盲目エルフは異世界勇者と旅をする

茜色蒲公英

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堕ちた英雄

厄介を越えた化け物

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時はさかのぼること数日前。
リトスとラルアが世界樹に向かっている時、隆は町の商人を襲い金を手に入れ、盗賊に襲われることもあったが返り討ちにして仲間にしていた。
仲間を連れて歩く快感のようなものはあったのか調子に乗り競合していた盗賊団に殴り込みをし、取り込んでいくことを繰り返し隆は大きな盗賊団のボスとなっていた。

リトスに会う前日。
盗賊団の下っ端で人の魔力を数値化して図ることができる魔術師「モン」にないはずの魔力があると言われ魔法が使えることに気が付いた。
攻撃魔法でないと攻撃系の魔法は威力が見込めないと判断されたが魔力を増幅させることのできる黒い宝石「ダークジェム」を体に仕込めば詠唱魔法でも強力な魔法になると知る。
しかしダークジェムは滅多にとれるものではなくモンが持っていた手のひらに収まるほどの欠片をもらうことになった。

そして今、ヒメ達に不意打ちをくらい激高した隆は本能的にダークジェムを握りしめ怨念と憎悪を込めると体が焼かれるような痛みとともに姿が変わったのだった。
ドラゴンになった隆に理性はなくただ目の前にいる敵を滅ぼす衝動しかない。

「そこから離れよヒメ!」

「了解!」

ドラゴンの体を蹴りその反動で距離をとったヒメ。
ブレスを吐こうとするドラゴンの頭上には黒い雲が立ち込めていた。

「『スパークジャベリン』!」

雲から放たれた雷の槍はドラゴンの脳天を突き破り放とうとしたブレスは空へ一直線に向かった。
それはブレスというよりも光線に近いものだった。

「あっぶな、あれは火傷じゃすまなさそうだわ」

「気を取られているでない!もう一発来るぞ!」

ドラゴンは痺れているのか身体こそ動いていないが口に何かを貯めていた。

「魔王!さっきのもう一回!」

「今魔力を集中させておるから無理じゃ!何とか回避せい!」

ドラゴンは魔法を放ったティアマトの方は見ずヒメに狙いを定めていた。
首は動いていないから避けられるだろうか、そんなことを考えていたヒメはドラゴンへ走った。

しかしたどり着く前にブレスは放たれた。

「あれ、思ったより太いな…」

ヒメが素早いから細いと避けられると理解したのだろう。
横に飛んでも避けられない幅の広さを放ってきたのだった。

刀で払えるわけもなく絶体絶命化と思われたその時、木の壁がブレスを防いだ。

「ラルアか!」

(リトスは巻き込まれないぐらいには遠くへ運んでおいたから僕も援護程度に参加するよ)

「援護じゃなくて前に出てくれてもいいんだぞー」

(あはは…君の動きを見るので精いっぱいだよ)

「楽しく会話しておる場合か!またブレスがくるぞ!」

ヒメは木の壁を切ってドラゴンの顔に向けて蹴り飛ばし視界を阻んでいる間にドラゴンの足元にたどり着き、足を切り落とした。
バランスをくずしたドラゴンのブレスは地面に放たれ、その反動で倒れそうになった体は起き上がり、しまっていた羽を大きく広げて羽ばたき始めた。
背中に乗らなければ空に飛んで攻撃が届かなくなってしまうが背中に乗るにも羽ばたきが強く吹き飛ばされないように耐えることしかできない。

「魔王!魔法まだ!?」

「今放ったとしてもこやつは空へと飛ぶ!今は風に耐えよ!」

(こんのぉぉ)

ラルアが地面からドラゴンの腹に鋭い枝を突き刺すがドラゴンは動じず枝が刺さったままヒメの刀が届かない空中へ飛んでしまった。
更には高度を上げてブレスの準備を始め三人を一網打尽にしようとしている。

「どうするのこれ、今は風に耐えよって言ったからには何かあるの?」

「当たり前じゃ。ラルア、おぬしはなるべく深く地面に潜ってブレスが放たれた時のため隠れておれ。ヒメは妾と亜空間の中に入れ」

ヒメは手を引かれて亜空間の中に入り、すぐに出るとそこは地上から遠く離れドラゴンすら小さく見えるほどの空の上だった。

「ちょっあぁぁぁぁ!!!!」

「おぬしの力であれば地面に叩きつぶすことくらい容易いであろう」

「無理無理無理!高いところダメだから!」

「そうはいうてもすぐに亜空間を開くことはできぬしな。ほれもう背中が近いぞ」

「あとで絶対覚えておけよっ…はぁぁっ!」

ブレスを吐いて砂煙の中三人が死んでいると確信しているドラゴンの背中に叩きこまれるヒメの一撃。
ドラゴンは真っ二つになりヒメは地面と激突する前に亜空間へ吸い込まれた。

「塵一つ残さず消えよ。『ダークインフェルノ』!」

電気を纏った黒い球はドラゴンの体が再生する前に体を飲み込み、一瞬消えたかと思うとその場で凄まじい爆発を起こした。

「……ふぅ」

緩やかな速度で地上に降りたティアマトは亜空間からヒメを出し、ラルアに地上へと出るように指示をした。

「あー気持ちわるい。上も下も分からないし妙に浮いた感じがしてたし。それでドラゴンは?」

「見てのとおり妾が始末しておいた。不死身とはいえ再生する身がなければ復活もできんじゃろ」

(そうか。残念な終わり方だったけどこれであいつもこの世界に縛られることも無くなったし良かったのかな)

離れた場所にいるリトスを迎えに行く三人。
その時ティアマトの体に穴が空き、血を吹いて倒れるティアマトの体の穴から卵が転がる。

「魔王!」

卵はすぐに割れ、中からドラゴンのヒナが現れると数秒の内に先ほどティアマトが消したはずのドラゴンの姿へと変貌を遂げた。
耳をつんざくほどの咆哮を上げるドラゴン。
その声は高く、三人をあざ笑うかのようだった。
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