私のための小説

桜月猫

文字の大きさ
上 下
56 / 125

55話

しおりを挟む
 桜・蛙・蘭の3人は職員室にやって来ていた。

「どうかしたの?」

 向日葵は首を傾げた。

「ここにイヌ来ませんでしたか?」
「学校の中にイヌが入り込んできたの?」
「はい。その入ってきたイヌが牡丹の家から脱走した牡丹のイヌなのでみんなで手分けして探しているんです」

 桜の話を聞いた向日葵は感心していた。

「そうなの。でもここにはイヌは来てませんし、常に人がいるここに来るとはおもいませんよ?」

 向日葵の疑問に3人には苦笑した。

「ここに来たのは作者のせいで………」

 蛙は今の状況を向日葵に説明した。

「そんなことになっているんですね」

 説明を聞いた向日葵は困った表情をしていた。

「それだと教室に向かえないですね」

 あぁ。これに巻き込まれるのは公達だけだから、向日葵は普通に出入り出来るよ。

「そうなの?」

 一瞬ホッとした向日葵だが、3人を見てハッとしてばつの悪そうな顔をした。

「気にしないでください。悪いのは作者なんですから」
「そうですよ」
「気を使わせてごめんね。もしここにイヌが来るようなことがあったら保護しておきますね」
「お願いします」

 頭を下げた3人は「失礼します」と言って次の場所へと向かった。


          ◇


 楓・由椰・蛍の3人がやって来たのは音楽室。

「居ないわね」
「居ませんね」

 楓と由椰がため息を吐いていると、蛍はピアノの前に座った。

「もしかしたら、音に引かれてやってくるかな?」

 そんな疑問を抱いた蛍はピアノを弾き始めた。

「蛍ってピアノ弾けたんだ」
「昔に少しだけ習っていてね。楓はなにか習い事してた?」
「私はなにもしてなかったわ。由椰はなにか習い事していたの?」
「わ、私もピアノを習ってました」

 そう言いながら由椰は恥ずかしそうにうつむいた。

「だったら一緒に演奏しない?」

 蛍は少し横にずれて由椰が座れるスペースを作った。

「は、はい」

 頷いた由椰が蛍の隣に座ると、2人は視線をあわせた。直後、即興で曲を弾き出した2人に楓は驚くも、すぐに曲に引き込まれて静かに聞いた。
 曲が終わると拍手を送った楓。

「スゴくよかったわ」
「ありがとうね」

 微笑む蛍とは違い、由椰は恥ずかしそうにうつむいた。

「でも、結局チロは来なかったわね」
「ホントに、どこにいるんだろうね」

 楓と蛍はため息を吐いた。


          ◇


 庵と中二はイヌを追いかけて廊下を走っていた。

『待ちやがれ!』

 しかし、イヌが待ってくれるわけもなく、2人とイヌの距離が縮まることはない。
 イヌは一瞬2人のことを振り返ると角を曲がった。なので2人も追いかけて角を曲がると、庵がゆっことぶつかり、中二は寸前のところで夕との激突を避けた。

「イッタいわね!」
「すまん!」

 一言謝りイヌを追いかけようとした庵だが、ゆっこに襟を掴まれて「ぐえっ」とのどを詰まらせた。

「我は先に行くぞ!」

 関係のない中二はイヌを追いかけた。

「なにするんだよ!」
「そっちからぶつかってきといてその言い方こそなによ!」
「だから謝ったじゃねーか!」
「あれが謝罪のつもりなの?」
「はいはい。そこまで」

 不毛な言い争いに夕が割って入った。

「廊下を走っててぶつかった庵が悪いってのはわかってるでしょ?」
「あぁ」

 売り言葉に買い言葉でゆっこと言い争ってしまったが、そこを間違えるつもりはない庵。

「だったら、ちゃんと謝らないといけないってのもわかるよね」
「あぁ。すまなかった」

 感情的にならずにキチンと話せば庵は素直に頭を下げた。

「ちゃんと謝ってくれたんだし、ゆっこも許してあげたら」
「わかったわよ。今度は気を付けなさいよ」
「あぁ」

 ゆっこの言葉に庵が頷いた直後。

「庵!」

 後ろから聞こえてきた声に庵が振り返ると、イヌと中二がこちらへ向かって走ってきていた。

「捕まえろ!」
「よし!」

 庵がイヌに迫ると、イヌは近くの扉に飛び込んでいった。

「くそっ!」
「待てっ!」

 当然2人はイヌを追って扉に入っていき、出てきたのはプール。しかし、イヌの姿が見当たらない。

「どこに隠れやがった?」

 2人がプールサイドで辺りを見回していると、隠れていたイヌが庵をプールに落とし、直後に中二もプールへ落とした。

「ワン!」

 浮上してきた2人に吠えたイヌはまた逃げた。

『ヤロー!』

 怒りに燃える2人はすぐにプールから上がるとイヌを追いかけた。


          ◇


 暁・彩・雪の3人はまだ校庭を探していたが、チロが見つかる気配はなかった。

「う~ん。校庭にはもう居ないのかな~」
「これだけ探しても見つからないとなると、居ない可能性の方が高いだろうね」
「もしかしたら、他の誰かが捕まえてるかもしれませんよ」
「そうね」
「かもしれないね~」

