盲目エルフは異世界勇者と旅をする

サルチルの町

言葉が通じないのならば

顔は腫れ、痣だらけの町長が「もうやめて」と小声で言いながら横たわっており、それを足蹴にしているリトス達の周りに剣士や魔法使いが十人以上集まっていた。

「ひーふーみー…この町のトップにしては人が集まってねえな」

「人望がないんでしょ。こんなだし」

「町長の顔を踏むのをやめろ！これだからアスモディアンは野蛮なんだ！」

「私エルフなんだけど？」

頭にきたのか町長の顔をサッカーボールのように蹴り飛ばすリトス。

「この町に食糧補充と泊りに来ただけのはずなのでござるがどうして毎度のようにトラブルが起こるのでござるか…」

（そのほうが何も無いより楽しくて僕はいいと思うよ）

町長が蹴られたことによって激昂した剣士達は一斉にリトス達へと襲いかかる。

「自分にとって初の戦闘でございますな！いやはや初の戦闘が人間というのは冒険らしくありませんが我が魔法魅せましょう！」

空中に向かって複雑な魔法陣を何も見ずに素早く書いていくアラン。
それでも多少の時間はかかるためアランを守りながらリトス達は剣士達を相手にしていく。

「ぐっ…息が…」

「鎧を纏わずに戦うからでござるよー拙者が相手にしてきた相手は尻尾の毒がほとんど効かなかったでござるが」

手に持ったクナイと自慢の毒入りの尻尾で忍者らしく軽やかに戦うライナ。
ラルアも地面から枝を生やして敵の体を貫いていき、隆が殴った音を聞いたリトスが援護をしている。

「皆さんさすが長旅しているだけあってコンビネーションが完璧ですね！遠距離攻撃である魔法使いはライナさんとラルアさんが潰して近接攻撃である剣士は隆さんとリトスさんが相手をする。事前の話し合いもありませんでしたしやはりお互いがお互いを理解していないとこういったことはできませんし自分もこの中に入りたいものですな！それでは皆様大変長らくお待たせいたしました！」

アランが宙に浮いた魔法陣を叩き歪な音を響かせると魔法陣から黒くおぞましい腕がいくつも伸び、剣士や魔法使いを鷲掴みにしていく。

「なんだこれは！…ゴフッ」

掴まれた剣士達は腕から流れる黒い霧を吸うと口から、鼻から吐血し、意識を失っていく。

「この魔法はこのように強力ですがなにせ書くのに時間がかかりましてね。かといって簡略することも可能ではありますが魔力消費量に見合わず私でも振りほどけますし仮に霧を吸っても目眩がする程度でしてこのように守られて複雑な魔法陣を描かないと成功しないんですよ」

「そんなことよりこんな魔法使えるアラン殿が怖いのでござるが…隆殿がドン引きしているでござるよ」

さっきまで戦っていた剣士達は苦しんでいるどころか一人残らず動かなくなっており、役目を終えた黒い腕も消えた。

「さて、死体処理どうしましょうかね」

（いつもなら僕が吸収してるよ。…けど吸収して大丈夫なのかな？）

ラルアが死体の頬をつくと口から血と黒い何かが出る。

「やめたほうがいいんじゃないかな…武器と防具なら大丈夫」

ラルアは死体を避けて吸収し、死体は全て隆が町長の家の中に放り込んだ。

「ひ…人殺し…」

（まだ生きてたんだ）

「殴ったり蹴ったりしただけだからな」

「何が目的なの…？もしかして魔王の手先なんじゃ…」

「話聞いてなかったのかこのババア。さっさと宿屋に戻ろうぜ」

「このまま戻っても同じことになるだけでしょ」

「だが説得してきたって言っても信じないだろうしな…あっ、いいこと考えた」

「悪い顔でござるなー」

リトス一行が訪れた宿屋の主人は売上金を確認していた。
一日の終わりに毎日確認することで主人は安心感を得ている。
主人は元々別の町の宿屋で働いていてお金が貯まりこの町に宿屋を建てた。
ヒューマンのみしか受け入れないという町のルールはあったもののお金を使うのはヒューマンのみだったため大きなトラブルもなく今日まで経営できていた。

「おっさん、町長連れてきたぞ」

その平和だった経営は今日で終わりを告げようとしていた。
扉が叩かれて入ってきた町長の顔は片目が見えないほど腫れており、口は木で縛られていて喋れなくなっている。
そして一緒にいるのは主人が追い出したリトス達。

「兄ちゃん達…まさか誘拐してきたのか？どうみても話し合ったという感じではないが…」

「説得してきたって言っても信じてくれなさそうだから連れてきたんだよ。おいババア。分かってるよな？」

「ん～！」

必死に頷く町長。誰がどう見ても説得したとは思えない反応だった。
口から木を外された町長は「この人たちは止めても大丈夫」だとリトス達の視線を気にしながら弱々しく話す。

「よかったでござるな！主人、部屋は空いてるのでござるか？」

「ああ、空いてる…町長、剣士やら何やら雇ってたんじゃないのか？」

「全員こいつら…ヒィッ！この人たちに殺されてしまって…」

主人はこれ以上聞いてはいけないと判断し、リトス達に部屋の鍵を渡して部屋の場所を教え、リトス達はその場を去る。
用が済んだ町長は治療もせずに放って置かれ、安心したのかその場に膝をついた。

「殺されるかと思った…」

「随分と大変な目にあったみたいですね…ちゃんとした治療はできませんが部屋はあるので今日は休んでいってください」

「ありがとう…」

一方、部屋を二つ用意されたリトス達は男と女で部屋を分け、やっと一人から抜け出すことができた隆だったがアランの質問攻めによりあまり寝ることはできなかったという。