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始まり
異世界勇者、召喚される
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風にたなびく美しい茶色の髪。
遠くで起きたことがはっきりとわかるような長い耳。
病によって閉ざされてしまった両目。
今年で百七十歳になるリトスは自宅のロッキングチェアに揺られて自分の体型と最近起きたことに悩んでいた。
同世代の同じ種族であるエルフの皆は背が高くスタイルもいいのに何故自分は身長が低く周りから子供扱いをされなければいけないのか。
何故二年前に発症した謎の病によって両目の視覚を失ってからというものの嗅覚、味覚、聴覚、触覚、勘が鋭くなってしまったのか。
そんなことを考えているとロッキングチェアの揺れが激しくなってくる。
「リトス、悩んでいるのならお母さんに話しなさいな、あまり悩みすぎていると倒れるわ」
母のその言葉に揺れが緩やかになる。
「そうだね、じゃあ話していい?」
「ええ、何回も聞いた悩みを聞かせてちょうだいな」
母に何度も、何度も話した悩みを話すリトス。
すると玄関のドアがノックもなく勢いよく開き、一人の男エルフが入ってきた。
「どうしたのですか?急いでいるようですが」
「おっ、落ち着いて聞いてくれ!」
「落ち着くのはあなたの方だと思うけど…」
「とにかく聞いてくれ!魔王の軍勢が各国に征服を宣言したそうだ!」
魔王の軍勢はこの世界に元々いた。
だが各国の王はお互いに手出しはしないという条約を結んでいた。
その条約は、千年の時を経て焼き捨てられたのだった。
村のエルフ達は焦り、頭を抱え、何かないのかと模索をした。
そしてひとつの書物が村長の家で見つかった。
「異世界召喚術」である。
異世界からくる勇者は魔物を蹴散らし魔王さえひれ伏すほどの強さを持ち、異性をことごとく惚れさせる。
最後の文だけ見なかったことにした村長達は村の魔導師を集めて村の中心で異世界召喚を始めた。
その結果、成功した。
武器の一つも持っていないが見慣れぬ服装に見慣れぬ持ち物。
異世界から来たということは誰もが分かった。
そしてその青年はここに来ることが分かっていたかのように村長に話しかけ、「任せてください、必ず救ってみせます」と自信満々に言ったのだった。
―召喚されるほんの少し前―
青年の名は斎藤隆。(さいとうたかし)
とある高校の二年生で部活は無所属で成績は赤点をギリギリ取らない程度、将来の夢も就職先も特になかった。趣味はライトノベルを読むことで「異世界ハーレム」ものが特に好きだった。
ある日いつもどおりヘッドホンをして曲を聴き、小説を読みながら登校をしている途中、空からスイカ程の大きさの隕石が隆の頭を直撃し、死んでしまった。
走馬灯も三途の川もすっとばして気が付けばひと目で神だと分かる人の目の前。
ここはどこかと聞く間もなく「あなたは奇跡の子だ」と言われて不死身、毒無効、異国語を話せるスキルを持たされて異世界に召喚されるという話を聞かされた。
「待てよ、異世界に行けるっつーことはめっちゃ嬉しい。でも何すりゃいいんだ?」
「それは其方が生きていた時、書物に書いてあっただろう。悪を倒し、女に囲まれたいのだろう?」
「そりゃあ…まぁな」
「ならば行くがいい、召喚される時には其方の服は家にいる時の格好、姿形は女うけのするようにしてやろう」
こうして時は現在に戻り、召喚された隆は自分の能力が普通の人間並みにしかないことも露知らずに旅に出ようとするのだった。
一方、家の中にいたリトスは外がやたらと賑やかなのを感じ、ロッキングチェアから降りて床に置いてあった杖を手に取って家を出た。
外に出ると聞いたことのない声が聞こえ、声のする方に近づいてみるとほかのエルフに杖が軽く当たってしまった。
「ごめんなさい、聞いたことがない人の声がして…どうかしたの?」
リトスが杖をぶつけた相手は村長だった。
「おお、リトスちゃんか。実はな、異世界から勇者を召喚することに成功したんだよ」
