盲目エルフは異世界勇者と旅をする

茜色蒲公英

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世界樹の子 後編

善、悪

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世界樹はラルアのように動きこそしないものの優しさと圧の混じったオーラで三人を圧倒していた。
三人が世界樹に近づくほど何かに体を包み込まれるような感覚へいざなう。

(ここまで来て問うのは気が引けるけどあえて聞くよ。あなたは本当に僕のお母さんなのかい?)

自分自身がそう言ったのだからきっと間違いない。
けれどラルアは聞きたかった。

(はい。間違いなくあなたの母ですよ)

「なら苦労した甲斐があったわ。来るはずの人が半分くらいいなくなったけど」

「そういやあのバカ見当たらないな。ついにくたばったか」

「くたばってくれたほうが気が楽なんだけどねー」

リトスが深いため息をつく。
すると察したヒメはそれ以上聞くのをやめた。

(世界樹、いやお母さん。僕はこれからどうしたらいいんだい?)

(我が子よ、あなたの役目は生まれた時から既に決まっています。そしてまだ終わっていないのです)

(決まっていると言われても使命感も何もないから分からないんだけど…)

(我が子よ、魔王を滅して新たな世界の主となるのです。アスモディアンのいない、いいえ。純粋なるヒューマンだけの世界を創造するのです)

リトスは思った。「何を言ってるんだこの樹は」と。
ヒメは思った。「イカれてるんじゃないのか」と。

(そんなこと一度も言われた覚えないけど)

「ウチもそんなこと言われたら無視するわ」

(マダラヒメ、あなたがこちらの世界に来るとき私は言いましたよ。魔王を倒しなさいと)

「覚えてない。というかウチ名乗ってないのによく知ってるね」

(当然です。あなたを不意の事故によりこちらの世界に呼んだのは私なのですから)

刀に手をかけるヒメ。
しかし刀は抜けない。

(私が創造したもので私を切ろうとしても無駄ですよ)

ヒメは刀を投げ捨て、リトスの持っているモーニングスターを奪い取って世界樹へと近づいていく。

(無駄だと言っているでしょう)

世界樹が風を起こすと三人に頭痛が走り、ラルアの枝が勝手にヒメに向かっていく。

かろうじて枝を破壊したヒメだったが頭を抱えるラルアから複数本の枝が飛び出してヒメを襲う。

「この武器じゃ捌ききれないなっ…!」

枝は横腹を抉り、左足の太ももを貫いた。

(あの男といいどうして異世界から来たヒューマンはこうも反抗的なのでしょう)

「あの男って隆のこと?」

(ええ、魔法に憧れのあるヒューマンなら真っ当に動くと思ったのですが、見当違いだったようです)

「そりゃあお前みたいなすべてを見下してるやつなんかに従うやつがいるかっての…リトス!刀!」

「私が持ったら斬られるんだけど!?」

「ちょっとくらいなら大丈夫だ!」

「もう…えっと落とした場所どこだっけ…」

ヒメが投げ捨てた刀を拾って投げ渡すリトス。
「サンキュー」と言って受け取ると鞘から抜けない刀に力を入れる。

(無駄なことを…ですが私は優しいので諦めるまで見てあげましょう)

「どこまでも上から目線だな。おいウチの刀!あんな樹さっさと斬るよ!!」

ヒメがいくら力を入れようが抜ける気配がない。
世界樹が創ったものだからか、リトスが「諦めよう」と声をかけようとしたときヒメが地面に鞘を力の限り叩きつけた。
すると鞘は割れ、刀身が姿を現した。

「よし、抜けた」

「破壊したの間違いじゃなくて?」

(まるで動物…我が子よ、やりなさい)

ラルアが枝を伸ばすとヒメは振り向くことなく全て切り伏せ、世界樹へと走る。
世界樹が地面から木を生やそうが斬って蹴り飛ばし、ついにいつでも斬れる距離まで近づいた。

「最後に言うことでもあれば聞いてあげる」

(善であるこの世界樹が倒されることなどあってはならない。私が死ねば魔王の手によりこの世に悪が満ちる)

「それは面白そうだな」

ヒメは鬱憤を晴らすかのようにでたらめに世界樹を切り始め、解体を終えると爽やかな表情をしていた。
ラルアの頭痛も治り、もはや原型の無くなった母親に近づいてじっくりと眺める。

(お母さんはアスモディアンを殺すと言っていたが僕もそのうちの一人だったのだろうか)

「さぁね。でももしかしたらラルアはアスモディアンじゃないかもしれないね」

(そうか…それはそうと吸収しておこう)

「するんだ」

躊躇いなく散らばった世界樹の破片を吸収するラルア。
それを見てヒメは掃除機を思い出していた。

吸収を終えたラルアは発光していた。
目が眩むほどではないがライトの代わりになりそうなほどには光っていた。
結界から出ても光り続けており、見に来たアスモディアンが悲鳴を上げて消える現象が起きていた。

「結界の力を取り入れちゃったかー。抑えることってできそう?」

(うん)

ラルアが目を閉じると光は消え、同時に結界もなくなった。
更に浮いていた城がゆっくりと地面へ落ちてきた。

地面に着いた時、リトスがしりもちをつくほど地響きが起こり、城の中からティアマトが飛び出してきた。

「何か出てきたぞ」

「魔王のティアマトだよ、私の友人だから切らないでね」

駆け寄ってきたティアマトはリトスに抱きついた。

「無事だったかおぬしら!心配じゃったんだぞ~!こんなところにいるのもあれじゃし城の中に入るぞ!」

リトスの手を引き意気揚々と歩くティアマト。
その手は世界樹よりも優しく暖かいものだった。
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