プリエスティラ新農場物語

ひまたろう

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2章 血染めの首飾り

雑貨屋に行こう!!

「よお、久しぶりだな」

 悪徳領主の時期継承者にして赤毛の放蕩息子、シュトルムがやってきた。

 このゲームの主人公となり、一週間が経った。
 ニンジンの収穫が軌道にのり、今日も家の中はニンジンでいっぱいだった。
 とれたてのニンジンはとてもおいしく、農作業の合間の栄養補給として食べていたところにシュトルムが襲来したのである。
 向こうも用がなければわざわざ会いにはこないだろう。なんだろうと思い、俺は生野菜を咀嚼しながらシュトルムを見つめた。

「お前…。毎日ニンジンを生で食ってんのか?」

 シュトルムは俺が食べているニンジンをじっとみた。

「お暇なところ来ていただき大変恐縮ですが・・・・・・・・・・・あげませんよ?」
「いらねえよ!俺の目が物乞いに見えたのか!?」

 というか暇ってなんだ!怒ったのかげしっっと蹴られる。食事中になんたる野蛮行為。
 シュトルムは自身の頭をがしがしと掻き、そんなことじゃなくてなあ、といいながら溜息をし、話を続ける。

「いやなあ、金づるが家賃滞納でもされたら迷惑だからなあ?仕方がねえから様子を確認しに来たっつーわけだ」
「闇金業者でそうやって暖かく債務者を育てるっていうやり方聞いたことがあります」
「れっきとした公権力だが?」
「確認ですが、家賃の支払い日っていつでしょうか」
「一か月ごとだな」

 一か月ごと。ゲーム上では1季節に1度という言い方だったが、今わざわざ一か月と言った。
 やはり、10万ゴールドもタイムリミットは四か月と認識しておいた方がいいだろう。

 ドラゴンの素材、10万ゴールドを入手した。しかし、家の建て替え費用、井戸や柵、農具などの農場系統の修繕、もろもろに大半を持っていかれた。一部建築素材はここのレンガを使用する予定だが、7万ゴールドはくだらないそうだ。これでもアウトーメルが相当にまけてくれたと聞く。

(でも、家がボロボロだと襲撃イベントがあるからなあ)

 長期的にみて金銭は必要だが、だからと言って決して足元もおろそかにしてはいけない。
 農場の設備をアップグレードしていけば、かならず元手よりも何倍もの収益を得られるはずなのだ。
 まずは来る一か月おきの家賃2000ゴールド…。いや、6割増しだから3200ゴールドか。
 収益を計算し、無理なく進めていこう。

 部屋の中には栄養が偏っている光景しか広がっていなかったため、シュトルムはボソッと、まずはニンジン以外の食物を買えよと呟いた。それが出来るならとっくにそうしている。余計なお世話だ。

「あ、よければ畑に案内しましょうか?」

 俺はニンジンを食べ終え、すっと立ち上がる。

「いや、いい。あんな暑苦しいもの、見ていて何が楽しいんだ?」

 暑苦しいもの?ああ、騎士のことか。

「人を雇えるとは結構なご身分になったなお前。でもなあ、雇った相手に甲冑着させて太陽の下で鍬をふらせるって、お前、さすがの俺も引くぞ」
「いえ、なんども引っぺがそうとしたのですが、聞かないんです」

 衛生的にどうなの?と尋ねるとスラリス曰く浄化魔法を使用しているそうだ。
 いや、まだ春だけど熱中症も心配だから…と尋ねると、スラリス曰く火山エリアでの戦闘に比べたら涼しいものだそうだ。
 このニンジンおいしいからいかが?と渡すと、ぺこりと一礼して受け取って何処か別の場所で食べたらしい。

「春ですから変な人が湧くのも仕方ないのかなあと思います。」
「なんでそこで俺を見るんだ?」
「いえ」

 不服そうな顔をしたのち、じゃあ、次は30日の取り立ての日にやってくるからな、とだけ残し、シュトルムは去って行った。本当に確認に来ただけだったのか。数十秒後にまたシュトルムは顔を出す。3200ゴールドだからな!と叫び、また去る。どれだけ信用がないんだ。

