私のための小説

桜月猫

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56話

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 梅雨の中休みで雨が止んだ土曜日。公は雪との待ち合わせ場所の○○駅前に立っていた。

「すまない。待たせてしまったか?」
「いや。時間通りだし、俺も今来たところだから大丈夫だぞ」

 公の返事を聞いた雪はホッとしていた。

「それで、人から連絡があったって言ってたけど、どうしたんだ?」

 そう。公が雪とこうして待ち合わせをしていた理由は人なのだ。

「用件の内容までは教えてくれなくてな。直接会って話をしたいとのことだ」

 用件がわからずに2人が不思議に思っていると、人がやって来た。

「おっ、呼び出した俺が最後とはすまないな」
「私達も今来たところだから気にすることはない」
「そうか」

 人がやって来たので早速雪は問いかけた。

「それで、用件はなんなの?」
「歩きながら話そうか」

 2人が頷いたので、人を先頭に歩き出した。

「それで用件なんだが、これを見てくれるか」

 そう言いながら人が取り出したのはいつも持っているハリセン。
 しかし、いつもと違う点が1つあった。
 それは、ハリセンの先に矢が刺さっているということ。

「その矢は?」

 予想外のことに公は少し戸惑っていた。

「それで、この矢にくくりつけられていたのがこの手紙なんや」

 人はさらに手紙を取り出した。

「つまり、その矢は矢文の矢ってこと?」

 雪の問いに人は頷いた。

 矢文っていつの時代だよ。

「ホンマにその通りやわ」
「それで、手紙の内容はなんて書いてあったの?」

 雪も時代錯誤だとは思ったのだけど、話を進めるために手紙の内容を聞いた。

「見てみ」

 人が手紙を渡すと、公と雪は手紙を広げた。手紙には達筆の習字でこう書かれていた。

『この度はこの様な形での突然の手紙になったこと、誠に申し訳なく思うでござる。
 本来であれば拙者のほうからお三方のもとへ行き、前回の拙者の失態を謝罪すべきなのでござるが、訳あってお三方のもとへ行くことが出来ないので、今週末土曜日に○○市の○○道場に来てほしいでござる』

 手紙を読み終えた公と雪はため息を吐いた。

「こんな一方的な手紙を送っておいてホントに反省してるのかしら」
「それを確認するために今、道場に向かってるんや」

 ようやく今日の目的を理解した2人。

「そういえば、この矢文はいつ届いたの?」
「一昨日にいつも通りヤンキー達をハリセンで叩いてたら飛んできたから驚いたんや」

 あ~。それは驚くよね~。

「やろ。ヤンキー達も驚いて腰抜かしとったわ」

 人が笑っていると、目的地の道場に到着した。

「ここがその道場やな」
「ここが」

 公が見上げた道場はなかなか立派な道場だった。

「中に入りましょう」

 雪が先頭に門をくぐり抜けると、いきなり門下生達に囲まれた。

「貴様ら、何者だ!」

 門下生は全員羽織袴でその手には木刀が握られていた。

「手紙を受けてやって来た者だ」

 人は手紙を門下生の少年へ投げた。手紙を受け取った少年は中を確認した。

「なるほど」
「理解してもらえたかな?」
「やれ」

 少年の一言に門下生達が公達に襲いかかった。

「なんでや~」

 人は両手にハリセンを持って門下生の木刀を弾いていく。公や雪も門下生の木刀を避けていく。

「どうするのよ?」
「どうするってゆわれてもな~」
「とりあえず道場のほうに向かうってのは?あそこにこの前の少女がいるはずだろうし」

 公の提案に雪も人も頷いて行動を始めた。
 ハリセンを持っている人が先頭を走って門下生の木刀を弾いて道を作り、公と雪がその後を追い、道場の中に飛び込んだ。
 道場の中にはこの前の侍娘と男性が1人いた。

