死人は口ほどにモノを言う

黒幕横丁

文字の大きさ
4 / 15

3話 遺書

しおりを挟む
 約束していた15時。三上先輩が住んでいるワンルームマンションにたどり着いた私達は、総合玄関の前に備え付けてあるインターホンで先輩の部屋番号を入力して、ボタンを押した。
 しかし、先輩からの応答は一切ない。

「おかしいわねぇ。ちゃんと15時って約束したのに」

 一応確認として、スマホで現在時刻を確認する。15時3分、確かに約束した時間だ。
 もう1回インターホンを鳴らしても先輩は出る様子はなかった。
 私が少しイライラしていると、梨緒が私の服の裾を引っ張る。

「ん? どうしたの、梨緒」
「何かあったんじゃないかなぁ? 三上先輩って結構きっちりしている性格だから、約束をすっぽかすってことは無いと思うんだけど」

 少し不安げに答える梨緒。たしかに、自分から相談を持ちかけてきたのにその約束をすっぽかすのは、あの先輩らしくない。

「と言っても、どうやって入るべきか」

 このマンションは入り口で暗証番号を入力しない限り、エントランスの自動ドアが開かない仕組みになっている。

「こうなったら、父直伝の七つ道具で開けるしか」

 私がワンショルダーバックのチャックを開けようとした時に、梨緒が必死に私を引き止める。

「ダメだって、有加。それ犯罪だから! 正直に事情を管理人さんに話して、開けて貰おうよー」
「……確かに、それもそうよね」

 危ない危ない、危うく不名誉な称号を勝ち取りそうだったわ。私は、カバンのチャックを閉じ、管理人室へと歩みを進める。

「すみません。607号室の三上さんのお宅へ訪問する予定をしていた者なんですけど、インターホンを鳴らしても出てこなくて。ちょっと心配なので、エントランスの扉を開けて貰ってもいいですか?」

 一応大学の学生証を提示して管理人に頼み込むと、

「どうぞ」

 すんなりと、扉を開けてもらえた。

「ありがとうございます」

 私と梨緒は管理人に会釈をして、エントランスとくぐる。
 エレベーターで6階に行き、先輩の部屋である607号室へ向かう。
 扉の前で一度ノックをして、先輩の名前を呼んでみるが、やはり反応はない。

「仕方ない、強行突破かしらね」

 私はカバンから白い手袋を取り出し、ソレを手にはめる。

「ねぇ、有加。そんなもの、なんで持っているの?」
「万が一のときの為って、父さんが持たせたのよ。梨緒のカバンの何処かにも入っているはずよ、確か」

 私がそういうと、梨緒がガザゴソと自らの水色の2WAYカバンを漁る。すると、奥のほうから白い手袋が出てきた。

「あ、本当だ。何時の間に……」

 梨緒が手袋を持って驚くのを余所に、私はレバー状のドアノブに手をかけ、ゆっくりとレバーを下に下ろして引いた。

「……開いてる」

 ドアが開いた。隙間から先輩の部屋を覗き込むと、奥の方にだけ電気が付いていて、他は静寂そのものだった。
 さて、部屋を覗き込んでいる私達を他の部屋の住民が見たら絶対に通報されそうなので、さっさと入ってしまおう。

「お邪魔しまーす」
「えっ、中に入っちゃうの?」

 少し入ることに抵抗をする梨緒の手を引っ張って、私は先輩の部屋に入った。
 薄暗い玄関で靴を脱いで、ゆっくり静かに歩みを進める。
 電気が唯一付いているところが近くなると、誰かの足が覗いているのが見えた。
 その足を見て、梨緒が歩みを速め、その足の方へ近づく。

「三上先輩、インターホン鳴らしても出ないって……っ!!」

 梨緒は何か驚いた様子で、しりもちをついた。

「梨緒、どうしたの?」

 私はしりもちを付いた梨緒のもとへと駆け寄ると、そこには、
 ベッドの柱に布を括りつけ、その布を首に巻きつかせ、床に倒れる先輩の姿があった。

「どうりで」

 冷静に倒れている先輩を見ている横で、梨緒は尋常ではないほどの冷や汗をかいて、呼吸が次第に荒くなっていく。

「梨緒、大丈夫?」

 梨緒の背中をさすって落ち着かせようとするが、呼吸は荒いまま。目の焦点も次第に合わなくなってきた。
 この状況では流石にヤバイか。
 私は梨緒に優しく抱きつき、背中をさすりながら耳元で優しく囁く。

「梨緒、ゆっくり目を閉じて、大きく息を吸いなさい。そうすれば、何も見えなくなるから」

 梨緒は私の言うとおりに、ゆっくりと目を閉じて大きく息を吸った。すると、梨緒の意識がなくなり私の方に体重を預けてくる。

「全く、梨緒は私が居ないと本当にダメなんだから」

 梨緒を近くの壁にもたれさせ、私はスマホを取り出し、電話帳から『叔父さん』を選び、電話を掛けた。

「あ、おじさん?」
『有加か、いきなり電話なんて掛けてきてどうした? 仕事中だから送迎なんて出来ないぞ?』

 電話先の声は面倒くさそうに低い声で応対をする。

「刑事の叔父さんにうってつけのお仕事があるんだけど?」
『……どういうことだ?』
「死体を見つけちゃった」

 私が無邪気に答えると、電話先から耳が劈くような声で、

『はぁぁぁぁああああああ???』

 と叔父さんの叫び声が聞こえた。

「ということだから、急いで来てねー。あ、場所は警察に通報しておくから、じゃあねー」

 まだ電話先の叔父さんは話している途中で、私は電話を強制的に切る。

「さて、警察に通報……ん?」

 私は、倒れている先輩の横にノートパソコンが開いた状態で置かれているのが気になって、ゆっくりと近づき手袋をしている方の手で電源ボタンを押す。
 すると、メモ帳画面が表示され、


『私はもう疲れました。 楽になろうと思います。 ごめんなさい。』


 という文章が表示されていた。所謂、遺書というやつだろう。

「……こんなチープな嘘で私の目が誤魔化せると思ったのかしら?」

 ある確信を持った私は、その文章を見てニヤリと笑った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

公爵令嬢は結婚式当日に死んだ

白雲八鈴
恋愛
 今日はとある公爵令嬢の結婚式だ。幸せいっぱいの公爵令嬢の前に婚約者のレイモンドが現れる。 「今日の結婚式は俺と番であるナタリーの結婚式に変更だ!そのドレスをナタリーに渡せ!」  突然のことに公爵令嬢は何を言われたのか理解できなかった。いや、したくなかった。 婚約者のレイモンドは番という運命に出逢ってしまったという。  そして、真っ白な花嫁衣装を脱がされ、そのドレスは番だという女性に着させられる。周りの者達はめでたいと大喜びだ。  その場所に居ることが出来ず公爵令嬢は外に飛び出し……  生まれ変わった令嬢は復讐を誓ったのだった。  婚約者とその番という女性に 『一発ぐらい思いっきり殴ってもいいですわね?』 そして、つがいという者に囚われた者の存在が現れる。 *タグ注意 *不快であれば閉じてください。

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

処理中です...