死人は口ほどにモノを言う

黒幕横丁

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2話 ハッケン 

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 スタジオの楽屋へ続く廊下。すれ違う人達は皆、有加の血に塗れた姿を見て、ギョッとしている。
 中には、お化けかと思って腰を抜かす人までいる始末。

「みんな、驚きすぎよ」

 有加は不満たっぷりに愚痴を零すが、誰だって、黒髪でズタボロになっている血まみれの女を見たら驚かない人は居ないと思う。

「僕だって、夜な夜なその姿で出てこられたら間違いなく塩を撒くよ?」
「そんなに驚くのなら、今度実際にやってみようかしら?」

 僕の一言を聞いて、ニヤリと笑う有加。
 口を滑らせたような感じがして、僕は両手で口を押さえる。

「梨緒、口は禍の元というからね。安易に変な事を口にしちゃダメよ」
「肝に命じときます……」
「うむ、よろしい」

 ウフフと笑う有加と共に、楽屋へと入った。
 有加は楽屋へと入るなり、鏡の前に座り、黒髪の上部を掴みまるで毟るかのように黒髪のウイッグを取った。
 中から出てきたのは、ゆるく巻かれたパーマがフワッと揺れる赤茶けた髪。死んだように見せるための青白いメイクをメイク落としのシートでふき取って、化粧を落としていく。
 僕がその姿をまじまじと見ていると、化粧を落とし終わった有加がこっちを振り返る。

「そんなに見つめてどうしたの?」
「毎回思っているんだけど、メイク一つで印象って変わるんだなぁーって」

 有加は青色に変わったメイク落としのシートをゴミ箱に捨てながら笑う。

「そうね。“女が欺くために使う武器”とか言われているくらいだからね。メイクの上手い女性には気をつけなさいよー」

 僕がはーいと返事をすると、有加はいきなり立ち上がり、ズタボロの上着に手をかけて脱ぎ始める。
 有加のお臍が見えたところで、僕は凄いスピードで有加が見えないように視線を移動させた。

「有加、着替えるなら、そこのカーテンのかかっているところで脱いでよ」
「何よ。一つ屋根の下で暮らしているのだから、着替えを見るのはどうってこと無いじゃない」

 僕は幼稚園の頃に両親が亡くなってから、有加の父親に拾われて、司馬家の養子という形で居候させてもらっている。だから、常に一緒に居るわけなんだけど、

「問題大アリだから!!」

 やはり成長して有加のことを大人の女性として認識してしまうと、何処かモジモジするような恥ずかしいような気持ちになってしまうのである。

「ちぇっ」

 有加は不満そうに着替えを抱え更衣室の方へと向かい、カーテンを閉めた。

「よーし、着替え終わりっと」

 数分後、カーテンを開いて有加が出てきた。
 出てきた有加は、水色に白のボーダーシャツにデニム地のクロップトパンツ。ズボンの裾には白い足がのぞいていた。

「さ、いくわよ!」

 つばの大きい麦藁帽子と薄緑のワンショルダーバックを身に付けた有加は、僕の手首を掴んで引っ張った。

「え、行くって何処に!?」

 いきなり手を引っ張られた僕はおどおどしながら有加に行き先を訪ねる。

「忘れたの? 大学の先輩からお茶会に誘われたでしょ?」
「あ」

 有加にそう言われて、そういえばそんな約束をしたことを思い出す。


 それは、3日前の出来事。
 僕達は大学の談話室で必死にレポート作成に励んでいた。

「あら、お二人さん。仲良くお勉強かしら?」

 あたふたしながらレポートを書いている僕らに突然呼びかける声。ふと、見上げるとそこには、ふわりとウエーブがかかった茶髪、服装はナチュラル系にまとめている女性。僕達と同じ文学部所属で顔見知りの三上先輩の姿があった。

「文学史のレポートを作っているんです。1週間後に提出なんですけど、今の内に済ませてしまおうと思って」
「なかなか勉強熱心なのね」

 先輩はうんうんと感心するが、別に僕達は勉強熱心なわけではない。二人共同でレポートの草案を作成し、それを二人で各々文脈を微妙に変えながら書いていくという姑息な内職をするつもりなのだ。

「勉強中で忙しいのなら、またの機会にしようかしらねぇ……」
「僕達に何か御用ですか? レポートもそろそろ完成しそうですし、お話できますけど?」

 僕は手を止めて、先輩の顔を見た。

「そう? じゃあ、お二人さんの間を失礼するわね」

 そう言って先輩は、僕達の間にあった空席の椅子に腰掛ける。

「実はね。二人に相談に乗ってほしいことがあるの。でも、ここで話すのは気が引けるから、ウチでお茶会でも開いて話そうかと思って。予定開いているかしら?」
「相談ですか? しかも、私達二人に?」

 有加は怪訝そうな顔で先輩に訊ねる。

「二人だからこそよ。厄介事が大好きな“アリナシ”コンビの二人にしか頼めないのよ」

 始終一緒に行動していることから、有加の“有”、梨緒の“梨”を繋げて、“アリナシ”コンビ。僕達はそう呼ばれていた。大学構内では、それに追加して『変わり者の作家の子ども達だから、きっと厄介事に首を突っ込みそう』という固定概念という尾ひれが付いて、いつの間にか、T大学の厄介事大好き“アリナシ”コンビという嫌な異名が付いてしまったのである。

「別に、厄介事が好きなわけじゃないですけどね。でも、先輩にはお世話になっていますし、相談事聞いてあげますよ。三日後、スタジオ撮影があるので、ソレが終わったら伺えますよ。15時頃に行きます。」

 有加はスケジュール帳を開いて、日程を先輩に伝えると、先輩は嬉しそうに頷く。

「ありがとう! じゃあ、15時に私のウチまで来てね」


 そしてその日が今日だった訳なのだが、僕達が先輩の家へ訪問した頃には、

 先輩は変わり果てた状態で床に寝そべっていた。
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