園芸部の芹沢さんは今日も花をむしってる

碧峰あころ

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夏だ!山だ!キャンプだ!

7片

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「忘れ物ないですか?」



「私の方はないよ!」



「俺も」





2泊3日のキャンプも、もう幕を閉じようとしていた。三日目の朝、昼にはここを出られるように全部荷物はまとめておいた。





「最後に川で水切りでもしようよ!」



「…なんで水切りなんですか」



「なんか青春っぽくない?」


「先輩の青春の基準が謎なんですよ」





よっこいしょ、と腰を上げ芹沢に背を向ける佐藤に俺たちは首を傾げた。




「お前、どこ行くんだ?」



「どこって…水切りするんじゃないんですか?」



「やってくれるの?」



「そんなこと言うならやっぱりやりません」



「だー!ごめん!やる!!」





ふん、とさっさと行ってしまう佐藤を追いかけようと勢いよく芹沢は立ち上がったがテーピングしたとはいえ、足首が痛むのか少し顔を歪めた。




「ほら、肩使え」


「優しいー!」


「うるせえ、お前が遅いと時間の無駄になるだろ」


「はーい」




遠慮なく!と、俺の肩に掴まり痛む方の足に重心をかけないように歩く芹沢の歩調に合わせゆっくり歩いた。




「キャンプ楽しかったね!」



すぐ真横で微笑む芹沢に心臓がばくばくと音を立てた。




「そうだな」


「また来たいね!」


「ああ。」





芹沢のことが好きだ、そんなことはとっくに自覚していた。そして、今なら言えるような気がした。でも、




「先輩達!遅いですよ!」



「うるさいなあ!少しは労われ!」



「労われ!ってなんですか…」



「お前らほんとに馬鹿だよな」



「飯田先輩だけには言われたくないです」



「そうだよ!赤点とる人に言われたくない!」



「ああ?」





今は、まだ、この3人で過ごす時間を、
この3人で笑い合う時間を壊したくないと思った。
そんな簡単に壊れるものではないと思っていても、万が一が頭をちらつくのだ。そもそも、振られない保証はないし。




「飯田先輩、何ニヤけてるんですか?」



「あ?なんでもねえよ」



「え、なに!気になる!」



「うるせえ!」





独りがいいって思ってた俺を変えてくれた芹沢と佐藤。そして園芸部が、いつしか俺の宝物のようになっていた。




―――――――――――――――――――




みんな寝ちゃった。



オレンジ色の空の下を不規則に揺れるバスの中では、飯田くんと佐藤くんがすやすやと寝ていた。
自分のリュックから2枚のブランケットを取り出し、2人にかける。
すると、飯田くんがもぞもぞと動いた。




「ごめんね、起こしちゃった?」




小さな声で聞くと、うっすらと開かれた目がぼんやりと私を見つめる。




「お前…ほんと可愛いよな……」



「?!」




え、と思った時には既に飯田くんは夢の中で。
熱が出たように熱くなる頬を両手で抑えた。ほんとに、飯田くんは色々な意味で心臓に悪い。

無愛想で素っ気なくて口が悪くて
でも、気が利いて本当は優しい飯田くんに少しずつ惹かれ始めていたのはいつだっただろうか。



さらっと飯田くんの髪を撫でると、んん…と少し唸る声が聞こえたが、また規則的な寝息が聞こえた。


私を変えてくれた佐藤くんと、飯田くん。そして園芸部。今は、この3人で過ごす園芸部の時間と来年に控える受験を頑張りたいから。


淡い想いは、まだ、この胸にしまっておこう。




また夏が終わり、秋が来て冬がくる。
そして再び春が来る頃には私と飯田くんは3年生になり、引退。
それまでの時間を、めいっぱい笑って、楽しんで、騒いで…たくさんの思い出にしていくんだ。



窓の外を流れていく無数の向日葵を見つめて、思わず微笑みながら私も目を閉じた。




fin
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