私のための小説

桜月猫

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29話

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 昼食を食べた公達はとある障害者施設にやって来ていた。そこにはすでにAT社のワゴン車が3台いて、運んできた動物達のおろしていた。

『社長。こんにちは』

 史に気づいた社員達が頭をさげた。

「みんな、ご苦労様。動物達の様子はどう?」

 史はスタッフにそう問いかけたが、公のもとに元気よく集まった動物達を見て頷いた。

「元気はありあまってるみたいだね」
「えぇ。でも、公くんのおかげでよけいに元気になったみたいですね」

 動物まみれになった公はというと、身動きがとれずに立ったまま固まっていた。

「ほら、みんな。公にかまってほしいのはわかるけど、待ってる子供達がいるから中に入るわよ」

 トレーナーの呼びかけで公から離れた動物達は、トレーナーのあとについて中に入っていった。

「私達も行きましょうか」

 動物達が離れてくれてホッとした公は史達と中に入った。公達が中に入ると、動物達は障害のある子供達とたわむれていた。
 その様子を見ながら公は1人の少女のもとにやってきた。

「その足音は公お兄ちゃんですね」

 公のほうに顔を向けた少女。その目はつぶられていた。
 少女、ひとみは生まれつき目が見えない盲目の少女だ。しかし、盲目だからこそ音には敏感で、足音だけで相手が誰かを判別することができる。

「正解。久しぶりだな、瞳」
「本当ですよ」

 瞳は怒ったように頬を膨らませた。

「そう怒るなよ」

 公が頭を撫でたが、瞳はプイッとそっぽを向いてしまった。

「怒ってほしくないのだったら、もっと頻繁に来てほしいかな」
「だから、1ヵ月に1回は必ず来るようにしてるだろ?」
「1週間に1回にしてくれたら許してあげる」
「高校が始まって忙しくなるだろうからそれは約束できない」

 瞳のお願いをきっぱり断る公。

 鬼畜だね~。

「うるせー。できない約束をして瞳を悲しませるほうがよっぽど鬼畜だろうが」

 まぁ、それもそうだけど。

「だったらこれでいいんだよ」

 なら、少しの間だけ瞳に奇跡をあげよう。

「なにする気だ?」

 な~に。今回のムチャは公も怒れないよ~。というわけでGO!