「異世界から…?」
「おう!俺が魔王からこの世界を救ってやるぜ!」
この声、台詞を聞いた時、リトスは心の底から思った。
「こいつは絶対に頼りにならない」と。
ため息をついて家に戻ろうとするリトス。だが村長の手がリトスの肩に乗った。
「どこに行くんだいリトスちゃん?」
「どこって、家だけど」
「じゃあちょっと行く前に話を聞いて欲しい」
リトスは今すぐ逃げ出したくなった。
背中に虫が這い上がってくるような気持ちの悪い予感。
絶対にいい話ではない。だが逃げようとしても村長の手は離そうとしなかった。
諦めたリトスは逃げるのをやめ、話を聞くことにした。
尊重の口から出たのは勇者が一人では流石に勇者を倒すことは無理だということ。だが村人のほとんどは重要な仕事に就いており、一人でも欠けたらいけないということ。そして唯一欠けてもさして問題ではない人物がリトスだということ。
「ふざけないで!こんなふざけたやつと一緒に旅なんて出来るわけないじゃない!第一私は視覚がないのよ!何ができるっていうのよ!」
「だがリトスちゃんは人狩りが得意だったじゃないか…」
「何年前の話をしてんのよ!とにかく私は行かないから!」
杖を強く付きながら家の中に戻るリトス。
かつて使っていた短剣のカットラスを思い出し、飾ってある壁に向かうと血の匂い。
「二年前まで使っててちゃんとに洗ってたのに…匂いまでは落ちないか」
二年前の人狩りしていたことをしみじみと思い出していると玄関のドアがノックもなしに開いた。
「ちっ!泥棒か!」
右手に持っていた杖を左手に持ち替え、飾っていたカットラスを玄関の方に投げると勢いよく相手の顔面に刺さり、頭から床に倒れた。
「しばらく研いでないから死んだかどうか知らないけど入ってきた奴が悪いのよ」
玄関に向かって歩き、匂いでカットラスをの位置を探っていると「ぐちょ」という音を立てて何かを抜いている音が聞こえた。
「いっっっっってぇぇ!!死ぬかと思った!こいつ本当に見えてねぇんだろうな…」
リトスが聞いた声は間違いなく、さっき異世界からきた隆の声なのだった。
遠くで起きたことがはっきりとわかるような長い耳。
病によって閉ざされてしまった両目。
今年で百七十歳になるリトスは自宅のロッキングチェアに揺られて自分の体型と最近起きたことに悩んでいた。
同世代の同じ種族であるエルフの皆は背が高くスタイルもいいのに何故自分は身長が低く周りから子供扱いをされなければいけないのか。
何故二年前に発症した謎の病によって両目の視覚を失ってからというものの嗅覚、味覚、聴覚、触覚、勘が鋭くなってしまったのか。
そんなことを考えているとロッキングチェアの揺れが激しくなってくる。
「リトス、悩んでいるのならお母さんに話しなさいな、あまり悩みすぎていると倒れるわ」
母のその言葉に揺れが緩やかになる。
「そうだね、じゃあ話していい?」
「ええ、何回も聞いた悩みを聞かせてちょうだいな」
母に何度も、何度も話した悩みを話すリトス。
すると玄関のドアがノックもなく勢いよく開き、一人の男エルフが入ってきた。
「どうしたのですか?急いでいるようですが」
「おっ、落ち着いて聞いてくれ!」
「落ち着くのはあなたの方だと思うけど…」
「とにかく聞いてくれ!魔王の軍勢が各国に征服を宣言したそうだ!」
魔王の軍勢はこの世界に元々いた。
だが各国の王はお互いに手出しはしないという条約を結んでいた。
その条約は、千年の時を経て焼き捨てられたのだった。
村のエルフ達は焦り、頭を抱え、何かないのかと模索をした。
そしてひとつの書物が村長の家で見つかった。
「異世界召喚術」である。
異世界からくる勇者は魔物を蹴散らし魔王さえひれ伏すほどの強さを持ち、異性をことごとく惚れさせる。
最後の文だけ見なかったことにした村長達は村の魔導師を集めて村の中心で異世界召喚を始めた。
その結果、成功した。
武器の一つも持っていないが見慣れぬ服装に見慣れぬ持ち物。
異世界から来たということは誰もが分かった。
