盲目エルフは異世界勇者と旅をする

茜色蒲公英

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世界樹の子 前編

外側の強さ

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ライナが家に帰ってから数十分してからのこと、何やら外が騒がしかった。
ヒメは帰らず、町の外から来た人と揉めているのだろうかと外に出ようとしたが両親に止められてしまう。
ヒメのことだから何があっても心配いらない。
けれどもそれ以上にヒメが自分の学び舎である学校を壊してしまいそうでそれが心配だった。

一方、ヒメは順調と言っていいのだろうか、生徒の首を持って各家庭に訪ねては本人確認をして生徒の親を殺していた。
悲しむ時間も、憎む時間も、恐怖する時間も与えず。
最初の数人の言葉は聞いていた。
しかし説明しようが「だからって」、「そんなことで」と同じような答えしか返ってこなかったのでそのうちドアを蹴破って首を投げるだけになっていた。

「あはは…私も大量殺人鬼と共犯だ…」

全てを終え笑いながら涙を流して膝をつく教員を置いてその場を去るヒメ。
彼女の顔に何かをやり遂げたような笑みはなく、ただ作業を終えた、つまらないという顔をしていた。
ヒメの帰りを見る者はいたが邪魔するものはいなかった。
兵士は以前に切り伏せて城主に報告する者はいても立ち向かえる人間はいなかった。

「ただいま」

何事なかったかのように家の扉を開けて中に入るヒメ。
ライナの部屋に行くと暗い部屋の中で明かりも付けずに本を広げて勉強をしているライナがいた。

「今日は稽古しなくていいのか」

「もう…する必要ないから」

ああ、そういうことかと理解したヒメはクナイを投げて本に穴を空ける。

「何するの!」

椅子から立ち上がりヒメに向かって拳を振りあげて殴り、ヒメはそれを避けようともしない。
毎日稽古をしてもらっていたおかげかヒメが倒れるくらいに鍛えられていたらしく、「いてて」と頬をさすり起き上がった。

「できるじゃん」

「わ…私、今…」

「いいか、私が教えたのは外側の強さだ。だけどな、いくら外側が強くなろうが自分の心の弱さは守れないんだよ」

震えるライナの手を握って引き寄せ、ライナの胸を何度か叩く。

「だって…殴ったらまたいじめられるから…」

「いじめられなくなるまで殴ればいい。そのためにウチが教えてる。傷つくのが怖いんだったらそうならないために強くなればいい。外側の強さならいくらでも教える」

こうしてライナはヒメのいう「外側の強さ」を教えてもらい、学校で強くなったことを証明してやろうと通った。
しかし、ヒメの皆殺しが知れ渡ってしまったせいで近づく人がいなかった。
卒業後は知識を活かそうとするもヒメの友人ということで目指していた教員になることができず、仕方なく強さを活かせる職に就いたのだった。

「…と、いうわけなのでござる」

「結局なんであんたが忍者になったのか分からないままじゃない」

「ヒメの昔話を聞いて拙者がなりたいと思ってなったのでござる。あの話さえしなければ今頃拙者はヒメのように大きな刀を振り回していたのでござるが…」

一方、ヒメを追う隆とラルアは門の前まで来てしまい、ヒメと対峙したのはいいがその後ろには兵士がいる。

「おい、あいつ指名手配の…」

「そうだ!だがヒメさんがいるし殺してくれるだろ…」

話している兵士は隆の方を見ても特に近寄ってこない。

(あの兵士はヒメっていう人が僕達を殺してくれると思ってるね)

「そりゃ好都合だ」

再生した腕を二、三回ほど振って構えると対峙しているヒメが一瞬驚くと笑みを浮かべた。

「なーるほどね…ライナが殺せなかったというのにも納得がいく」

ヒメは鞘を天高く投げるとまっすぐに隆へ切りかかる。
ラルアが無数の枝を伸ばすがすぐに切り払われ、振り下ろされた刀は拳で止まる。

「なんて力だ…本当に女かよ…!」

「生まれ変わってからずっと戦っていたからね!」

刀を滑らせると弾かれる前に隆の腕を切り落とし、ラルアには懐から取り出した爆発する直前の手投げ弾を素早く投げつけた。

「君にはこれをあげるよ」

殴りかかる隆を軽い身のこなしで避け、ピンを抜いてある手榴弾を口にねじり込んで蹴り飛ばした。

二つの爆発音を聞き終えると振ってきた鞘に刀を納め、ラルアの方へと歩く。
そこには爆散した木片があるだけでラルアはいない。
木片をどけると子供が入れるほどの穴があり、ヒメが舌打ちして隆の方へ行こうと振り向くと穴から飛び出したラルアが手から丸太をロケットのように噴出した。
避けられても穴の中に逃げればいい、そう考えたラルアだったがヒメは丸太を見ることなく柄を背後に押すだけで止めてしまい、そのまま倒れている隆の前まで行った。

「これがウチと同じ転生者か。ライナ、今迎えに行く」

「待てよ。聞きたいこと多いんだし喋ろうぜ」

力強くヒメの足を掴む隆。
そのまま転ばそうとしたが脚力が強くビクともしない。

「あの手榴弾、死んだのは世界大戦中か?」

「お前に教える義理はない」

「同じ日本で死んだんだ、教えてくれたっていいだろ?」

「ライナを返した後でなら話す」

「返すってあいつは俺達と同じで追われてるんだぞ?」

「追うやつを殺せばいいだけのこと。分かったらその手を放せ」

腕を鞘で殴られても離さず、刀で刺されても掴む手を離さない。
しかし複数回刺すことで力は弱まっていき、掴まれていないほうの足で踏んで離させた。

「待ってな、今解放してやる」

ライナのいるほうへ歩いていくヒメをラルアは止めることもできず、隆へと向かう兵士の相手をすることしかできなかった。
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