盲目エルフは異世界勇者と旅をする

茜色蒲公英

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始まり

盲目エルフ、村を出る

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再生した顔を撫でて本当に自分の顔が再生したことに暫く驚く隆。
それが見えるはずもないリトスはもう一度投げようと壁に向かって再び歩いた。

「おい!何しようとしてんだよ!」

「君を殺そうとしているの。顔に刺さって死なないなんて異常だけどそこで止まっていれば次は確実に殺せる」

「おいおい!俺は異世界から来た勇者…ってか俺不死身だから!」

「不死身?本気で言ってるの?」

「ああ!神様が言ってたからな!俺は不死身で毒が効かなくてどんな言葉でも話せるんだってよ!」

「…はっ」

呆れたリトスは壁に飾ってあるもう一本のカットラスを手に取り、隆の方へと向けた。

「おいおい…マジでやんのか?」

「不死身なんでしょ?なら証拠を見せて」

「てめぇ…」

一度投げた時より素早く投げたカットラスは隆の顔に深く突き刺さり、隆の体は勢いよく倒れ、その音にリトスは死んだことを確信した。
だが死ななかった。
隆は村中に響くような悲鳴を上げて顔に刺さったカットラスを引き抜き、床に叩きつけた。

「こいつ本当に…不死身だっていうの…?」

「いってぇ…クソッ…」

リトスは投げ捨てられたカットラスを拾い、振ってみると血が床に付いた音がすることを確認して男が不死身だということを再確認した。

「…それで?君はここに何をしに来たの?」

「お前を仲間に入れようとしに来たんだよ!俺一人じゃさすがに無理そうだし、さっきおっさんも言ってただろ?村を離れてもいいのはお前だけなんだって」

「言ってたわね、絶対に嫌だけど」

カットラスを二つ拾って井戸で洗うため外に出ようとするリトス。
だが両手がふさがって上手くドアが開かない。
イラついて蹴破ろうとすると隆がドアを開け、蹴ろうとしたリトスの足は空を切ったのだった。
その後、二人を見たリトスの母が「もう仲がいいのね」と笑ってカットラスを洗うのを手伝い、反論しながら慣れた手つきでカットラスを洗う娘をみて笑みが浮かぶ母。

「嬉しそうだな」

「そりゃ嬉しいわよ。二年前に使ってた武器を自分の体の一部のように扱ってるのだもの。ところでリトス、これって誰の血なの?」

「そこにいる男」

「えっ」

だが振り返っても隆は無傷。

「う、嘘はいけないわ。お母さん怒らないから本当の事を言って?」

「嘘なんかついてないわよ、試しに腕斬ってみる?」

「おいやめろ!」

「そうよ、せっかく洗ったのに」

「そこじゃねぇだろ!」

リトスは面倒ながらも母に事情を説明した。

「なるほど。それなら納得がいくわね」

「私はまだ納得してないけどね。それじゃ、私は家に戻るから。ちょっと床を血で汚しちゃったから掃除しないと」

「それなら私がやっておくわ。リトスは冒険に行くのでしょう?」

「いつ聞いたのそれ、っていうかいかないから!」というリトスの声はカットラスを持ち、走り帰っていった母に届かず、リトスは深い溜息をついてその場に座った。

「そんなに俺と旅に行くのが嫌なのかよ」

「それもあるけど。この村から出るのが嫌なのよ。百七十年住んできた所を『はい離れます』 って言って離れられないのよ」

「ひゃっ…百七十?」

「そうよ。ああ、そういえば人って短命だったわね。君の声は若いから二十いかないくらいくらいでしょ?」

「ああ、十七歳だぜ」

年を聞いたリトスは思わず吹き出し、足をばたつかせ、腹を抱えて笑い始めた。

「あははっ!十倍!君と私の年齢十倍も違うじゃん!」

「うるせぇ!お前も人間で言えば俺と同じくらいだぞ!」

「人間の短い定規で計らないでくださいー。種族によって成長の仕方は多少違えど人間は所詮短命なんですー。」

「種族によってか…そういやこの世界ってどんな種族がいるんだ?」

「大きく分けて四種族ね。君みたいなヒューマン。私達エルフ。やたらと色んな所が大きいトロル。それ以外のアスモディアン。アスモディアンは今攻めてきている魔王軍ね」

「なるほど」と言いながらズボンのポケットに入っていたスマホでメモをする隆。
隆は未知の技術を見せつけるかのようにスマホを操作するが、リトスにとっては何かをつついているようにしか聞こえていない。

「さっきから何をつついてるの?私の話が退屈ならそう言って」

「メモをしてんだよ、スマホを使ってな」

「へぇ、そうなの。じゃあ私は帰ってお母さんを説得してくるから君は別の人に声をかけるか一人で旅に出てね」

「よいしょ」と言って立ち上がるリトス。
もっと興味を持つと思っていた隆は少しだけ落ち込み、これからのことを考えるために空を見上げたのだった。
リトスが家に戻るとすぐに母が「準備はもうしてあるわ!頑張ってね!」と言って鞘に収まっているカットラスをベルトを使ってリトスの腰に付け、リュックを背負わせた。

「本当は鎧も着けたかったけど…勇者がいるから大丈夫よね!」

「大丈夫じゃないから。それに冒険になんか行かない」

「あら、なんで?」

「嫌だからに決まってんじゃん!この村から出たくないし、あんな男と一緒なんて絶対に嫌!」

「リトス…」

「お母さんは私がこの村からいなくなっていいと思うの?私がお母さんの知らないところで死んでもいいって言うの!?」

「違うわ…でも…」

「でも何!?結局私が村から出て行っても誰も何も言わないって言いたいの!?」

「そうじゃないの、そうじゃ…」

「…もういい、行くから着替えてくる」

戦闘用の服に着替えること数分。
リトスの服はフリルのついたワンピースから上は黒く、少し大きめのTシャツの上に胸の部分だけの軽い鎧、下は足首まであるガウチョのようなズボンに着替えた。

「…リトス」

「何?」

「生きて、帰ってきて」

もう聞けないであろう母の言葉にリトスは返事をしなかった。
そして二度と帰ることができないであろう家をゆっくりと出た。
井戸で待っていた隆に「お前、行かないんじゃなかったのか」と声をかけられ、「気が変わったのよ」とリトスは返す。

「そういや俺の名前言ってなかったな。斎藤隆だ、よろしくな!」

「私はリトス。君と違って刺されたりすれば死ぬからそれまでよろしく」

こうしてポケットに充電の減らないスマホしか持っていない隆と荷物を持たされたが何が入っているか聞かされていないリトスの旅は始まったのだった。
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