そしてその青年はここに来ることが分かっていたかのように村長に話しかけ、「任せてください、必ず救ってみせます」と自信満々に言ったのだった。
―召喚されるほんの少し前―
青年の名は斎藤隆。(さいとうたかし)
とある高校の二年生で部活は無所属で成績は赤点をギリギリ取らない程度、将来の夢も就職先も特になかった。趣味はライトノベルを読むことで「異世界ハーレム」ものが特に好きだった。
ある日いつもどおりヘッドホンをして曲を聴き、小説を読みながら登校をしている途中、空からスイカ程の大きさの隕石が隆の頭を直撃し、死んでしまった。
走馬灯も三途の川もすっとばして気が付けばひと目で神だと分かる人の目の前。
ここはどこかと聞く間もなく「あなたは奇跡の子だ」と言われて不死身、毒無効、異国語を話せるスキルを持たされて異世界に召喚されるという話を聞かされた。
「待てよ、異世界に行けるっつーことはめっちゃ嬉しい。でも何すりゃいいんだ?」
「それは其方が生きていた時、書物に書いてあっただろう。悪を倒し、女に囲まれたいのだろう?」
「そりゃあ…まぁな」
「ならば行くがいい、召喚される時には其方の服は家にいる時の格好、姿形は女うけのするようにしてやろう」
こうして時は現在に戻り、召喚された隆は自分の能力が普通の人間並みにしかないことも露知らずに旅に出ようとするのだった。
一方、家の中にいたリトスは外がやたらと賑やかなのを感じ、ロッキングチェアから降りて床に置いてあった杖を手に取って家を出た。
外に出ると聞いたことのない声が聞こえ、声のする方に近づいてみるとほかのエルフに杖が軽く当たってしまった。
「ごめんなさい、聞いたことがない人の声がして…どうかしたの?」
リトスが杖をぶつけた相手は村長だった。
「おお、リトスちゃんか。実はな、異世界から勇者を召喚することに成功したんだよ」
「異世界から…?」
「おう!俺が魔王からこの世界を救ってやるぜ!」
この声、台詞を聞いた時、リトスは心の底から思った。
「こいつは絶対に頼りにならない」と。
ため息をついて家に戻ろうとするリトス。だが村長の手がリトスの肩に乗った。
「どこに行くんだいリトスちゃん?」
「どこって、家だけど」
「じゃあちょっと行く前に話を聞いて欲しい」
リトスは今すぐ逃げ出したくなった。
背中に虫が這い上がってくるような気持ちの悪い予感。
絶対にいい話ではない。だが逃げようとしても村長の手は離そうとしなかった。
諦めたリトスは逃げるのをやめ、話を聞くことにした。
尊重の口から出たのは勇者が一人では流石に勇者を倒すことは無理だということ。だが村人のほとんどは重要な仕事に就いており、一人でも欠けたらいけないということ。そして唯一欠けてもさして問題ではない人物がリトスだということ。
「ふざけないで!こんなふざけたやつと一緒に旅なんて出来るわけないじゃない!第一私は視覚がないのよ!何ができるっていうのよ!」
「だがリトスちゃんは人狩りが得意だったじゃないか…」
「何年前の話をしてんのよ!とにかく私は行かないから!」
杖を強く付きながら家の中に戻るリトス。
かつて使っていた短剣のカットラスを思い出し、飾ってある壁に向かうと血の匂い。
「二年前まで使っててちゃんとに洗ってたのに…匂いまでは落ちないか」
二年前の人狩りしていたことをしみじみと思い出していると玄関のドアがノックもなしに開いた。
「ちっ!泥棒か!」
右手に持っていた杖を左手に持ち替え、飾っていたカットラスを玄関の方に投げると勢いよく相手の顔面に刺さり、頭から床に倒れた。
「しばらく研いでないから死んだかどうか知らないけど入ってきた奴が悪いのよ」
玄関に向かって歩き、匂いでカットラスをの位置を探っていると「ぐちょ」という音を立てて何かを抜いている音が聞こえた。
「いっっっっってぇぇ!!死ぬかと思った!こいつ本当に見えてねぇんだろうな…」
リトスが聞いた声は間違いなく、さっき異世界からきた隆の声なのだった。
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