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マサミの周りは緑と柔らかな日差しの色で満たされていた。ついさっきまでマサミが居た鉄と石の感覚は、ここに無い。マサミはあたりを見回しながら思う。自分は一体いつの間にここにやってきたのか? さっきまでのことは何だったのか?
その時、マサミは塔の姿を捉えた。あの鋼鉄の夢広場に居た時よりも大きく見える。つまり、マサミは塔の近くに来ているのだ。とても近くに。それがわかると、マサミの足は動いていた。背負った荷物の重さを感じながら、足を一歩ずつ踏み出す。もうすぐ、たどり着けるのだ。自分の役目の到達点に。
歩くマサミの視界に何かが映った。この森は鋼鉄の夢広場とは違って、常に何かが動いている。葉は風に揺れ、鳥が羽ばたき、さえずる。虫がパタパタと舞い、獣の鳴き声はあちらこちらで聞こえる。しかし、マサミはその動く何かに見入ってしまった。それは小さな狼だった。マサミはその姿にどこか見覚えがあった。
「あなたは、オニミ?」
そう呼びかけてしまった。その狼はそれを聞くとがサッと音を立てて、再び森の何処かに隠れてしまった。
似ても似つかないが、その狼は鋼鉄の夢広場でマサミと対峙した、あの巨大な何かとマサミは思ったのだ。マサミがオニミと名付けた者。これだけの不思議を体験してきたマサミには、そんな感覚も信じられた。
(あいつも、ここに来たのかな)
そう思いつつ、マサミは歩みを進める。歩くマサミの前方に先程と同じ様にガサっと音を立てて何かが現れた。先程と同じ姿の狼。一体何が望みなのか、マサミには解らなかった。ただ、歩きつつ、立ち止まりつつ、マサミは心に浮かぶ言葉をその狼に向かって放ってみた。
「どうして、あなたの耳には栓がしてあるの?」
見た目にはそんなことは解らない筈だった。ただ、マサミは心に浮かんだ言葉を発していた。
<気が散るからだ。耳から入って来た情報に影響を受けすぎる。喉の震えが解る。緊張や恐れが解る。怒声に疲れが混ざっているのが解る。早く切り上げたいと解る。そんなことを相手に伝えて受け入れられるはずもない。だが、何かを感じると自分の言動にも変化が生じる。それは相手に伝わってしまう。だから、こんなことをしている。こうしても上手く行かなかった>
どこかから、マサミの心に語り掛けて来た。マサミが先ほどの場所に目を向けると、狼はもう居なかった。マサミが歩いていると、再びガサっと音がして前方に狼が現れた。マサミは狼に言葉を放つ。
「どうして、あなたの目は覆われているの?」
狼の目には何の覆いも存在しない。マサミにもそれは解っていた。
<気が散るからだ。目から入って来た情報に影響を受けすぎる。顔の緊張を感じてしまう。体の力が抜けていくのが解る。自分の想い通りにいかないことでイラついているのが解る。どうにか望む答えを引き出そうとしているのが解る。そんなことを相手に伝えて受け入れられるはずもない。だが、何かを感じれば自分の言動にも変化が生じる。それは相手にも伝わってしまう。だから、こうした。こうしても、上手く行かなかった>
マサミの心に言葉が響く。先程の場所に狼は居ない。そして、マサミは歩みを進める。今度は音がする前にマサミは森に向かって言葉を放ってみた。
「どうして、あなたの口は覆われているの?」
しばしの間、森が静かになったように感じた。音はマサミの発する足音だけだった。そう感じた。
<誰かに探られないためだ。自分にそんな感覚があると知られないためだ。もしも、俺に見抜く力、感じる力があるとして、見抜いたもの、感じたものが正しいとして、それを誰かに伝えても受け入れられることは無い。決して明かしてはならない何かだ。正しいかどうか解らないなら、じっと内に秘めておくほかない。どうにもならないことなのだ>
「今、私に話してくれたね」
そこから、再びの静寂。マサミの足音が森に響き、徐々に元のざわめきが戻って来た。マサミは歩き続けた。そして、塔が近づいてくる。もう目の前だ。
マサミが塔にたどり着くまでの間、話しかけてくる者はもう居なかった。
遠くから存在を感じられるのだから、目指していた塔がとても大きい事はマサミにも解っていた。だが、実際に近付いてみると、その大きさに圧倒された。周囲は一面石で覆われている。入口を探すだけでも一苦労だった。マサミは一つだけ存在していた扉を開け、塔の中へと足を踏み入れた。
塔の内部の構造はとても単純だった。広い空間の中央に上に伸びる管がある。マサミの正面にはその管の入口が見えた。その中に入り上へ登れ、ということなのだろう。マサミは、塔の中央へと歩いて行った。背中の荷物はマサミに重さを与え、踏み出す足に強みが加わる。
