紡ぐ者

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【第10章 砂漠の都市】

第2節 砂塵の彼方 〜不変〜

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「おい、目が覚めたか?」
ロビンが目を開けると、玖羽が目の前にいた。
「何があった?」
「どうやら眠らされていたみたいだ。ガレジストには効いてないみたいだが。」
ロビンは立ち上がる。
「1つ聞くぞ。お前は眠ってるときに何か見たか?」
「ラスベガスの景色を見たな。ただ、景色が歪んできて起きた。」
「そうか。俺は遺跡を探索していた。途中、崖から落ちて目が覚めた。」
遠くからのガレジストの声が聞こえた。車の近くにいる。
「急ぐぞ。変な足止めをくらったからな。」
2人は速足で車に戻る。
「ガーネットはどこに行ったんだ?」
ロビンは美桜に聞く。
「見てないわ。まだ外にいるんじゃない?」
ロビンは外を見渡すが、それらしき人影はない。
(やっぱりいない。何か嫌な予感がする。)
「3人共。これを見ろ。」
ガレジストが地面に何かを見つける。車から少し離れた位置だ。
「魔力痕だな。どこに続いてる?」
「この方角……おそらくラスベガスだ。コンパルゴのものに酷似している。」
「まさか……」
ロビンはすぐに車に戻る。
「どうした急に?」
「コンパルゴはガーネットを始末しようとしている可能性が高い!俺たちを眠らせたのも安全にガーネットを連れ去るために。」
「何が目的でそんなことを?」
「戦力の低下だろうな。」
「その可能性が高いな。急ぐぞ。」
全員が乗り込むと、車は勢いよく走り出す。


コン……
「ふぅ……」
ガンッ!
ガーネットの背後からコンパルゴが襲いかかる。ガーネットは槍で攻撃を防ぐ。
「やっぱ気づかれるか。」
コンパルゴは距離をとる。
「私をここに連れてきたのはあんたでしょ?」
「ちっ、バレてんのかよ。」
「さっきの変装……上手くできてたと思うわ。私は見抜いてたけど。」
ガーネットの雰囲気が変わる。
「私を孤立させた理由は?」
「決まってるだろ。お前らを確実に仕留めるためだ。」
「私しかいないけ……いや、そうか……ふぅ…」
ガーネットは溜息をつく。
「どうやら……持ち堪えれば私の勝ちみたいね。」
ガーネットは辺りに結界を張る。
「これで被害を考える必要がなくなる。」
「つまり、本気で戦えるってことだよなぁ?」
コンパルゴの姿が変わる。
(さてと……早くきなさいよ。)



「あとどのくらいかかる?」
ロビンはガレジストに聞く。
「座ってろ!今から転移魔法を使う。」
ガレジストは魔法を詠唱する。
「しっかり掴まってろ!揺れるぞ!」
ロビンたちは揺れに備える。しかし、いつまで経っても転移魔法が発動しない。
「どういうことだ?転移したのか?」
「不発だ。何者に妨害されている。」
「コンパルゴか……あの野郎、厄介なことしやがる。」
玖羽は車の外を見る。
「おい!外に何かいるぞ!」
地面の中を掘り進む何かがいた。
「まずい!デーザトシャークだ!」
砂の中から巨大な鮫が現れる。体色は砂のような黄土色をしている。
「デーザトシャークか。何か武器はあるか?」
「スナイパーが一丁ある。」
玖羽はスナイパーを構える。
「俺が仕留める。できる限り速度を上げてくれ。」
「デーザトシャークとの戦闘経験は?」
「ない。」
「ならやめろ。砂漠の奴は危険だ。」
玖羽は車から体を乗り出す。
「危険かどうかは…………行動に移してからだ!」
バァンッッ!
スナイパーから放たれた弾丸がデーザトシャークの眉間を貫通する。
「よっしゃ、命中だ!」
「まだだ!次がくるぞ!」
デーザトシャークの死体の後ろから、新たなデーザトシャークが出てくる。しかも今度は3匹だ。
「うぇっ?!」
「デーザトシャークは数匹の群れで行動する。さっきの銃声に刺激されたようだ。」
「なら全部仕留める!」
デーザトシャークは砂を巻き上げる。
「ぶわっ!」
玖羽は砂がかかりそうになり顔を引っ込める。
「青、行って!」
青はデーザトシャークに噛みつく。
「へへぇ!ふはひはひははひはふふは!(てめぇ!砂みたいな味がするな!)」
「え?なんて?」
「プッ!そんなこと聞いてる場合か!」
青は聞いてきたロビンに怒鳴る。
(青って意外とノリいいわね……)
デーザトシャークはどこかに去っていった。
「所詮は生物。格上の相手がいれば逃げるのは自然の理。今なら転移魔法が使える。しっかり掴まってろ。」
ガレジストは転移魔法を発動する。車体が大きく揺れる。
「うおわ?!」
「今の声、どこから出たの?」
「お前も聞いてる場合か!」
(こいつら、似た者同士だな。)
玖羽は2人の様子を見ていたら、そんなことを思った。
ドゴンッ!
転移が完了したようだ。遠くにはラスベガスが見える。しかし様子が変だ。
「なんか……なんだ?」
「まさか……急げ!」
ガレジストは運転手に急ぐように伝える。



