幼なじみ彼女と俺の距離

茜色蒲公英

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安心する場所だから

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特に何もすることのない土曜日の朝。
二階にある自室で布団から起き上がりスマホの電源をつけてみると一件の通知が来ていた。
それは俺が起きる二時間前、午前七時に電話が来ていてその相手というのは静音だ。
休日は俺が起きるのは遅いと知っているであろうに、今日が投稿日だと思っていたのだろうか。
こちらから電話をしないと無視されたのだと勘違いされそうなので静音の家に電話をしてみると3コールほどしたあと誰かが電話に出た。
静音の家は全員が機械音痴で誰も携帯電話を持っていない。なので電話は静音の家にある電話1つしかない。

「もしもし、萩村です」

この声は静音のお母さん「紫水(しすい)」さんか。

「おはようございます、萩村です」

「ああ、進君でしたか。静音が朝早く電話してごめんなさいね。今変わりますよ」

俺が「そんなことないですよ」という暇もなく保留中のメロディが流れ出し、一分もしないうちに通話に切り替わった。

「電話変わったよ」

「おう、朝からどうしたんだ?」

「えっと…今から遊びに行ってもいい?」

「朝七時に来る予定だったのか…今日は特に来客もないし大丈夫だ」

「ありがとう。すぐに行くね」

向こうから電話を切ると俺は持ってくる本の準備もあるだろうとズボンを脱ぐとインターホンが鳴った。
いくらなんでも早すぎるだろう。
家が隣ですぐに来れるのは分かっているがそれにしたってあまりにも早い。
玄関には母さんに出てもらい、俺は急いで着替えると静音が待っているリビングへと向かった。

「来るの早かったかな…?」

「早かったな。びっくりするほど早かった」

「えへへ…」

ソファに座って既に本を読み始めている静音。
そのソファの後ろにはキャリーバッグが置かれていた。

「ご両親が仕事遅くなるから今日泊まるんだってね!アンタの部屋広いし、そこでいいよね」

「待ってくれ母さん。泊まるなんて聞いてないぞ」

「聞かなくたっていいじゃない。アンタら仲いいんだし誰かが家に泊まりに来る機会なんてそうそうないし母さん嬉しいの」

朝飯食ってる親父に視線を向けると「いいんじゃないのか」とだけ言って味噌汁をすする。

静音がここに泊まるのは一度や二度じゃない。
だから俺も嫌じゃないんだがせめて「今日泊まっていい?」くらいの連絡は欲しい。
俺だって17なんだし隠したいものくらいある。その準備の時間がいる。

「仕方ないな…俺の部屋散らかってるから片付けてくる」

「一緒に片付ける」

「ダメだ」

「なんで?」

「それはだな…今俺の部屋汚いから見せたくないんだ」

「あら、昨日早く寝なさいって行ったとき綺麗だったじゃない」

「余計な事を言うな!とにかく一人で片付けるから!」

急いで自分の部屋に行き、見られたくない物をタンスの奥底の方にしまうなどして片付けていく。
甲から借りているものもあるので雑に扱うことはできないものはタオルで覆って日除けっぽくした。
静音は他人の部屋で物を漁るようなやつではないのでこれで一安心だろう。
一階に降りてリビングに行くと親父、母さん、静音と三人並んでソファに座り、親父は新聞を見ながら二人の会話を聞いているように見える。お前ら家族か。

「部屋片付けてきた。何話してるんだ?」

「一昨日、私たち付き合い始めたでしょ?その報告…」

「もう遅いのよあなたたち~!静江ちゃんから最近静音ちゃんの近況聞かないからアンタたちの仲が悪くなっちゃったんだと思っちゃったじゃない。でも良かったわね~母さん超応援しちゃう!」

「ママ会社の方忙しいだろうし応援してる暇あるのか?」

「暇とか関係ないの!応援っていうのはお金とかもそうだけど気持ちが一番大事なのよ。パパも応援してあげてね」

「そりゃもちろん応援するさ。静音ちゃん、こんなポンコツだがよろしくな」

「はい…!」

「いやそこはポンコツっていう部分否定してくれ…」

俺が他のソファに座ると母さんが気を遣って俺のいるソファに座り、俺は静音の隣に座る。

「おいおい俺の隣にくるのか。一緒に新聞読むか?」

「そうじゃないだろ!そこは親父も気を遣ってだな…まぁいいか」

両親は共働きでどちらとも土日休みなのでこういう状況は珍しくはない。
俺の家族は休日に体力を使いたくないのでタブレットでネットショッピングをしてみたり映画を見たりと実にインドアな一日を送る。
特に母さんは映画好きでジャンル関係なく「面白そうだから」と映画見放題の機械を買って一日中観ていることもある。
今鑑賞しているのは病死した爺さんの妻と娘が相続金の争いをしていると火葬したはずの爺さんが骸骨になって現れるが声帯がないため会話をすることができず、妻と娘が互を自分に殺させようとするため結局どっちも殺そうとするという「グランパイト」というホラー映画。
偶然でいてほしいが書籍化された「グランパイト」を隣に座っている静音が読んでおり、読んでいる間静音の表情は一変しないが、やたらとページをめくるのが早いのでなんとなく察することができる。

「一応聞くが…面白いか?」

「観ればわかる…」

本を閉じると俺の肩に寄りかかって映画を見始める。
しかし相当つまらなかったのかクライマックスシーンで寝てしまい、映画を見終えると母さんに布団の準備をしてもらって静音を俺の部屋まで運んだ。

「んっ…んー…」

「起きたか?」

「ううん…」

返事をしたがその後また寝てしまった。
朝早く電話をしてきたのだし、静音は夜早く寝るタイプじゃない。寧ろ夜中の2時まで起きている。
目の下にできた隈を見ると幼なじみとして、恋人として静音の生活が不安になる。

「まったく…少しは早く寝てくれよ」

起きないくらいの軽いデコピンをして俺はリビングに向かった。

「進のバカ…誰のせいで眠れなかったと思ってるの…」
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