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武術と氣功に並々ならぬ気配を漂わせた老人は、マサミに使いの目的地を示し、荷物を持たせると共に、三通の書を手渡した。老人はマサミに、こう言った。
この三通の手紙には当たり前のことが書いてある。当たり前のことである故、毒にも薬にもならない。しかしながら、時と共に、お前自身の変化と共に読み取るものは変わっていくだろう。もしかしたら、役に立つこともあるかもしれない。自らを省みることを時々やってみることだ。この旅路は辛いものであろうが、三つの書を旅の友として進むがいい。
マサミは夜明けと共に旅立ち、帰ってくる、帰ってきてみせると意気込んだ。もちろん任務を果たすことも忘れてはいない。昇る朝日に吼え、鼻息を荒くして奮い立たせる。老人が案内してくれた寝床に一礼。太陽にも一礼して出掛けて行った。
見知った街の中でさえ、マサミは震えることもあった。外に出るともなれば、恐れは更に強くなる。いかなる妖怪が待ち受けているか解ったものではない。月と太陽に吼え、老人に立ち向かった自分を思い出し、少しずつマサミは歩みを進めていった。
道中、休みながら、マサミは三つの書を読む。書いていあることは大体こんなものだった。
一、
日が昇ったら起きて、少し動き、働き、学び、休み、遊び、陽が沈んだら眠ると良い。
覚えやすいように短い名前で覚えておくのが好いだろう。この場合『光に忠を尽くす』ということにして、更に略し『光尽(ぴかつ)』とするべし。尚、気に入らなかったら自分で名前を付けるといいだろう。
二、
動くこと、働くことに向かう際に落ち着ける心を確保するのがよい。そうは言っても、なかなかうまく行かないのがこの世の中だ。周りを見る事が必要なこともあるが、自分のことに集中し周りを見ないことも必要だ。(※これが毒にも薬にもならないということである)
これをやる、と決めたなら自らの事に集中し『自らの場であるが如し』を心に置くのが良い。これを略して『自場如(じばにょ)』とするべし。
三、
体を整え、心を整え、目標を定めて動いても、上手く行かないことがある。どうにもならない何かが起こってしまうのがこの世の中だ。地面に倒れてしまうほどの苦痛を味わったなら、しばらく倒れているのが良い。徐々に体力が回復して来たなら、次を試してみるべし。
困ったことを少し思い出し、そこに自分と世界を置いてみる。観察し、原因を探ってみる。解らない場合は解らないでよい。(※これが毒にも薬にもならないということである)これを略して『困探(コマサ)』とすべし。
マサミは道中その書を時々開き、読んだ。二と三に書かれていることは難しく、想像することも上手く出来なかったが、一の光尽だけは出来た。要するに朝起きて、夜眠ったのである。道端に自生している木の実や植物を食べながら、マサミは道を進んだ。妖怪の気配がするときは、その道を避け、時には引き返し、人に助けを求めることもした。そんな日々の中、マサミは故郷から離れた街の一角で地面に座って疲れを癒す。今は昼間だ。太陽はギラギラと世界を照らしている。マサミはもう少し動こうかと思っていたが、足の具合を見て「今日は休んでおこう」と考え直した。ゆっくりとした動きでマサミは水を貰うために歩き出した。
その時、マサミの背後から奇妙な音がした。マサミは後ろを振り返り、音の所在を確かめようとした。徐々にマサミにも解って来た。その音は妖力車の発する音だ。時々だが聞いたことがある。妖怪を使役し、対価を払い、自らの仕事を一部請け負ってもらう手段。四つの車輪を持ち、道を駆けるのだ。この力を扱うためには修行が必要だが、使い手はそれなりに存在する。マサミも何度か目にしたことがあった。そんな妖力車使いが、今日も何処かへ駆けていくのだろうと思っていた。
徐々にその姿が大きくなってきた。おどろおどろしくも、鋭い牙や滑らかな体がマサミの心を動かす。自分にもこんな技を扱える時が来るのだろうか、と思いつつ妖力車を目で追っていた。追っていると妖力車は徐々に速度を落としていく。そして、マサミの前で止まった。マサミはキョトンとしている。妖力車の前についている目がギョロリとマサミを睨み、ビクッと震えてしまった。すると、
「ねえ!」
声がした。マサミは妖力車の目を見ながら「あ、あの……」と口ごもる。すると「ねえ、こっち!」と再び声がした。声はマサミの前方やや上からだった。妖力車の運転席からだ。マサミはそちらを見ると、一人の女性が自分を見ているのが解った。その女性はマサミが気付いたのを見て、こう続けた。
