私のための小説

桜月猫

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111話

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 2回・3回・4回・5回と順調に試合は進み、現在の点数はら9対0で公達が圧倒している状況だった。
 しかし、ベンチの公達は喜ぶどころか怪訝な表情を浮かべていた。

「なぁ、ロマ、マロ」
≪なんですか?≫
<なにかな?>
「いまのところ普通に野球の試合をしているけど、このまま作者がなにもしてこないってことあると思うか?」
≪ないですね≫
<ないだろうね>

 2人の即答に公はため息を吐きながら額に手をあてた。

「やっぱりか」
≪ここまでマトモに野球が出来たこと自体がある意味奇跡といえるでしょう≫
「だよな。そして試合も残すところあと4回だし、そろそろ作者がなにか仕掛けてくるころだろうな」

 それはみんな薄々感じているのか、頷いたり呆れたりしていた。

「しかし、作者はどんなことしてくると思う?」
<さすがにそこまではわからないな>

 マロの苦笑に、公は「だよな~」と頭を掻いた。

「まぁ、今考えたところで意味あらへんし、とりあえず行こか、公」

 人に言われ、「そうだな」と思った公はグローブをはめてピッチャーマウンドに向かった。
 さて、6回の棒人間チームの打順は8番から。
 公は早速初球を投げ込んだ。
 棒人間達はいままで初球を見送って1度もバットを振ることはなかったのだが、さすがに点差が点差なので焦っているのか、初球から積極的にバットを振ってきた。

「カキーン!」

 打ち返されたボールはライト前に転がり、先頭打者が塁に出た。
 いままでなかった展開に「おぉっ」と公が驚いていると、廻からボールが返ってきた。

「センター君に代わりまして、代走、陸上部君」
「なに?」

 アナウンスの言葉に公達が戸惑っていると、三塁側のベンチから陸上部員が出てきて一塁までやって来た。

「とうとう作者が仕掛けてきやがったか」
「続いて9番、ライト君に代わりましてテニス部君」

 さらなるアナウンスに公は額に手をあてた。
 そんな公をよそに、バッターボックスにはラケットを素振りしながらテニス部員が入った。

「タイム」

 タイムを取った人がマウンドにやって来ると、内野も集まってきた。

「完璧に作者の仕業やろうな」
「でしょうね。じゃないと、野球の試合に陸上部員やテニス部員が出てくるわけがないですからね」

 公達は素振りをしているテニス部員をチラッと見た。

「でも、バットじゃなくてラケットで打つ気なんですね」
「まぁ、ラケットでも打ち返せないことはないだろうし、使い慣れた道具を使ったほうがやりやすいだろうからな」
「ってか、野球の試合でラケット使っていいのか?」
「どうせ文句を言ったところで取り合ってもらえないだろうし、気にする必要ないんだろ」

 龍の言葉に公達は「それもそうだ」と笑った。

「そうやな。相手が野球部だろうがテニス部だろうがやることに変わりわないんやから、いままで通りいくで、公」
「あぁ」

 朧月達も頷いて守備位置に戻っていった。
 公は投げる前に軽く息を吐くと、一塁ランナーの陸上部員のほうへチラッと視線を向けて驚きから固まってしまった。
 なぜなら、陸上部員はクラウチングスタートの態勢をとっていたからだ。
 これにはファーストを守っている朧月も驚いていた。
 さらに言えば、陸上部員の右足はベースを踏んでいるので牽制でアウトにすることはできない。

「公!」

 人の叫び声にハッとした公は陸上部員を気にするのをやめてサインを確認した。
 サインは高めのストレートだったので、サイン通り高めのストレートをクイックで投げていると、

「走った!」

 朧月の言葉に反応した公は、投げ終わると「ストライク!」人がセカンドに投げやすいようにすぐにしゃがみこんだ。
 陸上部員は絶対盗塁すると思っていた人は、軽く中腰の態勢でいたのですぐにセカンドに投げたが、さすがに陸上部だけあって足は速く、悠々と盗塁を成功させた。

「やっぱりムリやったか」

 もとより盗塁を阻止できると思っていなかった人は、すぐに気持ちを切り替えてテニス部員を打ち取ることに集中した。
 そして、出したサインは低めにフォーク。しかも、ワンバンしてもいいという意味も込めてミットを軽く地面につけてからかまえた。
 頷いた公はホームベースのさらに手前でワンバンするフォークを投げたのだが、テニス部員はワンバンしたボールを見事にすくいあげて打ち返した。

「なにっ!」

 驚きながら振り返った公は打球の行方を確認した。
 打球は左中間を深々とやぶり、てんてんと転がっていった。
 そうなると2塁ランナーの陸上部員は楽々とホームに帰ってきて、打ったテニス部員も2塁まで到達して止まり、拳をつきあげた。

「タイム!」

 すぐにタイムを取ると、また内野陣で集まった。

「すまん。さっきのは俺のサインミスや。テニス部やから当然ワンバンのボールは打ちなれてるし、バットと違ってラケットは打てる場所の面積が広いってことを忘れてたわ」
「仕方ないって。普通、野球の試合にバットの変わりにラケットを持って出てくるバッターも代打でテニス部が出てくることもないんだからな」
「そうだぜ」
「気にする必要ないって」
「まだ1点返されただけだしな」

 公達が人を励ましていると、

「1番、レフト君に代わりまして、代打、ラスロス部」

 そのアナウンスになんとも言えない表情になった公達がバッターボックスのほうを見ると、ラクロス部員がバットではなくスティックを素振りしていた。

「なぁ。取り合ってもらえなくてもいいから1度抗議してみないか?」
「止めておけ」

 廻の提案を龍が止めた。

「でも」
「気持ちはわかるが、どうせこれ以上のおかしなことを作者はしてくるだろうから、いちいち抗議してたらきりがないぞ」
「そうですけど………」

 渋る廻。
 その気持ちは公達もわかるので、苦笑していた。

「とりあえず、今はこのピンチをのりきることが最優先だから気合いいれていくぞ」
『おー!』

 気合いを入れ直した内野陣が守備位置に戻ったので、公はサインを確認。
 外角低めにストレート。
 頷いた公はサインどおりに外角低めにストレートを投げ込んだのだが、ラクロス部員はそれをスティックで受け止めると、1回転して放り投げた。

『そんなのありか!』

 まさかの『打つ』ではなく『投げる』という行動に公達はありえないとばかりに叫ぶのだった。
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