 俺も外に出て、畑に向かう。今日は街でやりたいことがあるのだ。

「スラリス!これからお買い物に行くけれど、よかったらスラリスもいく?」
「うん!おいらどこにでもついてくぜ!」

 スラリスは今日もきらきらした体をしており、とてもかわいらしい。そしてスラリスとともに作業をしていた騎士にも声をかける。

「これから俺たち、買い物に行くのですが、騎士さんは休んでいてください。何か欲しいものありますか?」

 騎士は首を横に振り、ついていくというジェスチャーをする。

「ええ、でも面白いものでもないとは思うのですが」

 騎士は再び首を横に振る。絶対ついていくという強固な意志を感じる。
 スラリスははやく行きたいのか、ぴょんぴょんアピールをしている。

「で?どこに行くんだ?」
「ふふふ…今日はな…。雑貨屋にいくんだ!!」

 ----------------------------------------------------------------------------

 俺は休憩に入る前に、一度格好を綺麗にした。農作業中は農作業用の服を着ていたのだが、今から行くところを考えれば綺麗な服で行きたい。毎日愛用しているこの麦わら帽子にも似合うような紳士服を買っておいたのだ。

「雑貨屋って行くの初めてだよな!プリマヴェーラの兄ちゃんが経営してるんだよな?」

 俺と騎士とスラリスの三人、雑貨屋に向っている。騎士は雑貨屋に行くと知った途端、鎧越しでも分かるほど落胆していた。「だから楽しい場所ではないですから」といったのだが、やはりついていくとがんと聞かない。

「でもなんで雑貨屋行くのに格好を綺麗にしたんだ?種とか買うなら別に作業着のほうがいいんじゃないか?」
「へへ・・・それはね…」

 着いた。雑貨屋だ。木造の建築で、二階建てとなっている。俺は店のドアを引き、店内に入る。
 すると、店内に優しい笑顔でこちらに微笑む男性が、いた。

「いらっしゃいませ」

 レインさんだ。レインさんがいる…!!!

 藍のレイン。婿候補の一人。雑貨屋を営んでいる。
 やや緩くウェーブした短く青い髪を持ち、黒縁の眼鏡を着用している。泣きボクロが特徴で、笑ったときにかわいらしく目元と頬がくしゃっとなる男性だ。

 そしてなにより重要なのが、ゲームをプレイしていた時、俺が結婚相手に選んだ人だ。そのたおやかなしぐさに俺は一目ぼれしたのだ。

 ついでに婿人気投票部門は最下位の5位です。俺はこの結果に納得いっておりません。
 曰く「フツメンなのよね」「身長があるわけでもないし」「なんか、性格も個性に欠けるというか」ということで票が伸び悩んだらしい。
 悪口の書き込みに対してこらえきれなかった俺はネチネチ反論し、BANを食らったことがある。男は中身と反論していただけなのに何故だったのだろうか。

 やはり癖のあるゲームには癖のある人間が集うと言うかなんというか。


「レインさん!お久しぶりです…!!」

 俺はレインさんの手を両手で包む。
 勝手に手を触られることにレインは困惑した。

「え・・・っと、ごめんなさい。初対面の間違いではありませんか?」
「俺です、ルナリオです!プリマヴェーラの友達の、ルナリオです」

 いけない、俺の視点では長年連れ添った伴侶だが、向こう視点ではただの他人だった。つい浮かれてしまい勝手に身体にさわるという失礼なことをしてしまった。
 明らかに変わった俺のテンションに、スラリスから冷めた視線を感じる。騎士からも鎧越しにかわいそうなものを見るたぐいの視線を感じる。レインさんは窓から外の様子を伺い、警備隊がいないかの確認をしている。痴漢と勘違いされてる。
 手を握る行為は失礼な行為と判断したのか、騎士は俺の肩を優しくつかみ、レインさんから引きはがした。

「ごめんなさい、俺。テンションが上がってしまって。俺一人があなたを存じ上げていますから、変に見えましたよね」
「いえ、話には伺っております。妹の友達なのですよね?」

 レインさんは優しく微笑み、俺の非を咎めなかった。こういうところ。こういうところが魅力的なのだ。他の婿候補も見習ってほしい。
 騎士は俺の肩に手を置き、俺が変なことをしないか警戒している。これほど疑われる雇い主もなかなかいないのではないだろうか。

「それで、本日はいかがいたしましたでしょうか」
「いつものやつをお願いします」
「申し訳ございません。本日が初来店でしたよね?」

 とはいえ妹から農家ということは聞いていたのか、多分種のことだろうと品を机に並べてくれた。

「スラリス、今日からにんじん以外の違う作物も作っていこうか」
「おいらニンジン大好きだけど、他の作物も大好きだぞ!」
「その・・・レインさんからおすすめってありますでしょうか?」
「初心者ですときゅうりあたりがおすすめですね」


 きゅうりの良いところは、何度も収穫が出来るところにある。
 通常大抵の作物は実ったら耕地にもどるが、きゅうりのようなつる野菜の類は何度も収穫が可能となり、労力という点でも嬉しい作物だ。
 なおきゅうりは夏野菜だが、季節を外しても育ちが遅いだけというデメリットで終わる。

 レインさんは業者向けにまとめ買いができるよう、準備はしてあるようだ。
 俺はいまだに俺の肩を掴んでいる騎士の顔を覗き込む。騎士はこくんとうなずいた。
 どちらかというとこの空間から早く出たいような気配もする。だから家にいて欲しいといったのに。

 騎士はまとめ売りの箱を持ち上げ、すぐにかえろうとする準備をする。
 仕方がない、次からは一人でこよう。俺は財布を取り出す。

「おいくらでしょうか?」
「60ゴールドです」
「え?もう一度いってください」
「60ゴールドです」

 きゅうりの種は一袋2ゴールドじゃなかっただろうか。それがまとめ売り20袋40ゴールド。
 計算に間違いはないはずだ。しかし想定の1.5倍は高い。
 一瞬ぼったくりを疑ったが、レインはそのようなことをするタイプの人間ではないことは俺は誰より知っている。

「ええ、関税分です。」
「関税?」

 関税が導入されていた事実が確かか、自分の記憶を思い出してみる。いや、覚えがない。
 記憶を探るが、物価が変動したという要素などなかったはずだ。
 そういえば、攻略動画を見ていた際に、特定のルートに進む際に取り返しがつかない行為、みたいな警告動画が出ていた気がする。特定の期間だけ買い物をしてはならないみたいな…。確か…シュトルムの恋愛ルートだったような…

「え?俺、シュトルムルート行ってないよね?」

 最近のゲームはジェンダーに配慮し、同性婚も難なくできるようになっている。故に油断をすると普通に男と結婚ルートに行ってしまうのだ。 
 あの時ニンジンを渡さなかったことが「おもしれえ奴」判定を受けたのだろうか。いやいやいや。

 意地をはらずにあの時素直に渡していればよかった。でも手元にあった綺麗なニンジンは、使い道があったから渡せなかったのだ。

「実はこの関税は、隣国から取り寄せたものに強制的にかかるもので、先月から導入されたものなのです」

 その言葉に安心した。ふう、シュトルムルートという名の、体のいい奴隷扱いはまっぴらごめんだ。たとえ俺は途中で元の世界に帰るとしても、絶対嫌だ。
 あざを作ってくる男より、俺は俺のあざを心配そうに撫でてくれる男性のほうが好みなのだ。

「先月から…?」

 俺は先月の事情を存じないため、困惑する。

「領主様が突然公表されました。隣国に頼っている物資も非常に多いですので、もう、街の中は反対デモで大騒ぎでしたよ」

 スラリスの方をみると、スラリスもうんうん、とうなずいていた。

「とはいえニンジンだけでやっていけるほど俺も余裕のある状況ではないですし、分かりました。60ゴールドですね」

 俺はお金を取り出し、レインさんの手の上にぱらぱらとコインを渡す。レインさんは枚数を数え、丁度の額であることを確認すると笑みを浮かべ、俺に頭を下げた。

「それとレインさん。」

 騎士がドアを開けたにもかかわらず、俺はレインさんに別れの挨拶をしようとする。

「これ…うちで取れたとてもきれいなニンジンなんです。よろしかったらどうぞ」
「え、ええ。ありがとうございます」
「お好きですよね?ニンジンしりしり」
「確かに好きですが、なぜご存じなんですか?」
「いつでも無料でお渡しいたしますので、ご入用の時は遊びに来てくださ・・・あ、ちょっと!」

 騎士は一旦外に種を置き、俺をレインさんから引っぺがした。

「待って、この世界の結婚候補って全員受け身だから!なぜなら主人公が告白イベントを起こして選ぶ側だから!!!だから俺、贈り物を贈ってもっとレインさんとお話して関係を深めないと!!!」

 スラリスも俺の誘導に協力を始めた。昨日の友は今日の敵。
 あきらめませんからねレインさん。
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