 というわけで、3人は捜索をやめて一息吐いた。

「とりあえず、ここには居なさそうだし移動しない?」
「賛成~」
「はい」

 雪の提案に賛成し、3人は早速手を繋いで校舎の玄関をくぐった。そうして出てきた先は屋上。

「ここから見渡してみる~?」
「見えるかどうかわからないけど、見てみましょうか」

 三方に別れて下を見回してから再度集まった3人。

「どうだった?」
「いなかったね~」
「見当たりません」
「こっちも居なかったから外には居ないのかもね」
「それじゃあ中に戻ろ~」

 2人の手を握った暁は引っ張るようにして屋上の扉をくぐった。


          ◇


 朧月・薫・牡丹の3人は1年3組の教室に戻ってきていた。

「はぁ~」

 席についた牡丹は大きくため息を吐いた。

「見つからなかった」
「てか、作者が意図的に見つけられないようにしてるんじゃねーか?」

 あー。それはないない。そんなセコいことはしないから。根気強く探せば絶対見つかるようにしてるから。

「信用出来ない」

 薫の言葉に朧月と牡丹も頷いた。

「はぁ。疲れたから、あとはみんなが帰ってくるのをここで待ってよう」
「それでいいのか?」

 朧月が確認するように問いかけると、牡丹は笑顔を返した。

「どうせ私達が見つけられなくても、お腹がすいたらそのうちひょっこり帰ってくるし、そうじゃなくてもうちの誰かが見つけてくるから大丈夫だよ」
「そう」
「ならいいけど」

 3人はみんなが帰ってくるのをゆっくりと待つことに決めた。


          ◇


 公は色々と歩き回ったのちに体育倉庫にやって来ていた。

「はぁ。今度は体育倉庫か」

 公がため息を吐いた瞬間、奥でビクッとなにかが動いた。なので、公が目をこらして闇の中を見つめると、そこには犬を抱いてうつ向いている光がいた。

「光?」

 公が呼び掛けると、光は恐る恐る顔を上げた。

「こ………う?」
「あぁ、公だ」

 公が頷くと、涙目の光は公の胸に飛び込んだ。公は光が抱いている犬が潰れないように気をつけながら光を抱き止めた。

「もしかして、1人でここに居たのか?」
「うん」

 怖かったのだろう。光は震えていた。

「その犬は?」
「チロ」

 そう答えながら光は犬の首輪についている名前を公に見せた。そこには確かにチロと書いてあった。

「光が捕まえたのか?」
「ここに居たらやって来て、一緒に居てくれたの」
「そうか」

 公がありがとうの気持ちを込めて頭を撫でると、チロは嬉しそうに目を細めた。

「ずっとここに居たの?」
「あそこを通るのは怖いから。公は平気なの?」
「原因があのバカだって分かってるからな」

 作者をバカ呼ばわりなんて、相変わらず扱いがヒドイ!

「光をこんなに怖がらせといてよくいうよ」

 それについては申し訳ない。

「光。俺と一緒になら行けるか?」

 そう言いながら公が手を差し出すと、光は頷いて公の手を取った。

「なら行こうか」

 公は光の手を引きながら扉をくぐった。そうして出てきた先は1年3組の教室。そこには庵と中二以外のみんなが揃っていた。

「あっ、公と光だ~」
「光は公といたんだね」

 光の姿を見た蛍はホッとしていた。

「光と出会ったのはついさっきなんだけどね。あと、チロとも」

 そう言いながら公が光を押し出すと、牡丹がすぐに反応して光のもとへやって来た。

「チロ」

 光はチロを牡丹に差し出した。

「チロー!」

 チロを受け取った牡丹は抱き締めた。

「光!ありがとう!」

 チロを抱き締めた牡丹は光にも抱きついた。牡丹に抱きつかれた光は照れながらもちゃんと言った。

「どういたしまして」

 その言葉に笑顔になるみんな。すると、いつの間に公の足元に1匹のイヌがいた。

「このイヌは?」

 不思議に思いながら公が扉のほうに目を向けると、みんなも扉のほうを見た。
 次の瞬間、ヘロヘロになった庵と中二が現れた。

「公。そのイヌ捕まえてくれ」
「なんで?」
「それがチロだろ?」

 中二の言葉に公達の視線は牡丹の抱いているチロに集まった。

「チロはこっちだぞ」

 公の言葉に驚愕の表情を浮かべた2人。そして、庵は恐る恐る問いかけた。

「じゃあそのイヌは?」
「全く関係のないイヌだな」

 その答えに2人は倒れ付し、それを見たイヌが「ワン」と吠えると公達は笑いだした。
しおりを挟む

処理中です...