Re!ignited [Wind Knight]

葉隠一

文字の大きさ
9 / 9

9.

しおりを挟む
 マサミは管の中に入った。その床に何かの模様が描かれていた。それだけで、他には何もない。しかし、マサミにはそこで何をすべきかがわかった。その床に描かれた模様は、これまでの人生において、マサミが何度か目にしてきたものだった。主に、氣功を学ぶ際に目にしてきたものだ。マサミは氣功の学びも不得手であった。今ここで自分の力で対応できるか不安であった。しかし、すぐにその不安を打ち消し、模様の上に立ち、自身が振るえる氣功の力を精一杯に込める。そして、地面の模様に放った。

 すると、床が動いた。始めはゆるく揺れ、次いで強く上方に動いた。マサミは自分が塔を登っているのが解った。時折、動く床の動作が不安定になることもあった。その時に、マサミは学んだ。マサミの心の安定が、この床の安定と動きの安定に繋がるのだ、と。マサミは時々目を閉じ、心を落ち着けて床にある模様と共に氣功を続けていく。

 ついに、塔の最上階に到達した。マサミの任務の目的地にやってきたのだ。

 やって来たものの、その空間には誰も居なかった。この旅の始まりの時、この荷物をマサミに託した老人の話では、ここに誰かが待っているという話だった。しかし、考えてみればその誰かの名前をマサミは聞いていなかった。そうすると、あの老人の依頼は何だったのだろうか? 今、背負っている荷物は何なのだろうか?

<こちらへ>

 声が響いた。マサミの心に語りかけるものでは無い。マサミにはそう感じられた。部屋に音が響いている。誰かがマサミを呼んでいた。

<こちらへ>

 再び声が響く。マサミはその声のする方へと歩いて行く。その空間の壁まで歩いてしまった。すると、その壁の一部が動いた。風がぶわっとマサミに吹き付けて来た。とても高い塔の上、外へと通じる道がある。その先に何かが見える。何かの祭壇だろうか?

<こちらへ、どうぞ>

 どうやら、声はその祭壇から響いてくるようだ。マサミは風を感じながら、その道を歩いて行く。そして、その祭壇までたどり着いた。

<マサミ。よくここまでたどり着きました。長く辛い旅路だったでしょう?>

「はい。でも、短かったような気もします。あの、お届け物です。これ、一体何なんでしょう?」

<それは、幻影の種とでも言える何かです。形を持たず、言葉にも出来ず、存在も感じられないものです。あなたの旅路や、それが始まる以前の日々のこと。この役割に選ばれた理由。どれも語り尽くせるものでは無いでしょう。しかし、私はそれを世界に残す役目を果たします。その荷物を、この祭壇の中央においてください。どうか、そのまま>

「開けなくていいんですか?」

<どうか、そのままで>

 マサミは言われた通り、背負った荷物をそのまま祭壇の中央に置いた。

<ありがとう。マサミ>

「これで、終わりですか? 初めての忠」

<いえ、もう一つあるのです>

「どんなこと?」

<あなたにも覚えがあるかもしれません。困った時の知恵のこと。そのままでは、毒にも薬にもならない。使い方を誤れば猛毒となってしまう。更なる災いとなってしまうこともある。その扱い方は受け取った人間にしかわからない何かのことです>

「ああ、わかります。何となくですけど」

<あなたがこの旅で得た知恵と知識と力を、風に揺蕩う戦士とします。そして、私と共に世界を巡ってもらいます。あなたにはその戦士に名前を付けて頂きます>

「名前?」

<そう、名前です。あなたの好きなように名付けてください>

 マサミは少し考えた。この旅の始まりと、鋼鉄の夢広場、千の葉の森、塔。そして、マサミは口を開き、その名を告げた。

<ありがとう、マサミ。どうか、あなたの行きたいところを想ってください。私があなたをその場へ運んでいきます。せめてものお礼です>

 マサミは、その場を強く想い、風に運ばれて行った。

 マサミは世界を見ながら、自分の戦士のことを思った。告げたのは声で。しかし、マサミが思ったものには声だけでは伝えられない何かがあった。戦士としての名前は平凡かもしれないが、魔法の呪文と思えば面白いかもしれない。どこかで密かに囁かれているのを、見つけられるかもしれない。今のところ、マサミしか知らない何か。最も、この祭壇には秘密にすることなんて通用しないかもしれない。それでも、まあいいか、とマサミは思っていた。

 その戦士の名前は何か、あなたには解るだろうか?

(終わり)
しおりを挟む

この作品は感想を受け付けておりません。

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

ちゃんと忠告をしましたよ?

柚木ゆず
ファンタジー
 ある日の、放課後のことでした。王立リザエンドワール学院に籍を置く私フィーナは、生徒会長を務められているジュリアルス侯爵令嬢アゼット様に呼び出されました。 「生徒会の仲間である貴方様に、婚約祝いをお渡したくてこうしておりますの」  アゼット様はそのように仰られていますが、そちらは嘘ですよね? 私は最愛の方に護っていただいているので、貴方様に悪意があると気付けるのですよ。  アゼット様。まだ間に合います。  今なら、引き返せますよ? ※現在体調の影響により、感想欄を一時的に閉じさせていただいております。

ヒロインは修道院に行った

菜花
ファンタジー
乙女ゲームに転生した。でも他の転生者が既に攻略キャラを攻略済みのようだった……。カクヨム様でも投稿中。

繰り返しのその先は

みなせ
ファンタジー
婚約者がある女性をそばに置くようになってから、 私は悪女と呼ばれるようになった。 私が声を上げると、彼女は涙を流す。 そのたびに私の居場所はなくなっていく。 そして、とうとう命を落とした。 そう、死んでしまったはずだった。 なのに死んだと思ったのに、目を覚ます。 婚約が決まったあの日の朝に。

姉が美人だから?

碧井 汐桜香
ファンタジー
姉は美しく優秀で王太子妃に内定した。 そんなシーファの元に、第二王子からの婚約の申し込みが届いて?

正しい聖女さまのつくりかた

みるくてぃー
ファンタジー
王家で育てられた(自称)平民少女が、学園で起こすハチャメチャ学園(ラブ?)コメディ。 同じ年の第二王女をはじめ、優しい兄姉(第一王女と王子)に見守られながら成長していく。 一般常識が一切通用しない少女に友人達は振り回されてばかり、「アリスちゃんメイドを目指すのになぜダンスや淑女教育が必要なの!?」 そこには人知れず王妃と王女達によるとある計画が進められていた! 果たしてアリスは無事に立派なメイドになれるのか!? たぶん無理かなぁ……。 聖女シリーズ第一弾「正しい聖女さまのつくりかた」

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

卒業パーティーのその後は

あんど もあ
ファンタジー
乙女ゲームの世界で、ヒロインのサンディに転生してくる人たちをいじめて幸せなエンディングへと導いてきた悪役令嬢のアルテミス。  だが、今回転生してきたサンディには匙を投げた。わがままで身勝手で享楽的、そんな人に私にいじめられる資格は無い。   そんなアルテミスだが、卒業パーティで断罪シーンがやってきて…。

処理中です...