Re!ignited [Wind Knight]

葉隠一

文字の大きさ
2 / 9

2.

しおりを挟む
 武術と氣功に並々ならぬ気配を漂わせた老人は、マサミに使いの目的地を示し、荷物を持たせると共に、三通の書を手渡した。老人はマサミに、こう言った。

 この三通の手紙には当たり前のことが書いてある。当たり前のことである故、毒にも薬にもならない。しかしながら、時と共に、お前自身の変化と共に読み取るものは変わっていくだろう。もしかしたら、役に立つこともあるかもしれない。自らを省みることを時々やってみることだ。この旅路は辛いものであろうが、三つの書を旅の友として進むがいい。

 マサミは夜明けと共に旅立ち、帰ってくる、帰ってきてみせると意気込んだ。もちろん任務を果たすことも忘れてはいない。昇る朝日に吼え、鼻息を荒くして奮い立たせる。老人が案内してくれた寝床に一礼。太陽にも一礼して出掛けて行った。

 見知った街の中でさえ、マサミは震えることもあった。外に出るともなれば、恐れは更に強くなる。いかなる妖怪が待ち受けているか解ったものではない。月と太陽に吼え、老人に立ち向かった自分を思い出し、少しずつマサミは歩みを進めていった。

 道中、休みながら、マサミは三つの書を読む。書いていあることは大体こんなものだった。

 一、
 日が昇ったら起きて、少し動き、働き、学び、休み、遊び、陽が沈んだら眠ると良い。
 覚えやすいように短い名前で覚えておくのが好いだろう。この場合『光に忠を尽くす』ということにして、更に略し『光尽(ぴかつ)』とするべし。尚、気に入らなかったら自分で名前を付けるといいだろう。

 二、
 動くこと、働くことに向かう際に落ち着ける心を確保するのがよい。そうは言っても、なかなかうまく行かないのがこの世の中だ。周りを見る事が必要なこともあるが、自分のことに集中し周りを見ないことも必要だ。(※これが毒にも薬にもならないということである)
 これをやる、と決めたなら自らの事に集中し『自らの場であるが如し』を心に置くのが良い。これを略して『自場如(じばにょ)』とするべし。

 三、
 体を整え、心を整え、目標を定めて動いても、上手く行かないことがある。どうにもならない何かが起こってしまうのがこの世の中だ。地面に倒れてしまうほどの苦痛を味わったなら、しばらく倒れているのが良い。徐々に体力が回復して来たなら、次を試してみるべし。
 困ったことを少し思い出し、そこに自分と世界を置いてみる。観察し、原因を探ってみる。解らない場合は解らないでよい。(※これが毒にも薬にもならないということである)これを略して『困探(コマサ)』とすべし。

 マサミは道中その書を時々開き、読んだ。二と三に書かれていることは難しく、想像することも上手く出来なかったが、一の光尽だけは出来た。要するに朝起きて、夜眠ったのである。道端に自生している木の実や植物を食べながら、マサミは道を進んだ。妖怪の気配がするときは、その道を避け、時には引き返し、人に助けを求めることもした。そんな日々の中、マサミは故郷から離れた街の一角で地面に座って疲れを癒す。今は昼間だ。太陽はギラギラと世界を照らしている。マサミはもう少し動こうかと思っていたが、足の具合を見て「今日は休んでおこう」と考え直した。ゆっくりとした動きでマサミは水を貰うために歩き出した。

 その時、マサミの背後から奇妙な音がした。マサミは後ろを振り返り、音の所在を確かめようとした。徐々にマサミにも解って来た。その音は妖力車の発する音だ。時々だが聞いたことがある。妖怪を使役し、対価を払い、自らの仕事を一部請け負ってもらう手段。四つの車輪を持ち、道を駆けるのだ。この力を扱うためには修行が必要だが、使い手はそれなりに存在する。マサミも何度か目にしたことがあった。そんな妖力車使いが、今日も何処かへ駆けていくのだろうと思っていた。

 徐々にその姿が大きくなってきた。おどろおどろしくも、鋭い牙や滑らかな体がマサミの心を動かす。自分にもこんな技を扱える時が来るのだろうか、と思いつつ妖力車を目で追っていた。追っていると妖力車は徐々に速度を落としていく。そして、マサミの前で止まった。マサミはキョトンとしている。妖力車の前についている目がギョロリとマサミを睨み、ビクッと震えてしまった。すると、

「ねえ!」

 声がした。マサミは妖力車の目を見ながら「あ、あの……」と口ごもる。すると「ねえ、こっち!」と再び声がした。声はマサミの前方やや上からだった。妖力車の運転席からだ。マサミはそちらを見ると、一人の女性が自分を見ているのが解った。その女性はマサミが気付いたのを見て、こう続けた。

「和尚ワタナベと闘った少女って、あんたのこと?」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

ちゃんと忠告をしましたよ?

柚木ゆず
ファンタジー
 ある日の、放課後のことでした。王立リザエンドワール学院に籍を置く私フィーナは、生徒会長を務められているジュリアルス侯爵令嬢アゼット様に呼び出されました。 「生徒会の仲間である貴方様に、婚約祝いをお渡したくてこうしておりますの」  アゼット様はそのように仰られていますが、そちらは嘘ですよね? 私は最愛の方に護っていただいているので、貴方様に悪意があると気付けるのですよ。  アゼット様。まだ間に合います。  今なら、引き返せますよ? ※現在体調の影響により、感想欄を一時的に閉じさせていただいております。

ヒロインは修道院に行った

菜花
ファンタジー
乙女ゲームに転生した。でも他の転生者が既に攻略キャラを攻略済みのようだった……。カクヨム様でも投稿中。

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

繰り返しのその先は

みなせ
ファンタジー
婚約者がある女性をそばに置くようになってから、 私は悪女と呼ばれるようになった。 私が声を上げると、彼女は涙を流す。 そのたびに私の居場所はなくなっていく。 そして、とうとう命を落とした。 そう、死んでしまったはずだった。 なのに死んだと思ったのに、目を覚ます。 婚約が決まったあの日の朝に。

卒業パーティーのその後は

あんど もあ
ファンタジー
乙女ゲームの世界で、ヒロインのサンディに転生してくる人たちをいじめて幸せなエンディングへと導いてきた悪役令嬢のアルテミス。  だが、今回転生してきたサンディには匙を投げた。わがままで身勝手で享楽的、そんな人に私にいじめられる資格は無い。   そんなアルテミスだが、卒業パーティで断罪シーンがやってきて…。

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持

空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。 その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。 ※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。 ※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

愚者による愚行と愚策の結果……《完結》

アーエル
ファンタジー
その愚者は無知だった。 それが転落の始まり……ではなかった。 本当の愚者は誰だったのか。 誰を相手にしていたのか。 後悔は……してもし足りない。 全13話 ‪☆他社でも公開します

処理中です...