され、テラスにやってきた。

 新王の戴冠式後、私は下から見上げ、アウレリウスが立っていた場所だ。今度はそこに私たちはいた。下からは国民たちの歓声が聞こえる。目に魔力を込めてよく見ると、元気そうなアバラとそれにあきれているレオ、拍手をしているロージといった知り合いを見つける。

 雲一つない綺麗な青空で、私たちは並び立った。誰一人こちらに負の感情をぶつけてこない、本当に輝かしい出発だ。

 今日は三月とはいえまだ肌寒い時期。しかし、どこからか風が吹いた。温かい風だ。自然の風ではない。誰かが魔法で作った風だと思う。温かい風というのは、魔法式を同時に構築する必要があるため、非常に難易度が高い。しかしそれが優しく吹き、やがて周辺の蕾をならす木々の間を通り、高所であるこちらまで届く。

「見ろよ、木々から花が咲いたぞ」
「不死鳥がほほ笑んだんだ!!」

 新王家のお披露目とともに春が来た。暖かな空気が民たちを包み、目の前で起こった奇跡に、誰もが湧いた。

「アリオン、これからは、ううん。今度こそ、絶対に一緒だからね」
「ああ。もう二度と離れないから」


 魔法が進んだ国、アークランド。
 政治形態に変化が訪れるその時代、最も優れた名君がいた。その名をアウレリウス。

 特権階級への疑惑の視線が集う難しい時代であったにも関わらず、議会、選挙といった先を読む手腕から、最も民に慕われた王と称えられる。周辺国との諍いも早々に収め、有名な魔法使いを沢山抱えるその戦力にもかかわらず、信頼されていたという。

 その隣には、とても不器用な妃がいた。言葉選びが苦手なのか、時に世間を騒がせることもあったが、やがて民たちは「またか」と笑って受け流していたという。

 不死鳥の国は、その名の通り永遠に栄えた。


 終
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みんなの感想(2件)

かん
2026.02.17 かん

めっちゃ面白かったです!
切ないの大好物で、終盤の方は切なくて涙出てきました😭
好みドンピシャでした!

2026.02.17 ひまたろう

かんさん初めまして!お読みいただき光栄です!!好みと言っていただけて本当に嬉しいです・・・!!
こちらこそご感想頂きありがとうございました

解除
ちろくま
2026.02.16 ちろくま

最高に面白かったです😆私のドツボにハマりました!止まらなくて徹夜読了(笑)最後はハピエン感動しました✨
素敵な物語をありがとうございます これからも応援しております💐🙂‍↕️

2026.02.16 ひまたろう

ちろくまさん初めまして!この度は読了いただきありがとうございました!!こちらこそ、ありがたいお言葉をいただけて嬉しいです。ご感想頂きありがとうございました!!

解除

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