その時、マサミは塔の姿を捉えた。あの鋼鉄の夢広場に居た時よりも大きく見える。つまり、マサミは塔の近くに来ているのだ。とても近くに。それがわかると、マサミの足は動いていた。背負った荷物の重さを感じながら、足を一歩ずつ踏み出す。もうすぐ、たどり着けるのだ。自分の役目の到達点に。
歩くマサミの視界に何かが映った。この森は鋼鉄の夢広場とは違って、常に何かが動いている。葉は風に揺れ、鳥が羽ばたき、さえずる。虫がパタパタと舞い、獣の鳴き声はあちらこちらで聞こえる。しかし、マサミはその動く何かに見入ってしまった。それは小さな狼だった。マサミはその姿にどこか見覚えがあった。
「あなたは、オニミ?」
そう呼びかけてしまった。その狼はそれを聞くとがサッと音を立てて、再び森の何処かに隠れてしまった。
似ても似つかないが、その狼は鋼鉄の夢広場でマサミと対峙した、あの巨大な何かとマサミは思ったのだ。マサミがオニミと名付けた者。これだけの不思議を体験してきたマサミには、そんな感覚も信じられた。
(あいつも、ここに来たのかな)
そう思いつつ、マサミは歩みを進める。歩くマサミの前方に先程と同じ様にガサっと音を立てて何かが現れた。先程と同じ姿の狼。一体何が望みなのか、マサミには解らなかった。ただ、歩きつつ、立ち止まりつつ、マサミは心に浮かぶ言葉をその狼に向かって放ってみた。
「どうして、あなたの耳には栓がしてあるの?」
見た目にはそんなことは解らない筈だった。ただ、マサミは心に浮かんだ言葉を発していた。
<気が散るからだ。耳から入って来た情報に影響を受けすぎる。喉の震えが解る。緊張や恐れが解る。怒声に疲れが混ざっているのが解る。早く切り上げたいと解る。そんなことを相手に伝えて受け入れられるはずもない。だが、何かを感じると自分の言動にも変化が生じる。それは相手に伝わってしまう。だから、こんなことをしている。こうしても上手く行かなかった>
どこかから、マサミの心に語り掛けて来た。マサミが先ほどの場所に目を向けると、狼はもう居なかった。マサミが歩いていると、再びガサっと音がして前方に狼が現れた。マサミは狼に言葉を放つ。
「どうして、あなたの目は覆われているの?」
狼の目には何の覆いも存在しない。マサミにもそれは解っていた。
<気が散るからだ。目から入って来た情報に影響を受けすぎる。顔の緊張を感じてしまう。体の力が抜けていくのが解る。自分の想い通りにいかないことでイラついているのが解る。どうにか望む答えを引き出そうとしているのが解る。そんなことを相手に伝えて受け入れられるはずもない。だが、何かを感じれば自分の言動にも変化が生じる。それは相手にも伝わってしまう。だから、こうした。こうしても、上手く行かなかった>
マサミの心に言葉が響く。先程の場所に狼は居ない。そして、マサミは歩みを進める。今度は音がする前にマサミは森に向かって言葉を放ってみた。
「どうして、あなたの口は覆われているの?」
しばしの間、森が静かになったように感じた。音はマサミの発する足音だけだった。そう感じた。
<誰かに探られないためだ。自分にそんな感覚があると知られないためだ。もしも、俺に見抜く力、感じる力があるとして、見抜いたもの、感じたものが正しいとして、それを誰かに伝えても受け入れられることは無い。決して明かしてはならない何かだ。正しいかどうか解らないなら、じっと内に秘めておくほかない。どうにもならないことなのだ>
「今、私に話してくれたね」
そこから、再びの静寂。マサミの足音が森に響き、徐々に元のざわめきが戻って来た。マサミは歩き続けた。そして、塔が近づいてくる。もう目の前だ。
マサミが塔にたどり着くまでの間、話しかけてくる者はもう居なかった。
遠くから存在を感じられるのだから、目指していた塔がとても大きい事はマサミにも解っていた。だが、実際に近付いてみると、その大きさに圧倒された。周囲は一面石で覆われている。入口を探すだけでも一苦労だった。マサミは一つだけ存在していた扉を開け、塔の中へと足を踏み入れた。
塔の内部の構造はとても単純だった。広い空間の中央に上に伸びる管がある。マサミの正面にはその管の入口が見えた。その中に入り上へ登れ、ということなのだろう。マサミは、塔の中央へと歩いて行った。背中の荷物はマサミに重さを与え、踏み出す足に強みが加わる。
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