29 / 53
29
しおりを挟む
わたしはおじさんの様子を見ながらもう一つの話も加えていく。洗濯やお湯の配布方法についてだ。洗面器を使うにしろバケツを使うにしろ片付けの問題も考えておかないと,サービスを始めてからこんなことがあるなんて思ってもいなかった、なんて思って後が続かなくなる。良い事ばかりではなく、悪いことも考えておく必要があると思う。何かを始めるときは最悪の想定も必要なものだ。考えていても考えを上回る事態は起こるはずだ。
「槙代についてもですが、他の設備も考えておかないといけないと思います」
「タオルとお湯を渡すんでしょう?ほかに何かある?」
おばさんはキョトンとしている。こうしてみるとリサと雰囲気が似ている。親子とだな、と感じる瞬間だった。わたしはそのことは胸に収めつつ説明を追加していく。
「そうです。そうなんですが、洗面器にお湯を入れて渡すとして、洗面器をいくつ用意しますか?宿屋が満室になった場合、全員に一度に渡すことはできませんよね?タオルだってどのくらい用意するのか?濡れたタオルを渡すわけにはいきませんよ。どのくらいの量を用意するのか。雨の日は乾かないことだって考えられます。その時はどうするのか。タオルを持って帰るお客様だっているかもしれません。その対策だって考えておく必要があります。それに一番の問題としてまずは部屋に持っていくのか、別に場所を用意してそこに来てもらうのか、そこから対応も変わってくると思います」
「なんか考えることばっかりだね」
お兄さんが始めて発言した。ネガティブな発言だが、現状に即した発言としてはあっていると思う。何かを始めるときは考えることが必要なのだ。わたしはお兄さんの発言を否定することはしなかった。現状を理解していると思えたからだ。
「そうですね。何かを始めるときは考えて行動することが大事です。何も考えずに始めると失敗して時に慌てる事になりますが、考えておけば慌てる事が少しづつ減らすことができると思います」
「パルちゃんっていつもそんな事ばっかり考えてるの?リサと同じ年とは思えないね」
お兄さんはリサを引き合いに出してわたしの事に言及した。今日、この家族の中でリサの名前が出てきたのは初めてだ。名前が出たついでにリサの事をどう思っているか聞いてみたい気がした。今なら考えを聞けるだろうか?リサの事をどう考えているのだろうか?
余計な事を考えている間におばさんから質問が入る。別なことを考えている余裕はなさそうだ。
わたしは考えを切り替えるとおばさんに向き直る。
「部屋に持っていく、ではだめなの?」
「ダメではありません。ただ、手間がかかります。もちろん、手間を増やすつもりで始める事なので、それでも良いと思うのですが。減らせるものは減らしたいのが気持ちの上ではあります。それに無理をしすぎると何事も続かないので」
「そうね、しなくて良い事ならなるべくしたくないしね」
「はい。それにこちらは家族経営です。手伝いにも限界があります。それに男の人の部屋にリサを一人で行かせるのはちょっと、とも思います。危険は少ない方が良いでしょうし」
「パルちゃん?」
おばさんが上ずった声を出す。リサと同じ年のわたしから女の子の安全について話があるとは思わなかったのだろう。おじさんとお兄さんは下を向いてしまっていた。二人には申し訳ないが危険はどこにでもある。用心して回避できるものは回避するに限ると思う。お兄さんはともかくおじさんからはリサの安全に対して同意してほしいものだ。安全性に危機感のない事に少し憤慨しながらわたしは話を続けていく。
「槙代についてもですが、他の設備も考えておかないといけないと思います」
「タオルとお湯を渡すんでしょう?ほかに何かある?」
おばさんはキョトンとしている。こうしてみるとリサと雰囲気が似ている。親子とだな、と感じる瞬間だった。わたしはそのことは胸に収めつつ説明を追加していく。
「そうです。そうなんですが、洗面器にお湯を入れて渡すとして、洗面器をいくつ用意しますか?宿屋が満室になった場合、全員に一度に渡すことはできませんよね?タオルだってどのくらい用意するのか?濡れたタオルを渡すわけにはいきませんよ。どのくらいの量を用意するのか。雨の日は乾かないことだって考えられます。その時はどうするのか。タオルを持って帰るお客様だっているかもしれません。その対策だって考えておく必要があります。それに一番の問題としてまずは部屋に持っていくのか、別に場所を用意してそこに来てもらうのか、そこから対応も変わってくると思います」
「なんか考えることばっかりだね」
お兄さんが始めて発言した。ネガティブな発言だが、現状に即した発言としてはあっていると思う。何かを始めるときは考えることが必要なのだ。わたしはお兄さんの発言を否定することはしなかった。現状を理解していると思えたからだ。
「そうですね。何かを始めるときは考えて行動することが大事です。何も考えずに始めると失敗して時に慌てる事になりますが、考えておけば慌てる事が少しづつ減らすことができると思います」
「パルちゃんっていつもそんな事ばっかり考えてるの?リサと同じ年とは思えないね」
お兄さんはリサを引き合いに出してわたしの事に言及した。今日、この家族の中でリサの名前が出てきたのは初めてだ。名前が出たついでにリサの事をどう思っているか聞いてみたい気がした。今なら考えを聞けるだろうか?リサの事をどう考えているのだろうか?
