6人目の魔女

Yakijyake

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第十三話 馬車に揺られて

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目の前は闇一色。何も見えず、何も聞こえず、何も感じない。私はなぜ今こんな状況になってしまったのか。頭を使って思い出そうとする。しかし、その瞬間、猛烈な痛みが頭を襲った。
「あああああああああああ…」
痛い痛い痛い痛い痛い痛い。
いくら叫んでも闇からは解放されない。痛みも増すばかり。
「あっ…が……ぐっ………」
声にならない悲痛を漏らす。もうこのまま死ぬのかもしれない。痛みを感じ続け私はそう諦めかけていた。しかし私は頭になんだか温もりを感じた。相変わらず頭には激痛が走っているが、それでも比較的和らいだ気がする。何かが聞こえる
「……じ………よ」
「だ…じょ…ぶよ」
「大丈夫よ」
そう聞こえた気がした。いや、確かにそう聞こえた。
やがて、なんとか薄く目を開けられた。身体中に伝わる振動。どこかに運ばれている。そう感じるのに時間はかからなかった。
「うぅ………」
やはりまだ意識が朦朧としている。頭も痛い。私は呻くことしかできなかった。少しずつ、しかし確実に目を開いていく。そして半分ほど開いた後、私の目は母をキャッチした。
「お……母…様?」
「ベレッタ…無理しないで。無理に話さなくても大丈夫よ」
「大丈夫よ」やはりあの声は母だったのか。でも今なんでこんな状況なのか。なぜ意識が朦朧としているのかなどの高度な思考は私にはまだ働かなかった。眠気が襲ってきた。しかし、私はどうにかして起きていようと踏ん張った。今寝てしまったら、もう一生起きれない気がした。頑張って目を開けている。すると眠気のピークは過ぎ、だんだんと意識がはっきりしてきた。まだ頭痛はするけど。そうして私は上体を起こそうとすると母に止められた。
「ダメよ、横になってなさい。頭を打っているから安静に」
私は言われるがまま横になった。
しばらくして、ようやく話せるようになってきた。
「お母様…ここは?」
「馬車よ。いまは王都に向かってる」
馬車?王都?私にはなにが起こっているかわからなかった。ただ、母の顔色を見てあまり状況は芳しくないことは分かる。もう母には微笑む余裕すらない。母は私をじっと見つめながら状況を話してくれた。
要約すれば、今私たちは王国軍に捕らえられ、王都に連れてかれている。そして母には魔女の容疑がかかっていて、近いうちに審判にかけられる。捕まったときに私は軍の兵士に襲撃されて気を失ったらしい。
……。はっきり言ってかなりまずい。この国は病的なほどに魔女の存在を忌み嫌っている。いくら私が母が魔女じゃないと言ってもきっと信じてもらえない。審判がどんなものかわからないが、審判の結果によっては最悪………
母が死ぬ。やっと結論に頭が追いついた。
死んでしまう?母は死んでしまう?なんの罪もない母が?
私は信じきれなかった。でもこの母の表情は本物だ。馬車はどんどん王都に近づいている。もし着いたら私と母はどんな扱いを受けてしまうのか。
一段と馬車が加速した気がした。
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