「ようこそでござる」
「全く歓迎されているようにはおもえへんけどな」

 ハリセンをしまった人は頭を掻いた。

「外の門下生達の対応は父の指示なので、門下生達を恨まないでやってほしいでござる」

 侍娘がチラリと横の男性を見た。

「すまないな。君たちがどれだけできるか知りたくて門下生達を仕掛けさせてもらった」

 男性が頭を下げると侍娘も頭を下げたので3人の気持ちは少し落ち着いた。

「つまり、これが矢文で俺達を呼んだ理由ですか?」
「そうでござる」

 侍娘が認めると、公はため息を吐いた。

「どうして俺達の実力を知りたかったんや?」
「その前に、この前の謝罪をさせてほしいのでござるよ」

 侍娘が間に入ってきた。なので、公達は顔を見合わせて頷いた。

「わかったわ。謝罪を聞こか」

 すると、侍娘は姿勢を正した。

「この前は本当に申し訳なかったでござる!」

 土下座をした侍娘。

「お三方に言われて正義や悪について考えなおしてみたでござる。
 確かに拙者の正義はやり過ぎだったでござるし、考えなしではた迷惑な正義でござった。それを理解したでござる。
 ホントに申し訳なかったでござるよ!」
「俺達より謝まらなあかん相手がおるんちゃうんか?」
「拙者がケガをさせてしまった相手にはしっかりと謝罪しにいったでござるよ」

 侍娘の言葉に人は頷いた。

「そういえば、あなたの名前を聞いてなかったわね」
「そうでござった。拙者の名前はこころでござる」

 心の名前を聞いた雪は自分も自己紹介をし、公や人も自己紹介をした。

「それで、なんで俺達の実力を知りたかったんや?」

 人は心父を見た。

「なに。噂通りの実力なら俺が戦ってみたいとおもったからな」

 立ち上がった心父は木刀を人に放り投げた。

「はぁ。このおっさんただの戦闘狂やないか」
「あはは!否定はせんな!」
「否定してくれや」

 呆れながらも人は木刀を拾うと一気に間合いをつめて斬りかかった。

「おっと!」

 とっさの反応ながら人の一撃を受け止める心父。

「卑怯じゃねーか?」
「自分の得意の剣術勝負に持ち込んどいて卑怯なのはどっちや」
「これは1本とられたな」

 人を押し返した心父。
 そこからは一進一退の攻防が始まり、その様子を門下生達は見つめていた。

「なぁ、俺達の用事はもう終わったはずだよな?」

 壁際で人と心父の戦いを見ていた公はふと呟いた。

「そのはずだよ」
「すまないでござるよ。人殿が言ったように、父上は強い相手とは戦わずにはいられない戦闘狂でして」

 申し訳なさそうにしている心。

「心が悪いわけじゃないから気にしなくていいよ」
「のっかった人も悪いしね」
「しかし、人殿は噂通り強いでござるな。雪殿もあれぐらい強いでござるか?」

 心の期待のこもった視線をうけた雪は苦笑した。

「私は1度人に負けてるからね。あそこまでは強くないわよ」
「そうなのでござるか?」
「えぇ」

 公達がそんな会話をしている間も人と心父の戦いは激しくなっていった。

「なかなかやるじゃねーか」

 心父は戦いが楽しくて笑っていた。

「おっさん。付き合ってられへんし、そろそろ終わらせよか」

 そう言って人は木刀を振り下ろした。

「よかろう」

 心父は木刀を振り上げる。
 2人の木刀がぶつかり合うと、人の木刀が弾き飛ばされた。

「俺の勝ちだ」

 勝利を確信して木刀を振り下ろそうとする心父の頭を人がハリセンで叩いた。

「俺の勝ちや」
「なっ!貴様卑怯だぞ!」
「別に武器が木刀だけと決めてたわけやないんやし、先に攻撃を当てた俺の勝ちや」

 その通りなので心父は「ぐぬぬ」と唸っていた。

「父上。負けを認めるでござるよ」

 心に言われて心父は息を吐いた。

「わかったよ。俺の負けだ」
「それじゃあ、用事も済んだし、俺達はこれで帰らせてもらうわな」

 そう言って振り返り、公と雪の姿を探した。しかし、どこにもその姿はない。

「あぁ。公殿と雪殿なら付き合ってられないと言って先に帰ったでござるよ」

 心の言葉に唖然とした人を心父がニヤニヤしながら見ていた。その姿にイラッとした人は噛みついた。

「お前のせいだぞ、おっさん!」
「なんだと!」

 言い争いを始めた2人を見て、心は大きなため息を吐くのだった。
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