私のための小説

桜月猫

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110話

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 いきなりピッチャーをしなければいけないことになった公は、緊張からか大きく息を吐いて人のサインを確認した。
 人のサインは外角のストレート。
 頷いた公はコントロール重視でボールを投げ込んだ。

「ストライク!」

 審判のコールを聞いた人は公にボールを投げ返すと、次のサインを出した。
 サインは低めにストレート。
 初球で無事にストライクを取れた公はホッとしつつ頷いた。
 そうして投げられた2投目のボールは低すぎたせいでホームベース上でワンバンしたが、人はしっかりと受け止めた。

「ボール!」

 公が「ごめん」というジェスチャーをしたので、人は大丈夫とばかりに手を上げ、ボールが汚れたので審判に交換してもらい、新しいボールを投げ返した。
 それから人はチラッと棒人間を見上げた。
 しかし、目も鼻も口もない黒い球体の顔の棒人間の表情なんて読み取れるわけもなく、すぐに次のサインを出した。
 サインはインコースのストレート。
 そのサインを見た公は軽く息を吐いた。
 インコースは先ほどの2球目のように投げミスると、デッドボールになる可能性が高いので、さらに慎重に狙って投げた。
 そのぶんスピードが出なかったので棒人間は初めてバットを振った。

「カン!」

 バットに当たったボールはファールになってこれで2ストライクと追い込んだ。
 そこで人が要求したボールは外角低めにストレートだった。
 なので、公は前3球より少し速い球を投げ込んだ。
 追い込まれているということもあり、棒人間も打とうとバットを振ったのだが、バットは空をきった。

「ストライク!バッターアウト!」
「ナイスピッチング!」
「その調子だ」

 朧月達の言葉に頷いた公は緊張がとれたこももあり、2番をセカンドゴロ、3番をサードゴロに打ち取って初回を三者凡退に抑え、いい滑り出しをした。

「なぁ人。なんでストレートだけでいったんだ?」

 ベンチに戻ってきた公はそんな疑問を人に投げ掛けた。
 公が疑問に思っている通り、人の初回のサインは投げ込むコースが違うだけで全てストレートだった。

「まだ初回で打順も一巡目だし、いきなり手の内を見せてやる必要もないだろ」
「そうだな」
「それに、いきなり投げることになって公も肩が出来てなかったし、緊張もしてただろ。だから、肩慣らしと緊張をほぐすって意味も兼ねてストレートだけにしたんだよ」

 人の答えに公達は「なるほど」と感心しながら頷いていた。
 そんな会話が公と人の間で行われている中、1番バッターの裁はバッターボックスに入っていた。
 しかし、守っている全員が同じ黒い球体の顔で、線で書かれた細い体をした棒人間達というのは少し怖いものだとバッターボックスに立った裁は内心思っていた。
 そんな裁の内心など知るわけもない棒人間は振りかぶって1投目を投げた。
 棒人間の投げた球のスピードは公のストレートより少し遅いので、裁は初球から積極的に打ちにいった。

「カキーン!」

 いい音とともに打ち返されたボールは見事にセンター前に転がり、ヒットになった。
 裁が出塁したので、朧月は1度ベンチのほうを確認した。
 すると、秋が分かりやすくバンドのポーズをしていた。
 そうだろうと思っていた朧月はバッターボックスに入ってバンドのかまえをとった。
 すると、当然棒人間達はバンドシフトで1・3塁手が前に出てきた。しかし、そんな中でも朧月はしっかりとバンドを決めて裁を2塁に進塁させた。
 得点圏に裁が進み、打順がクリーンナップに回るという最高の形で3番の龍がバッターボックスに入った。
 棒人間は2塁の裁を気にしながら龍へ1投目を投げるがボール。
 2球目もボールになり、3球目。
 ストライクゾーンに入ってきたストレートを見逃さすがに見事に打ち返した龍。

「カキーン!」

 快音を残して飛んでいったボールを見た瞬間、ベンチの公達、さらには観客も歓声をあげた。
 飛んでいったボールはフェンスに直撃する長打で、裁は悠々とホームに帰ってきて、打った龍も2塁まで到達した。
 先制のホームを踏んだ裁がベンチに帰ってくると、桜達とハイタッチをしていった。

「公!お前も続けよ!」

 庵の言葉に公は手を振り返し、バッターボックスに入った。
 しかし、棒人間はすぐには投げずに少し間を置いた。

"いきなりの失点に動揺したのか?"

 公がそんなことを考えていると棒人間が1球目を投げてきた。
 公が見逃すと判定はストライク。
 その後、ボール、ストライク、ボール、ファール、ファール、ボールとなり、フルカウントの8球目。
 ストライクゾーンに入ってきたストレートを打ち返すも、飛んだところが悪くライト正面のライナーでアウトになってしまった。

「なんだ!あのバッティングは!4番失格だ!我と交代しろ!」

 中二が叫んでいるが、誰も気にせずに次のバッターの蛙を見ていた。

「おい!」
「静かにね」
「あっ、はい」

 夏に怒られた中二はおとなしくなり静かになった。
 蛙は打つことには打ったが、ファーストゴロに倒れた。しかし、そのゴロの間に龍は3塁に進塁した。
 そして次のバッターは壱なのだが、棒人間が変化球を多用し始めたために空振り三振で公達の初回の攻撃は終了した。

「せっかくのチャンスを不意にして悪かったな」

 壱が謝っているけど公達は気にしておらず、笑顔で壱を迎えた。

「気にするなよ」
「そうですよ」
「でも、あのキレのある変化球は少々厄介ですね」

 蛙の言葉に公達は頷いた。
 公達が打ってきたボールは全てストレートだった。
 理由は球速が遅いうえに球の軌道もまっすぐで打ちやすいからだ。

「とりあえず変化球は捨ててストレート待ちが基本で、甘い変化球は見逃さずに打つ。追い込まれたら変化球を頑張ってファールにしてできるだけ粘って、ストレートか相手の失投待ちでいこう」

 龍の言葉に公達は頷いた。

「それじゃあ、2回の守備も頑張っていこう!」
『おー!』
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