「そこだ!」
ガキンッ!
「隙あり。」
ズバッ!ズバッ!
「くそがっ!」
ガーネットの魔法がコンパルゴの手足を切断する。しかし手足はすぐに再生する。
「この程度?ロビンから聞いたよりも遥かに弱いわね。」
(こいつ……調子に乗りやがって!)
(しかしなんだこの感じ?)
コンパルゴはガーネットから妙な気配を感じていた。
ジッ!
(くそ!また避けられねえ。)
コンパルゴは体がいつもより重く感じる。その上頭が痛い。
(呼吸が……しづらい……)
ガーネットはなんともない。コンパルゴだけ明らかに消耗している。
「お前……何をした!」
「これよ。」
ガーネットは結界を指さした。
「この結界は外と内側を"完全に"遮断する。そうなると密室空間ができて、当然空気は出入りしない。私は魔法を撃ってるだけだから問題はないけど、あんたは動き回ってる。今のあんたは酸欠の状態。あと……」
「どれくらい持つかな?」
スッッッ
ガーネットはコンパルゴに魔法を放つ。
「がっ…?!」
魔法はコンパルゴの脇腹を貫通する。
「ぐっ……なんだ……今のは?」
「貫通魔法を少し改良しただけよ。」
「改良……だと?」
「そ。放つ際に、魔力を圧縮して高い反発力を生み出すの。そうすればさっきみたいに……」

「凄まじい速度で撃てる。」
ピッッッ!
魔法がコンパルゴの頬をかする。
「今、わざと外したな。」
「いいえ。速すぎて制御するのに慣れが必要なだけよ。」
「じゃあ1つ教えてあげる。この改良版貫通魔法の最大の特徴はその速度。従来のものがおよそ、80~100kmなのに対して、改良版は300kmほどの速度で放たれるわ。」
(そんなもの、この結界内で避けられるわけ無いだろ……)
「もちろん、殺傷能力は非常に高いわ。」
ガーネットは自慢げに話す。コンパルゴの頭を槍で軽く叩く。
「そろそろ本気だしたら?このままだと私に殺されちゃうよ?」
「お前………それを貫通魔法(それ)を使わなかったのは、仲間がいたからか?」
ガーネットの口角が上がる。
「当たり。こんなもの、仲間がいて使えるわけないでしょ。」
ガーネットは中に舞う。
「私は群れるよりも、1人のほうが強いの。」
空中に無数の魔法陣が形成される。
(こいつ……)
「これ全部、避けられる?」
ズバッ!
無数の貫通魔法がコンパルゴを襲う。
「がはっ……」
コンパルゴは地面に倒れる。
「終わりね。ヴァンパイアもこれぐらい簡単だったらよかったのに。」
「………ろす。」
「え?」
「ぶっ殺す!!」
コンパルゴは結界を拳で破壊する。
「えぇ?!」
コンパルゴはガーネットの胸ぐらを掴む。
「お前だけは絶対に許さねえ!」
ガーネットは遠くに投げ飛ばされる。飛行魔法で体勢を整える。
「空中戦は私のほうが有……」
コンパルゴはガーネットの上にいた。拳がこちらに振り下ろされている。
(あ、これヤバい……)
ドンッッッッッ!
ラスベガス全体に凄まじい衝撃が迸る。
「くっ……なんて威力なの……」
「前の戦いであいつにも使ったが、あの時は人間の状態だ。今の俺は半獣。あの時とは非にならねえ威力だ。その上……」
コンパルゴは自身の左側の空(くう)を殴る。先程のように衝撃波が走る。
「人間のときとは違い、制限なしで使うことができる。」
「その代わり、反動が激しいが……」
コンパルゴはこちらにゆっくりと近づいてくる。
「防御魔法で直撃は避けたか。だが今のは空中で放った。ゆえに本気ではない。」
ガーネットは改良版貫通魔法を放つ。
「おっと。当たらねえな。」
(身体能力が全体的に上昇している。普通に撃つだけじゃあ当たらない。)
ガーネットは空中に向かう。
「逃げる気か?それとも鬼ごっこ?」
コンパルゴは脚力でガーネットのもとに跳ぶ。
「こいつでくたばれ!」
ガーネットはとっさに防御魔法を使う。しかし、コンパルゴの脚力に吹き飛ばされる。
(くっ……防御魔法が……機能してない。それほどコンパルゴの攻撃が強力ということね。)
ガーネットは立ち上がろうとすると、横にコンパルゴがいることに気づく。
「え?」
ドンッ!バキバキッ!ガンッ!
ガーネットは壁に吹き飛ばされる。衝撃で建物が崩れる。
「油断したなぁ。その慢心がお前の弱点だ。」
「ふぅ……その通りね。だけど……」

「この勝負、私の勝ちね。」
「あ?」
ザッ……
コンパルゴの後ろにはロビンたちがいた。
「やっと来たわね。……遅いわよ。」
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