盲目エルフは異世界勇者と旅をする

茜色蒲公英

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アメジストは退屈

反逆者は誰だ

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リトス達が今いる町から死の街まで日本でいえば東京から青森まで程の距離があり、どう考えても一直線に行くには無理がある。
そもそもリトスのいた村は死の街にそこそこ近い場所であり、旅をしている道中でどんどん死の街から遠のいていた。

「特にトロルの森で大きく死の街から離れたんだよね。アスモディアンに関する情報を集めていたとはいえ無意識に離れていたとはね」

「まぁそのおかげで仲間も情報も得られたんだからいいじゃねえか。そうだ、おっさんは魔法使いなんだろ?転移魔法は使えないのか?」

「造作もございませんよ!地図で行きたい場所を指してくれれば一瞬で一緒にお連れします!ですがそれですと味気がなくはないですか?強敵に立ち向かうというのは長い旅と苦労をしてようやくというものだと学びましたが」

「こっちは既に長い旅と苦労を文字通り死ぬほどしているのでござるよ。今更風情になんてこだわらないでござる。リトス殿もそう思うでござるよな?」

「わ…私はアランの言うことに賛成かな。ほら、結構前の話だけど隆がかなり後悔してたでしょ?」

「それってリボフラの時のやつか。そりゃ今のメンバーで行けば余裕だろうが…行く必要あるか?」

「拙者は行ってもいいでござるが、両親に会うくらいしかやることがないでござる」

「いや、そもそもお前はあそこの王から俺らを殺せって言われたんだろうが。俺らと一緒に来たら裏切り者として殺されるだろ」

「そういえばそうでござったな」

結局、リボフラには行かず、安全な町や村に寄りつつ死の街に行くことにした一行。

一方その頃、魔王の幹部でありリトス達に敗北したアメジストはアスモディアンの反逆を止めるためチアミンの中心街に誰もいなくなった家を勝手に借りて住んでいた。

「ダークジェムを宝石店に出しても気味が悪いって言われて売れないしここじゃ金が必要だしどうしたもんかな」

アメジストの手元には家具を売り払って安い服が一着買えるかどうかくらいのお金しかなく、二日も暮らせそうになかった。

外に出てみればヒューマンと首輪をつけた獣人やアスモディアンが元気無さそうに歩いているのが嫌にでも視界に入って自由に生きているアメジストにとっては耐えられないような光景だった。

(ったく、気味が悪いったらありゃしないな。私だったらあんな首輪一瞬にして砕くのに)

そう考えていると突如後ろから鉄が割れる音がしてヒューマンの悲鳴も同時に聞こえた。

「また暴れてるのか!おい!憲兵呼んで来い!」

アメジストが後ろを向くと虚ろな目をしたゴブリンが片手で頭を抑えてもう片方の手で飼い主であろうヒューマンの男性を殴っていた。

(こいつが反逆してるっていうアスモディアンか?いや、そんなこと考えてる場合じゃないな)

アメジストは殴っているゴブリンを軽く蹴って意識をこちらに向かせると顔面を横から蹴って仰向けに倒した。

「反逆してるアスモディアンっていうのはお前か?」

「チガ…チガウ…ボ…ボクワ…」

言い終わる前にゴブリンは気絶してしまい、アメジストがいくら揺すっても起きることはなかった。

「目が白かったし誰かに薬でも盛られたのか?おい、そこの飼い主」

「は、はい!?」

「こいつの飼い主だろ?いつこいつ買ったんだ?」

「一昨日ですけど…それより君殺してないですよね!?せっかく僕が買った奴隷なんですから死んだら弁償してくださいね!」

「知るかそんなもん。じゃあな」

通り過ぎに素早い手つきで飼い主のつけていたポーチを盗んでいきその場を去ったアメジスト。
人通りのない路地裏に行って盗んだポーチの中を探るとお金が入っていた。

「いちにぃさん…大して金持ってないな。まぁこれだけありゃ三日ぐらいは過ごせるだろ」

大通りに行こうとするといかにもガラの悪い男三人がアメジストの前に立った。

「よぉネェちゃん。こんな人の少ない場所にいると俺らみたいなやつに襲われちまうぞ」

腕を掴まれるアメジスト。しかしすぐに振りほどいた。

「余計なお世話だ。お前らこそこんな人の少ない場所にいると誰も来ないぞ『サイクル』」

男の腹に拳を当てると目に見えない刃が男を切り裂いた。
傷だらけになった男はその場に倒れ、残りの二人は驚愕する。

「当たり前だけど逃がさないからな?こんなところ見られたらここにいられなくなるからな」

逃げようとする二人の頭を掴んで地面に叩き伏せ、『サイクル』と同じように唱えると男達の全身が切り裂かれ、辺りに血だまりができた。

「死体はゴミ処理に任せるとして金は私がもらっていくか。…あーあー…返り血のことすっかり忘れてた」

返り血で真っ赤に染まった服を軽く払い、金を獲ってから死体をゴミ箱に詰め込み、誰にも見られないようにアメジストは川へと向かうのだった。

川で血を落とすついでに水浴びも終えたアメジストは部屋着と今着ている服しか持っていないので水浸しの服を着て草の上に寝転がっていた。
するとそこにやって来た一人の幼い少女はアメジストの顔を覗き込んできた。

「なんだ」

「お姉ちゃん変な目してるー」

「あん?文句あんのか?」

「だって見たことないんだもん。星みたいな、そんな感じの模様してる」

「六芒星のことか。これはまお…偉い人が私を幹部にしてくれた時に魔力を増幅できるようにって付けてくれたんだ。かっこいいだろ?」

「うん!でもお姉ちゃん何でこんなところで寝てるの?」

「服を乾かしてんだよ。服がこれしかなくってな」

「え~、じゃあ私のあげよっか?」

「気持ちだけ受けとっておく。小さすぎて入らないからな」

少女は「そうなんだ、じゃあまたね」と言って期限が良さそうにどこかに行ってしまった。

「なんだったんだあの子供…まぁいいや」

服が乾くまで陽を見ているのも退屈になったのかアメジストは瞳を閉じてそのまま寝てしまった。
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