          *


「ここは………」

 公が周りを見回すと、そこは教室の中だった。

「俺は………」
「はぁ。ようやく起きましたね、公先輩」

 声のしたほうを見上げると、瞳が頬を膨らませながら公を見ていた。そう。ちゃんと公をその目で見ていた。

「校門で待ち合わせて一緒に帰ろうって約束したのに、いつまで経っても来ないから捜しましたよ」
「えーと、瞳?」
「なんですか?」
「目が見えるのか?」

 その問いに瞳はため息を吐いた。

「見えるに決まってるじゃないですか。視力は2.0ですから」

 瞳は呆れたようにため息を吐いた。

「そうだっけ?」
「そうですよ。もう。公先輩まだ寝ぼけてます?」

 瞳は公の頬をつまむと左右にみにょーんと伸ばした。

「いひゃい」
「あはは。公先輩面白い顔してますよ」
「ひゃめい」

 しかし、瞳は笑って止めようとしないので公は瞳の頭を少し雑に撫でる。

「公先輩。やめてください」

 公の頬から手を離した瞳は文句を言うが、その顔は嫌がっておらず、笑顔だった。

「帰るか」
「はい!」

 学校を出た2人は通学路を並んで歩く。

「公先輩」

 瞳に呼ばれた公は、なんともいえない表情で頭を掻いた。

「どうしました?」
「いや、その先輩呼びに慣れなくてな」
「じゃあ、公お兄ちゃん」

 呼び方を普段のものに変えた瞳は甘えるように腕に抱きついた。

「なんだ?」
「寄り道しよ」
「今日はどこなんだ?」

 瞳は何か新しいものを見つけるとすぐに寄り道を提案してくるので、公は慣れた様子で聞き返した。

「駅地下のクレープ屋さんに新作クレープが出てきたんだって!」

 瞳は目をランランと輝かせながら公の腕を引っ張った。

「わかったわかった。行くからそんなに引っ張るな」
「やったー!」

 飛び上がった瞳だが、着地でバランスを崩して倒れそうになったのだが、公が素早く瞳を抱きしめて転倒を阻止した。

「あぶねーな。嬉しい気持ちはわかるけど、はしゃぎすぎだ」
「ゴメンなさい」

 しゅんとしている瞳だが、頬は微かに赤く染まっていた。

「ほら」

 公が手を差し出すと、瞳はさらに頬を赤くしながらも笑顔で公の手を握った。

「こっちだよ!」
「だから落ち着けって!」

 公の制止の声など聞いていない瞳は、公の手を引いてどんどん先に進んでいった。


          *


 目が覚めた公は体にかかる重さと温もりにお腹のほうを見ると、公の膝の上に座った瞳が公に抱きついて気持ち良さそうに寝ていた。

「寝ていたのか?」
「お目覚めになったみたいですね」

 声のほうへ向くと、夏蓮が微笑みながら公を見ていた。

「どれくらい寝てました?」
「1時間ほどですね」

 公はもう1度瞳を見た。

"おい作者。さっき俺が体験したのはなんだ?"

 瞳の目が見えていて、公と同じ学校に通ったら。という『もしもの世界』を2人には現実として体験してもらったんだよ。

"やっぱり、夢じゃなかったんだな"

 そうだね。確かに現実の体験ではあるけど、でもやっぱり夢なんだよ。

"どういう意味だよ"

 結局さっきの現実は『もしもの世界』であって、それがこの世界で現実になることはない。そして、『もしもの世界』だからこそ瞳の目は見えていたけどこの世界では目が見えることはない。

 ここまで聞けば公も理解していたが、あえて言う。

 そして、瞳がさっきの体験が『もしもの世界』とはいえ現実だと知ったら?当然期待するよな。またあの体験がしてみたいと。
 まぁ、体験させるくらいなら別に何度でもさせてあげてもいい。でも、『もしもの世界』から返ってきた時、瞳はこの世界の現実に耐えられるか?

"ムリ………だよな………"

 だからこそ夢じゃないといけないんだよ。

"わかったよ。しかし、お前もちゃんとやれば普通の小説が書けるんじゃねーか?"

 えっ?そんな普通の小説書いたって俺がおもしろくないじゃねーか。今回こんなことしたのはただの気まぐれだからな。

"はぁ。せっかく少しは見直したのに"

「ふぁ~」

 起きた瞳が大きなあくびをした。

「おはよう。瞳」
「おはよう。公お兄ちゃん」

 と、挨拶をした直後、瞳は慌てて公から離れたので公は首を傾げた。

「あれ?いつの間に私は公お兄ちゃんの膝の上に座って寝てたの?どうして?あれ?」

 混乱しだした瞳の頭を公は優しく撫でた。

「気持ち良さそうな寝顔で寝てたけど、いい夢でも見ていたのか?」

 寝顔を見られたことに顔を赤く染め上げてうつむいた瞳だが、見た夢はいい夢だったので小さいながらも頷いた。

「そうか。それはよかったな」
「私的にはあまりよくはないかな」

 いきなりの背後からの声に驚いた公が振り返ると、笑顔なのだけど不機嫌オーラ全開の史がいた。

「確かに、仕事の手伝いを頼んだのは私だし、仕事をちゃんとこなしている公に文句を言うのは間違ってるとわかってるけど、私にもかまってほしいな」

 苦笑した公が史の頭を撫でると史は嬉しそうな顔をした。

「それで、どんな夢を見たんだ?」

 史の頭を撫でながらも公は瞳に話をふった。

「私が公お兄ちゃんと一緒に学校に行くという夢のような夢でした」

 うっとりしている瞳を微笑ましく見る公。

「公お兄ちゃんも来てくれてそんな夢まで見れて、ホントに今日はいい1日です」

 公の膝の上で抱きついて寝てたしね~。

 俺の一言で頬が赤くなる瞳。

 今夜は公の温もりを思い出しながら寝るんだろ?

 この一言で一気に顔全体が赤く染まった。

「そそそ、そんなことしないもん!」

 動揺しすぎてバレバレだな。

「ッ~~~~~」

 恥ずかしがってうつむいてしまう瞳。その頭を公が撫でた。

「瞳をいじめるな、作者」

 ただ問いかけただけたも~ん。

「イジワルな質問しといてよく言うぜ」

 それは公の解釈で、俺はそんなつもりで聞いてないぞ。

「はいはい」

 俺を邪険にあつかった公は瞳が落ち着くまで頭を撫で続けるのであった。


          ◇


 ちなみに、この後史の家に戻った公は史と夏蓮に抱きつかれ、さらに家に帰ったときには夢・舞・薫の3人に抱きつかれ、もみくちゃにされたのだった。
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