余計な事を考えている間におばさんから質問が入る。別なことを考えている余裕はなさそうだ。
わたしは考えを切り替えるとおばさんに向き直る。
「部屋に持っていく、ではだめなの?」
「ダメではありません。ただ、手間がかかります。もちろん、手間を増やすつもりで始める事なので、それでも良いと思うのですが。減らせるものは減らしたいのが気持ちの上ではあります。それに無理をしすぎると何事も続かないので」
「そうね、しなくて良い事ならなるべくしたくないしね」
「はい。それにこちらは家族経営です。手伝いにも限界があります。それに男の人の部屋にリサを一人で行かせるのはちょっと、とも思います。危険は少ない方が良いでしょうし」
「パルちゃん?」
おばさんが上ずった声を出す。リサと同じ年のわたしから女の子の安全について話があるとは思わなかったのだろう。おじさんとお兄さんは下を向いてしまっていた。二人には申し訳ないが危険はどこにでもある。用心して回避できるものは回避するに限ると思う。お兄さんはともかくおじさんからはリサの安全に対して同意してほしいものだ。安全性に危機感のない事に少し憤慨しながらわたしは話を続けていく。
0
あなたにおすすめの小説
貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ
凜
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます!
貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。
前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜
奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。
パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。
健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。
不倫されて離婚した社畜OLが幼女転生して聖女になりましたが、王国が揉めてて大事にしてもらえないので好きに生きます
天田れおぽん
ファンタジー
ブラック企業に勤める社畜OL沙羅(サラ)は、結婚したものの不倫されて離婚した。スッキリした気分で明るい未来に期待を馳せるも、公園から飛び出てきた子どもを助けたことで、弱っていた心臓が止まってしまい死亡。同情した女神が、黒髪黒目中肉中背バツイチの沙羅を、銀髪碧眼3歳児の聖女として異世界へと転生させてくれた。
ところが王国内で聖女の処遇で揉めていて、転生先は草原だった。
サラは女神がくれた山盛りてんこ盛りのスキルを使い、異世界で知り合ったモフモフたちと暮らし始める――――
※第16話 あつまれ聖獣の森 6 が抜けていましたので2025/07/30に追加しました。
置き去りにされた転生シンママはご落胤を秘かに育てるも、モトサヤはご容赦のほどを
青の雀
恋愛
シンママから玉の輿婚へ
学生時代から付き合っていた王太子のレオンハルト・バルセロナ殿下に、ある日突然、旅先で置き去りにされてしまう。
お忍び旅行で来ていたので、誰も二人の居場所を知らなく、両親のどちらかが亡くなった時にしか発動しないはずの「血の呪縛」魔法を使われた。
お腹には、殿下との子供を宿しているというのに、政略結婚をするため、バレンシア・セレナーデ公爵令嬢が邪魔になったという理由だけで、あっけなく捨てられてしまったのだ。
レオンハルトは当初、バレンシアを置き去りにする意図はなく、すぐに戻ってくるつもりでいた。
でも、王都に戻ったレオンハルトは、そのまま結婚式を挙げさせられることになる。
お相手は隣国の王女アレキサンドラ。
アレキサンドラとレオンハルトは、形式の上だけの夫婦となるが、レオンハルトには心の妻であるバレンシアがいるので、指1本アレキサンドラに触れることはない。
バレンシアガ置き去りにされて、2年が経った頃、白い結婚に不満をあらわにしたアレキサンドラは、ついに、バレンシアとその王子の存在に気付き、ご落胤である王子を手に入れようと画策するが、どれも失敗に終わってしまう。
バレンシアは、前世、京都の餅菓子屋の一人娘として、シンママをしながら子供を育てた経験があり、今世もパティシエとしての腕を生かし、パンに製菓を売り歩く行商になり、王子を育てていく。
せっかくなので、家庭でできる餅菓子レシピを載せることにしました
【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~
ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。
王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。
15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。
国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。
これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
残念な顔だとバカにされていた私が隣国の王子様に見初められました
月(ユエ)/久瀬まりか
恋愛
公爵令嬢アンジェリカは六歳の誕生日までは天使のように可愛らしい子供だった。ところが突然、ロバのような顔になってしまう。残念な姿に成長した『残念姫』と呼ばれるアンジェリカ。友達は男爵家のウォルターただ一人。そんなある日、隣国から素敵な王子様が留学してきて……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる