私のための小説

桜月猫

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78話

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 家に帰って来た公を出迎えたのは当然萌衣で、その姿をみた白が驚いていた。

 まぁ、一般家庭にメイドなんて普通はいないから仕方ないことだろう。

「お帰りなさいませ、公様」
「ただいま、萌衣さん」

 驚いている白をよそに、公と萌衣は普通に会話を始めた。

「そちらの女性は?」
「彼女は白。今日からいつまでかはわからないけど、うちで暮らすことになったから」

 公の言葉に萌衣は一瞬眉をひそめると、白へ視線を向けた。しかし、すぐに公へ視線を戻すと頭を下げた。

「かしこまりました」

 公が決めたことなら萌衣は何も言う気はなかった。

「舞達はいる?」
「はい。いらっしゃいます」
「そう。みんなに説明しないといけないからリビングに集めてもらえるかな?」
「かしこまりました」

 一礼した萌衣は舞達を呼びにいった。それを見送った公が白を見ると、白はまだ驚きから返ってきていなかった。

「白」
「はっ」

 公に呼びかけられてようやく我に返る白。

「え~と、公ってどこかの御曹司なのですか?」
「違うけど」
「えっ?でも、メイドいましたよね?」

 萌衣が去った方向を見た白。公は苦笑した。

「それは作者のせいだな」
「作者のせいですか?」
「そうそう」

 いや、俺せいじゃないからね!

「お前のせいだ。と、いうわけでメイドがいるんだよ」

 一方的に決めつけられ、話を進められた。

「そうなんですね」
「そうなんだよ」

 頷きあった2人はリビングに向かった。
 リビングにはすでに全員が集まっていて、入ってきた公と白に視線が集まった。特に、公へ軽く睨み付けるような視線が集まった。

「お義兄さま。ちゃんと説明していただけるのですね?」

 少し殺気立っている夢の言葉に公は苦笑した。

「俺から説明できることと言えば、白が助けを求めてきたから助けた、ということぐらいで、あとはそこの嘘つき娘に聞いてくれ」

 公の答えに夢はため息を吐き、嘘つき娘と言われた白は驚いていて目を見開いて公を見ていた。

「私は嘘はついてないんだけど」

 すぐに冷静さを取り戻した白は苦笑した。

「そうなのか?」

 ソファーに座った公は前の席に座るように白に勧めた。
 公に勧められた通りにソファーに座る白。

「それで、私がどんな嘘をついているの?」

 白が公を見つめていると、萌衣が紅茶を持ってきてみんなの前に置いていった。
 その紅茶を一口飲んでから白を見つめ返した。

「まず、俺に助けを求めた理由」
「黒服に追われていたのは公も確認したよね?」

 それは幽からも聞いたし、からくり屋敷でも映像で確認したので頷いた公。

「だったらなにが嘘なの?」
「あの黒服が白のあとをつけてきていたことは間違いないんだけど、あの2人はホントに白を追ってきていたのかい?」
「なにがいいたいの?」

 白は公を睨み付けた。

「いや、あの黒服2人は、白に害をなそうとして追ってきていたんじゃなくて、白を護衛するためにあとを追ってきていたんじゃないのかな」

 公のその言葉に白がピクッと反応して固まった。それからすぐに小さくだがため息を吐いた白。

「どうしてそう思ったのか聞かせてもらえるかな?」
「そうだね」

 公はまた一口紅茶を飲んだ。

「最初に疑問に思ったのは俺に助けを求めてきた時」
「なっ!」

 まさかそこからだとは思っていなかった白はかなり驚いていた。

「あの時の白は、悪い人達から追われているとは思えないぐらい余裕があったからね」
「それは、さすがに人込みの中では襲われないと思っていたからよ」
「でも、見ず知らずの黒服達に追われれば震えるくらいしてもいいのに、白はそんなことなかったよね?」

 白は黙ってうつ向いてしまったので公は勝手に話を進めた。

「それに、助けを求めるなら警察に行けばよかったのにそうしなかったのも疑問に思うところだったね」
「それは、親に心配をかけたくなかったからよ」
「家出してるくせに?」

 公のカウンターの一言に白はまた黙りこんだので、公は苦笑した。

「それに、からくり爺の問いにすらすらと答えたことも、嘘をついていると思った理由の1つだね」
「どうして?」

 白は半分諦めモードに入っていた。

「今日、初めて黒服達に追われたのにもかかわらず、『追われる理由に心当たりはないか?』と聞かれた時に『ない』と即答していたよね」
「えぇ。それがどうかしました?」
「いや、あんな黒服2人に追いかけられたら、何か理由があるんじゃないかと色々と考えるのが普通だろ。それなのに即答したってことは、黒服がどんな存在か知っているって証拠だろ」

 白は言葉を返すこともしなかったが、うつ向くこともなく、公をジッと見つめていた。

「それに、黒服達からも襲おうとかそういう雰囲気は感じられなかったし、君を見失ったあと、あっさりと引き下がったから、あれは白のボディーガードなんじゃないかと思ったんだ」

 そこまで聞いた白は大きくため息を吐いた。

「そうよ。確かにあの黒服2人は私のボディーガードよ」
「それをまいたのは本格的に家出をするため?」
「えぇ」

 頷いた白は紅茶を飲んだ。

「ボディーガードつきの家出なんて家出じゃないもの」

 そうだね。ボディーガードがついてきてたら逐一親に連絡をいれられるから、家出したとしてもすぐに連れ戻されるのがオチだね。

「そうなのよ。だから、黒服達をまくために公に助けを求めたのよ」

 全てを白状した白は公を見た。

「こんな私でもここに泊めてくれるの?」
「もちろん。どんな理由であれ、約束したしな」

 公が即答したことに白は驚いていた。

「公を騙して利用しようとしたのに怒らないの?」
「怒るもなにも、最初っから何かあるということはわかっていたからね。それでも助けると決めたのは俺の判断だから、今さらそれをなかったことにする気はないさ」

 公の答えに白はポカンとし、夢と薫は少し呆れた表情でため息を吐き、舞と萌衣は公を見て微笑んでいた。
 ハッと我に返った白は問いかける。

「本当にいいの?」
「いいって言ってるだろ」
「ありがとう」

 白が頭を下げていると、萌衣が白のもとへやって来た。

「紅茶のお代わりはいかがですか?」

 頭を上げた白が頷いたので、萌衣は紅茶を注ぐと公のもとへ。

「公様は?」
「頼むよ」

 公の返事を聞いて紅茶を注いだ萌衣は公を見て微笑んだ。

「何?」
「いえ。さすがヒーローと言われた公様だな、と思いまして」

 萌衣からヒーローという言葉が出てきたことに公は少し驚いていた。

「それは誰から聞いたんですか?」
「ふふっ」

 萌衣は意味深な笑みを返すと下がった。
 その後ろ姿を見ながらなんともいえない気持ちになった公は紅茶を飲むのだった。
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