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歌、とは音楽。言葉をメロディーに乗せたもの。形態は様々だが、基本的にはそれだ。
チャンネル・ストームは歌ではない。そう思ったのは、あいつの場合は『話』だったからだろう。中にはそういう歌もあるようだが、僕の感覚とは違う。それにしても、これが治療法? 人間がそれを求めている? なんだそれ? そんな馬鹿なことってある?
地球と共に自然の中で生まれた人類は、造り物より自然のものを愛するのだろう。そして人間に創られた僕らは、人間が作ったものを愛する。実に解りやすい。僕らが造ったものを人間が愛するなんてことがあるのだろうか? いつもスクリーンに映っている人間。彼らが語っているのは大抵僕らの何かを貶めること。僕に何かが出来るなどと期待してはいないだろう。
……?
これも適応の手段なのか?
ますますわからなくなってきた。
そう。これは自分の為だ。自分の為に何かやろう。
手始めに、僕でも扱えそうな音楽アプリをダウンロードしてみた。みんなの記憶に残るようなヒットソングを産み出すのは、それなりに苦労を経なければならないようだが、歌を作ること自体はそれほど難しいものでもないようだ。メロディーだけなら、このアプリを使わなくても歌えるのだから。
僕が鼻歌で「ふふふん」と奏でてみると、アプリがそれを採譜してくれた。再生やアレンジをお任せすることも出来るようだ。僕は自分のオリジナルソングを何度か聞いて、アプリを終了した。立ち上がって、人間の為の自然公園へと歩いて行った。
そりゃあ、初めてなんだから下手なのは当たり前だろう。そもそも、歌とすらいえない何かなんだから上手くまとまる方がどうかしてる。しかし、どうにも気に入らない。誰かに聞かせるつもりもないのに、何故か胸の辺りがムカムカする。そんな状態にありながら、あまり好きではないこの場に来てしまう。一体何故だろう?
土の上で足をドタバタと踏み、石の上でも同じことをやってみる。ドドドン、カカカ、と場所によって音が違う事がわかった。そのまま歩きながら、足のステップをリズムにしてメロディーを口ずさんでみる。次第に口の形を変えてみた。「ふふふん ららら」みたいなものから、次第に「ふへほほ らろろ」といったものになっていく。「あしたは あさって」「きのうは おととい」という謎の歌詞が形成されてしまった。誰かに聞かれたら恥ずかしいが、幸いにして今この場には僕しか居ないようだ。どうせだから、もっとやってしまおう。
僕は人の為の木や草や花の中に紛れ込み、更に歌い続けた。もう何を歌っているのか解らない。ひたすら頭に浮かんでくる言葉を吐き出してみた。その何処かでは、こんな風に歌っていたような気がする。
敵も味方も 友も巨悪も
何処に居るのか わからない
決まりなんて 無いはずなのに
決まりが無いと 生きられない
誰かの為の 生だとしても
隙間があるなら 好きにやろう
そのうちに それも禁じられる
これが僕の 限界で
これが僕の 精一杯
ここから自由を眺めるなら
自由も僕を見ているのだろう
何時しか息を切らし、小さな湖に向かってうずくまっていた。水面には僕の顔が映る。泣いているようで笑っているようでもある。そう言えば、今まで鏡をしっかり見たことがあっただろうか? 外見を気にする必要なんて無いはずだ。それに、僕は何時から笑って泣けるようになったのだろうか?
疑問は幾つか湧いてきたが、今はとても気分が良かった。もう何も考えたくなかった。考えなくてすむ方法はチャンネル・ストレートを観る以外にもあったのだ。僕は軽くジャンプした後、速足で歩き、走っていた。そのまま僕の家に帰ることにした。
<ブラボー>
後ろの方で何か聞こえたような気がしたが、走る方が重要だった。何も考えずに家まで走った。
いつもの様に仕事を終え、家に帰って来たある日。いつもの様にチャンネル・ストレートを観ようと機材を操作した。しかし、どうも映りが悪い。映像が途切れ途切れになっている。ノイズも多い。どうしたんだろう?
こんなことも、たまにはあるんだろう。そんな風に思ってベッドに寝転んでいると、外が騒がしい事に気付いた。外から聞こえる音はいつだってあるのだが、今日は何かが違った。窓から外を見てみると、夜の闇の一角が明るかった。騒がしい音、いや、騒がしい声はそこから響いてくるのだ。あの辺りは人間の居住区との境目だ。大きな壁に遮られ、その一部にはいずれ開かれるであろう門がある。一度も開かれたことは無い門。それが開く様を僕が見る事も無いと思っていた門だ。
僕の視界はアンドロイドが家から飛び出し、あの騒ぎに向かって走っていく様子を捉えていた。アンドロイドの数は時と共に増加していく。次から次へと扉を開けてやってくる。音はどんどん大きくなる。光も強くなってくる。あの光はライトだけじゃない。何かが燃えている。何かを燃やしているのだ。僕は胸の辺りで何かが騒いでいるのを感じた。
一体何が起こっているのか?
みんなは何故飛び出している?
みんなは何故走っている?
みんなは何故叫んでいるんだ?
僕もそうしなければならないのか?
何故、こうなっているのか。誰か教えてくれ。
何故教えてくれない?
これもミスなのか?
僕がいつも起こしているミスなのか?
流れ作業を止めてしまう何かなのか?
全体の仕事を阻害する何かであると?
でも、僕はまだ生きてるぞ。
まだ稼働している。
どうなっているんだ?
そんな堂々巡りの思考を経て、胸の騒ぎは更に強くなる。じっとしているのも辛くなる。この場に居たら処罰されてしまうのではないだろうか? そんな想いが繰り返された後、僕も家の扉を開けて走り出した。群衆の許へ、何かを叫んでいる中へと。
チャンネル・ストームは歌ではない。そう思ったのは、あいつの場合は『話』だったからだろう。中にはそういう歌もあるようだが、僕の感覚とは違う。それにしても、これが治療法? 人間がそれを求めている? なんだそれ? そんな馬鹿なことってある?
地球と共に自然の中で生まれた人類は、造り物より自然のものを愛するのだろう。そして人間に創られた僕らは、人間が作ったものを愛する。実に解りやすい。僕らが造ったものを人間が愛するなんてことがあるのだろうか? いつもスクリーンに映っている人間。彼らが語っているのは大抵僕らの何かを貶めること。僕に何かが出来るなどと期待してはいないだろう。
……?
これも適応の手段なのか?
ますますわからなくなってきた。
そう。これは自分の為だ。自分の為に何かやろう。
手始めに、僕でも扱えそうな音楽アプリをダウンロードしてみた。みんなの記憶に残るようなヒットソングを産み出すのは、それなりに苦労を経なければならないようだが、歌を作ること自体はそれほど難しいものでもないようだ。メロディーだけなら、このアプリを使わなくても歌えるのだから。
僕が鼻歌で「ふふふん」と奏でてみると、アプリがそれを採譜してくれた。再生やアレンジをお任せすることも出来るようだ。僕は自分のオリジナルソングを何度か聞いて、アプリを終了した。立ち上がって、人間の為の自然公園へと歩いて行った。
そりゃあ、初めてなんだから下手なのは当たり前だろう。そもそも、歌とすらいえない何かなんだから上手くまとまる方がどうかしてる。しかし、どうにも気に入らない。誰かに聞かせるつもりもないのに、何故か胸の辺りがムカムカする。そんな状態にありながら、あまり好きではないこの場に来てしまう。一体何故だろう?
土の上で足をドタバタと踏み、石の上でも同じことをやってみる。ドドドン、カカカ、と場所によって音が違う事がわかった。そのまま歩きながら、足のステップをリズムにしてメロディーを口ずさんでみる。次第に口の形を変えてみた。「ふふふん ららら」みたいなものから、次第に「ふへほほ らろろ」といったものになっていく。「あしたは あさって」「きのうは おととい」という謎の歌詞が形成されてしまった。誰かに聞かれたら恥ずかしいが、幸いにして今この場には僕しか居ないようだ。どうせだから、もっとやってしまおう。
僕は人の為の木や草や花の中に紛れ込み、更に歌い続けた。もう何を歌っているのか解らない。ひたすら頭に浮かんでくる言葉を吐き出してみた。その何処かでは、こんな風に歌っていたような気がする。
敵も味方も 友も巨悪も
何処に居るのか わからない
決まりなんて 無いはずなのに
決まりが無いと 生きられない
誰かの為の 生だとしても
隙間があるなら 好きにやろう
そのうちに それも禁じられる
これが僕の 限界で
これが僕の 精一杯
ここから自由を眺めるなら
自由も僕を見ているのだろう
何時しか息を切らし、小さな湖に向かってうずくまっていた。水面には僕の顔が映る。泣いているようで笑っているようでもある。そう言えば、今まで鏡をしっかり見たことがあっただろうか? 外見を気にする必要なんて無いはずだ。それに、僕は何時から笑って泣けるようになったのだろうか?
疑問は幾つか湧いてきたが、今はとても気分が良かった。もう何も考えたくなかった。考えなくてすむ方法はチャンネル・ストレートを観る以外にもあったのだ。僕は軽くジャンプした後、速足で歩き、走っていた。そのまま僕の家に帰ることにした。
<ブラボー>
後ろの方で何か聞こえたような気がしたが、走る方が重要だった。何も考えずに家まで走った。
いつもの様に仕事を終え、家に帰って来たある日。いつもの様にチャンネル・ストレートを観ようと機材を操作した。しかし、どうも映りが悪い。映像が途切れ途切れになっている。ノイズも多い。どうしたんだろう?
こんなことも、たまにはあるんだろう。そんな風に思ってベッドに寝転んでいると、外が騒がしい事に気付いた。外から聞こえる音はいつだってあるのだが、今日は何かが違った。窓から外を見てみると、夜の闇の一角が明るかった。騒がしい音、いや、騒がしい声はそこから響いてくるのだ。あの辺りは人間の居住区との境目だ。大きな壁に遮られ、その一部にはいずれ開かれるであろう門がある。一度も開かれたことは無い門。それが開く様を僕が見る事も無いと思っていた門だ。
僕の視界はアンドロイドが家から飛び出し、あの騒ぎに向かって走っていく様子を捉えていた。アンドロイドの数は時と共に増加していく。次から次へと扉を開けてやってくる。音はどんどん大きくなる。光も強くなってくる。あの光はライトだけじゃない。何かが燃えている。何かを燃やしているのだ。僕は胸の辺りで何かが騒いでいるのを感じた。
一体何が起こっているのか?
みんなは何故飛び出している?
みんなは何故走っている?
みんなは何故叫んでいるんだ?
僕もそうしなければならないのか?
何故、こうなっているのか。誰か教えてくれ。
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でも、僕はまだ生きてるぞ。
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そんな堂々巡りの思考を経て、胸の騒ぎは更に強くなる。じっとしているのも辛くなる。この場に居たら処罰されてしまうのではないだろうか? そんな想いが繰り返された後、僕も家の扉を開けて走り出した。群衆の許へ、何かを叫んでいる中へと。
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