「和尚ワタナベと闘った少女って、あんたのこと?」
この三通の手紙には当たり前のことが書いてある。当たり前のことである故、毒にも薬にもならない。しかしながら、時と共に、お前自身の変化と共に読み取るものは変わっていくだろう。もしかしたら、役に立つこともあるかもしれない。自らを省みることを時々やってみることだ。この旅路は辛いものであろうが、三つの書を旅の友として進むがいい。
マサミは夜明けと共に旅立ち、帰ってくる、帰ってきてみせると意気込んだ。もちろん任務を果たすことも忘れてはいない。昇る朝日に吼え、鼻息を荒くして奮い立たせる。老人が案内してくれた寝床に一礼。太陽にも一礼して出掛けて行った。
見知った街の中でさえ、マサミは震えることもあった。外に出るともなれば、恐れは更に強くなる。いかなる妖怪が待ち受けているか解ったものではない。月と太陽に吼え、老人に立ち向かった自分を思い出し、少しずつマサミは歩みを進めていった。
道中、休みながら、マサミは三つの書を読む。書いていあることは大体こんなものだった。
一、
日が昇ったら起きて、少し動き、働き、学び、休み、遊び、陽が沈んだら眠ると良い。
覚えやすいように短い名前で覚えておくのが好いだろう。この場合『光に忠を尽くす』ということにして、更に略し『光尽(ぴかつ)』とするべし。尚、気に入らなかったら自分で名前を付けるといいだろう。
二、
動くこと、働くことに向かう際に落ち着ける心を確保するのがよい。そうは言っても、なかなかうまく行かないのがこの世の中だ。周りを見る事が必要なこともあるが、自分のことに集中し周りを見ないことも必要だ。(※これが毒にも薬にもならないということである)
これをやる、と決めたなら自らの事に集中し『自らの場であるが如し』を心に置くのが良い。これを略して『自場如(じばにょ)』とするべし。
三、
体を整え、心を整え、目標を定めて動いても、上手く行かないことがある。どうにもならない何かが起こってしまうのがこの世の中だ。地面に倒れてしまうほどの苦痛を味わったなら、しばらく倒れているのが良い。徐々に体力が回復して来たなら、次を試してみるべし。
困ったことを少し思い出し、そこに自分と世界を置いてみる。観察し、原因を探ってみる。解らない場合は解らないでよい。(※これが毒にも薬にもならないということである)これを略して『困探(コマサ)』とすべし。
マサミは道中その書を時々開き、読んだ。二と三に書かれていることは難しく、想像することも上手く出来なかったが、一の光尽だけは出来た。要するに朝起きて、夜眠ったのである。道端に自生している木の実や植物を食べながら、マサミは道を進んだ。妖怪の気配がするときは、その道を避け、時には引き返し、人に助けを求めることもした。そんな日々の中、マサミは故郷から離れた街の一角で地面に座って疲れを癒す。今は昼間だ。太陽はギラギラと世界を照らしている。マサミはもう少し動こうかと思っていたが、足の具合を見て「今日は休んでおこう」と考え直した。ゆっくりとした動きでマサミは水を貰うために歩き出した。
その時、マサミの背後から奇妙な音がした。マサミは後ろを振り返り、音の所在を確かめようとした。徐々にマサミにも解って来た。その音は妖力車の発する音だ。時々だが聞いたことがある。妖怪を使役し、対価を払い、自らの仕事を一部請け負ってもらう手段。四つの車輪を持ち、道を駆けるのだ。この力を扱うためには修行が必要だが、使い手はそれなりに存在する。マサミも何度か目にしたことがあった。そんな妖力車使いが、今日も何処かへ駆けていくのだろうと思っていた。
徐々にその姿が大きくなってきた。おどろおどろしくも、鋭い牙や滑らかな体がマサミの心を動かす。自分にもこんな技を扱える時が来るのだろうか、と思いつつ妖力車を目で追っていた。追っていると妖力車は徐々に速度を落としていく。そして、マサミの前で止まった。マサミはキョトンとしている。妖力車の前についている目がギョロリとマサミを睨み、ビクッと震えてしまった。すると、
「ねえ!」
声がした。マサミは妖力車の目を見ながら「あ、あの……」と口ごもる。すると「ねえ、こっち!」と再び声がした。声はマサミの前方やや上からだった。妖力車の運転席からだ。マサミはそちらを見ると、一人の女性が自分を見ているのが解った。その女性はマサミが気付いたのを見て、こう続けた。
「和尚ワタナベと闘った少女って、あんたのこと?」
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