Re!ignited [Wind Knight]

葉隠一

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 マサミは自分が答えを求められていることに、話しかけられていることにしばらく気付かなかった。そして気付いた後も沈黙を続けていた。このような状況が自分の人生において稀であると共に、人との関りが苦手であることが合わさり、妖力車の女性を見つめながら口を半開きにしている他無かったのだ。

「ねえ、聞いてる?」
「う、うん」

 ようやく声を発することが出来た。それと共に、マサミは頷く。

「じゃあ、答えて。ワタナベと闘ったのはあなたなの?」
「そ、そう、だよ……」

 そう言った後にマサミは少し悔やんだ。もしかしたら、答えをはぐらかしたり、違う事を言ってこの女性を避けた方が良かったのではないか。そんな風に思った。しかし、彼女の問いに答えてしまった。ここから誤魔化すのも難しい。この答えから何か酷い結果が生まれてしまうのではないか。そんな疑問がマサミの頭を駆け巡った。

「私と話すの辛い?」

 マサミはビクッと体を震わせた。いつの間にか自分は地面を見つめてしまっていた。女性の問いは短いながらも的確であった。なぜ、彼女にそんなことが解るのだろう? そう思いつつ、マサミは視線を上に持っていく。

「乗って」
「え?」
「乗って。これに。早く」
「で、でも……」
「いいから、乗って」

 女はマサミをじっと見つめて言葉を続ける。しばらく二人で見つめ合った後、彼女は何かに気付いた表情を浮かべ、妖力車から降りた。

「私、クーゲル・ズーセ。こいつの名前は、オーカサス。よろしく」
「あ、あの、わたし、マサミ」
「そう、マサミ。よろしくね。それで、このオーカサスに乗って欲しいんだけど」
「う、うん。乗る」

 マサミは運転席の隣に乗り込んだ。クーゲル・ズーセは妖力車を発進させ、街を駆けていく。

「マサミ、ご飯食べてるの?」
「食べてる」
「どんなの食べてんの?」
「どんな……道端に生えてるもの」
「だめだってそんなんじゃ。水は飲んでるの?」
「飲んでる」
「ちゃんと寝てる?」
「寝てる」
「どこで?」
「その辺」
「だめだって、それじゃ。お風呂は?」
「入ってない。その辺で水浴びてる」
「だめだって。やっぱりこういうことだったか。もういいよ。黙って座ってな」

 その後、オーカサスと呼ばれた妖力車は宿屋と思しき建物の前に止まった。クーゲル・ズーセは駐車場にオーカサスを繋ぎ、マサミの手を握って歩き出した。クーゲル・ズーセは二人部屋をとり、マサミを引っ張って部屋に放り込む。部屋に備えられた風呂場にマサミを引き入れ、服を剥ぎ取り丸裸にする。そしてマサミの上から湯を浴びせかけた。

「ばああぁっ」

 マサミは思わずうめき声をあげる。その間にクーゲル・ズーセは湯船に湯を溜めている。そして、彼女も服を脱ぎ始めた。その後、「むごっ、もごっ」という声を上げるマサミを泡まみれにして洗い始める。「あばっ、ごぼっ」という声をマサミは上げるが、クーゲル・ズーセは怯まない。石鹸とタオルで擦り、湯で流し、洗い、マサミの体を見て、石鹸とタオルで擦り、湯で流し、洗う。湯船に押し込み、自分も入り、逃げられないように押さえつける。そのまま、二人で湯船に浸かっていた。

「あの、クーゲルさん」
「何?」

 若干のぼせ気味になってきたマサミは口を開いた。クーゲルはマサミを見つめて答える。

「これ、何ですか?」
「お風呂」
「その、何で、私をお風呂に入れてくれたの?」
「まあ、ちょっと見てられなくて」
「私、お礼、出来ない」
「ああ、その辺はいいから」
「でも」
「いや、お礼は受け取るつもりだよ。この後、ベッドの上とかで」
「は?」
「マサミ、あんた歳はいくつ?」
「15歳」
「そう。そうなんだ」

 クーゲルはマサミから目をそらし、風呂場の壁を見つめていた。その目はどこか遠くを見ているかのようだ。

 その後、クーゲルはマサミを湯船から引っ張り出し、バスタオルで体の隅々を拭いた。髪を乾かし、マサミの顔をパシパシと軽く叩く。マサミの頭をゴシゴシと撫で、ベッドの上にマサミを放り投げた。

「ばふっ」

 ベッドに倒れ込んだマサミは呻きながらも、柔らかい寝床に心地よさを感じてしまう。すぐにでも眠ってしまいそうだ。

「さて」

 という声がした。クーゲルはバサッとベッドに倒れ込んだ。隣にあるベッドだ。

「聞かせて貰おうか」
「聞かせる? 何を?」
「あんたの闘いの話。そこに至るまでの話。それがお礼。さあ、しっかり支払いをお願いしますよ」

 マサミはしばらく何を言われているのか解らなかったが、天井とクーゲルを交互に見たり、モゾモゾと動きながらベッドの感触を確かめているうちに、求められていることが解った。マサミはこれまでのことを思い出しながら、語り出す。前置きとして「あんまりうまく話せない」と言った。クーゲルは「いいよ。それで。むしろ、その方がいい」と返す。マサミは天井を見ながら語り出した。
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