盲目エルフは異世界勇者と旅をする

茜色蒲公英

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トロルの森

選択、後悔

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何も見えず、何も聞こえない。地に足がつかない場所にリトスは漂っていた。

(これが「死」なのかな…死んだあとくらい何か見せてくれたっていいのに)

自分の体がどうなっているのか調べてみると殺された時とは違い腕はあり、服は着ている。
確認しているのでもちろん何かに触っているという感覚もある。だからといって何ができるというわけではないがそうしていないと暇だった。
次に死ぬまでの人生を振り返った。
大きな森の中にある小さな村で生まれ、同世代の友達はいなかったが勉強を教えてくれる仲間は多くいた。そのおかげで村一番の知識人となり、他の種族と会ってみたいがために人狩りの職に就いた。
人狩りになってからはもともとあった知識欲に拍車が掛かりどういう生態をしているのか調べたくて街に出かけようと試みようとしたこともあった。
しかしその翌日に突然目の光を失ってしまい出かけるどころか普段の生活すらままならなくなってしまった。

(今思えば…病気なんかじゃなかったのかもしれない。確かめる術なんてもうないけど)

目の光を失い、ようやく一人で家事ができるようになった頃に魔王が世界を統べると宣言し、それを阻止するべく隆がこの世界に召喚された。

(弱いくせに強気でアホで、おまけに短気だったなぁ)

これまでの道を思い出すたび自分の武器が隆に刺さったことを思い出してしまうがそっと心の隅に置く。

「汝、何を求む?」

突如空間に響き渡る威圧感のある声。その声が聞こえると同時に不思議とリトスは少し重苦しいプレッシャーのような重圧感を感じた。

「どこぞの爺さんだか知らないけど私に何か用?私が死んでるってことは承知なんでしょ?」

「当然だ。わら…我は全能の存在だ。汝ら、随分と惨たらしい死に方をしたようだが、その死に方で満足したのか?」

「へぇ、まるで私を見てたかのように言うね。全能のお方が私一人を見てるだなんて随分と時間に余裕があること。その時間で魔王を止めてればよかったんじゃないの?」

「質問に答えよ」

「そういえば魔王にドヤ顔で敵対しておいてすぐに死んだのは申し訳なかったなぁ。部下を数人倒してから最後の数人あたりに殺されそうになって『だから言ったであろう?妾の部下になれとな』って言われるんだったらまだしもけしかけてきた最初の部下で殺されるとは思わなかった」

「質問に答えよ」

声が若干上ずり、リトスは動揺していることに気がついたがそれに気づかないふりをして話を続ける。

「ああそういえば質問してたね。そんなの話聞いてたらわかるでしょ。まだやりたいこと一割も終わってないのにあっさりと殺されちゃったから満足どころか不満だらけよ」

「ならば、汝に選択をやろう。このまま生まれ変わって別の人生を歩むか。ライナ、ラルアを含め生き返って再び魔王に挑む旅を続けるか。あるいは魔王の部下となり汝の光を奪ったものを滅ぼすか。もしくは時間を巻き戻し、別の勇者を得た状態で再び魔王に挑むか。時間はいくらでもある、すきなだけ悩み答えを出せ。ただし選んだ道を後悔するな」

そう言うと威圧感のある声は言葉を発さなくなった。

(何とも言い難い選択肢…どれを選んでも後悔する未来しか見えない)

しかし選ばないという選択肢が無さそうだと判断するとリトスは一つ一つの選択肢のを選んだ後のことについて考え始めた。
まずは一つ目の選択。この選択肢を選んだ場合「エルフ」として生まれ変わるのか「その他の生き物」として生まれ変わるのかを提示されていないため最悪の場合食べられる運命にある虫として生まれ変わってしまう可能性がある。
更に運良くエルフに生まれても魔王に統べられようとしている世界からは逃げようがなく更には記憶を消去される可能性が極めて高い。赤子が言葉を話せないのが最も分かりやすいだろう。
二つ目の選択肢は素直に喜ぶことができない。その場で生き返っても再び魔王の部下に殺されるのは目に見えており、馬車が動かなくなった森の中では森を出ることすら危ういだろう。
三つ目の選択肢はリトスが一番興味を引いた。魔王とその部下が異常な程強いためもう一度死ぬ心配がない。世界の敵にこそなるが自分を追い出したいという野望はすぐに叶うだろうし、生活も苦労することがないだろう。しかしラルアとライナが死んだままというのは気が引ける。
四つ目の選択肢は興味こそ持ったが瞬時に捨てた。次に死んだ時に生き返ることができるのかも分からずに新しい勇者を求めるわけにはいかないと思ったからだ。
全てを捨てるか、仲間を拾うか、仲間を捨てるか、巻き戻すか。
リトスが悩みに悩み、声の主を呼んで出した答えは声の主を少しだけ驚かせた。

「本当に、その選択でいいんだな?」

「うん。きっと…いや絶対私はこの選択をして損をして、後悔をする。だって人生なんて後悔の連続でしょ?だったら私は私のやりたいことをしてからちゃんとに死にたい。そうだよね、魔王さま」

「なっ…何を言っている。我は全能の…」

「魔王に申し訳ないって言った時に声がちょっとだけ上ずったから怪しいとは思った。けど選択肢に魔王の部下になるって選択があって確信したよ」

「そうか…なら隠す必要はもうないの。だが本当にいいのか?」

「いいんだって。ほら、こうやって話してるってことはそっちの世界の時間は流れてるんでしょ?」

「そうじゃが…仕方ない。もう少し話をしていたかったが戻すぞ」

「うん。ありがとう。また会えるかわからないけど今度会ったら面白い話を聞かせてあげるよ」

「…楽しみにしておるからの」


りトスは気が付くと背中が壁に着いていた。
切断されていた腕は元通りになっており、指の先まで正常に動いている。
相変わらず目を閉じていても開けていても何も見えないがそれ以外の感覚は元に戻っている。

「戻って来ちゃったな…」

そう呟いて立ち上がるため杖を探そうとするが、生暖かい水たまりのようなもののせいで「気持ち悪い」という感覚しか分からない。

「うーん…なっ、何事でござるか!?あたりが血だらけでござるよ!」

「おはようライナ。起きたばっかで悪いんだけど私の杖を拾ってくれない?」

あたりが血の海になっていることに驚きを隠せないライナ。
載っていた馬車が止まっていることも相まってパニックに陥っているが深呼吸をしてリトスに杖を渡した。

「ありがと。ラルア…はまだ寝てるか」

「寝てるでござるな…しかし一体何故こんな状態になっているでござるか…」

「覚えてないの?私達全滅して生き返らせてもらったんだよ」

リトスが事情を説明するがライナは納得ができず頭を傾げる。

「じゃあ聞くけど、どこまで覚えてるの?」

「そうでござるな…村から馬車で出て、隆殿が外をずっと眺めていて、そこから敵が現れて…そういえばあの糸使いはどこに行ったのでござるか!?隆殿も見当たらないでござる!」

「さ、さぁ…とりあえずラルアを起こさなきゃね」

止まった馬車の中。魔王に敵対して生き返ることを選んだリトスは早速様々な問題を抱えて旅を再開するのだった。
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