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妖怪花むしり
3輪
しおりを挟む“妖怪花むしり”
この高校に入って1度だけ、聞いたことのある噂だった。
それが、あの芹沢藍羽のことだと気づいたのは6限目ぼうっと空を見ていた時だった。
“園芸部には花をむしる妖怪がいる。”
もちろんそんな妖怪は存在せず、それは1年生の時の芹沢のことだったらしい。
当時の芹沢は髪が腰ほどの超ロングにも関わらず結わず、放課後はジャージで園芸に勤しんでいたらしい。
そして、下校時刻ギリギリに急いで帰っていたサッカー部員たちが「暗がりに貞子のような女が花をむしっていた」と面白半分に芹沢をからかったことからこの噂が流れだしたらしい。
本人がどう思うかは知らないが、なかなかパンチのきいたあだ名だと思い印象に残っていた。
そして帰りのホームルームが終わるや否や飯田は職員室へ入部届けをだし、約束通り体育館前へ向かった。
昼休みに普段クラスでも目立つことの無い芹沢を校内1悪目立ちしている飯田が呼び出したことが2年生内に瞬く間に広まり、2年生と廊下ですれ違う度に飯田はいつもとは違う視線を多く感じた。
“あの不良が園芸部だって”
“え、なんか可愛い”
そんなヒソヒソ話も聞こえてきて、段々園芸部に入ったことを後悔し始めた。
だが、自分はただ園芸部に“名前を入れた”だけであり活動に参加するとは言ってない。
そう自分に言い聞かせなんとか体育館前の花壇に着いた。
すると既にそこには赤色のジャージ姿の芹沢と、
もう1人、緑色のジャージ。つまり、1年生のジャージを着た男子生徒が立っていた。
飯田の姿を見ると、芹沢は嬉しそうに右手を振り、
「お待ちしてました、飯田くん!」
と、目は見えないが白い歯をニカッと見せて笑った。
「紹介しますね、後輩の佐藤 悠里くんです!」
そう紹介された彼はだいたい身長160cm後半の少し小さめで、天然パーマで少しふわっとした頭を下げ、
「悠里です!よろしくお願いします。」
と、飯田に怖気付くこともなく挨拶した。
表情が一切変わらず、あまり考えてることが読めないタイプだなと思った。
「飯田一輝。」
面倒臭いな、と挨拶は端的に済ませた。
「まず、飯田くんには園芸部の仕事を教えるね!」
「いや、俺名前を入れただけで参加するなんて一言も言ってないから。」
じゃ、と右手を上げて通り過ぎようとすると
左手をすごい力で引っ張られた。
「慣れないことばっかりだと思うけど、簡単だから!ほら、着いてきて!」
「てめぇは人の話聞いてんのか!!」
飯田の声は耳に入ってないと言わんばかりに
着いてきて!と言いつつ腕を掴みグイグイと引っ張っていく。
「めんどくせーな離せよ!」
振り払おうとするも、もう既にこっちに見向きもせず体育館裏へ引っ張る芹沢の力というより圧力には押しに弱い飯田は勝てなかった。
「藍羽先輩、決めたこと絶対曲げないので諦めた方がいいですよ。」
佐藤に真顔で耳打ちされる。
ああ、きっとこいつもこの性格に苦労させられてきたんだろうなと勝手に思ってしまった。
結局されるがままに園芸部の説明を受けることになった。
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