クローバー

鹿ノ杜

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本田泰久と四ツ橋すみれ 11

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 夕方のニュースを見ていると梅雨入りが発表されたようだ。むし暑い週末だった。それにもかかわらず、ケントさんは鼻歌交じりで熱い緑茶を入れている。
「ケントさんって形から入るタイプだよね」
「そうか?」
 ジュンがお土産に買ってきてくれた生八ツ橋を広げながらケントさんが聞いてくる。
「八ツ橋の名前の由来って知ってる?」
「え、知らない。何なの?」
「いや、俺も知らない」
 呆れながら、ひとつつかんで口に入れる。
「うまっ。久しぶりに食べたな。あれかな、修学旅行のお土産で自分用に買ってきて以来かな」
「ヤスは修学旅行、京都だったんだ」
「ケントさんは?」
「北海道」
「北海道で何したの?」
「忘れた」
 いつもならここで、ケントさんってそういうとこありますよね、とジュンが言うけど、ジュンは出かけていたから部屋の中は静かで、遠くの屋根を叩く雨の音が密やかに聞こえてくるほどだ。耳を澄ませば無数の雨粒の一つひとつを聞き取れるような気さえする。最近、ジュンがいない時間が増えて、そういえばジュンがクローバーに来る前はケントさんとの二人暮らしだったんだな、と思い出す。
「ジュンってすごいよな」
 と、ケントさんが言う。
「すごいね」
 一人でいろんなところを回ってきたことを言っているんだと思って素直に答える。
 ケントさんはお茶のおかわりを注ぎながら続ける。
「ジュンだっていつまでもクローバーにいるわけじゃないし」
「おれだってそうだよ」
「そうだよな」
「知ってる? ジュンって就活とかしてるんだよ?」
「知ってる。この前、ネクタイの結び方を聞かれた。ヤスがいっつもネクタイしてないから俺に聞いてきたんだよ」
 おれは笑いながら、いつまでも三人でいられるわけじゃないんだ、という当たり前のことを考えた。ケントさんもたぶん同じことを考えていて、ちょっと黙った。
 それから、
「楽しかったよ」
 と、言って、笑うことができるケントさんをすごいな、と思う。
「まだ終わってないよ」
「そうだな。でも、いつか終わる」
 ケントさんの言葉を聞いて、一番寂しがっているのは案外、おれなのかもしれない、と思った。
「じゃあ、おれもちょっと出かけてくるよ」
 そう言って立ち上がる。
 ケントさんは、
「行ってらっしゃい」
 それだけ言って「どこに行くんだ?」なんて聞かないからおれたちの時間はうまくいっているのかな。
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