6人目の魔女

Yakijyake

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第三十六話 置き手紙

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懇願して、ようやく得ることのできた真実。もちろん、それが明るい真実だとは到底思えない。でも、聞かねばならない。ここで逃げれば、私は何も知ることなくここで平和に生きられるかもしれない。でもそれじゃダメなんだ。そんな自分では母に胸を張って報告ができないではないか。
私はベールさんをじっと見つめて待った。私と目が合って、ようやく彼はその口を開いた。
「端的に話すよ。実は…君のお母さんは前からこうなることを、裁判にかけられることをわかっていたんだ。」
わかっていた?それとここが分かることに一体どういう繋がりがあるのだろうか。その時点では繋がりが全く分からなかった。しばらく考え込んだ。知っていた…知っていた…
はっとした。
全身の血の気はスーッと引いていくような感覚。思わず身震いをした。
繋がった。全部繋がってしまったのだ。
母は「隠した」のだ。私がいるから。私の身を案じて。一人でずっと死への恐怖を抱えていたことになる。誰にも打ち明けられずに。あの日、頭をたった一発殴られただけで感じた死への恐怖。あれは言葉には形容し難い恐ろしい感覚だった。それを毎日感じ続けて、しかも顔色ひとつも変えずに過ごしてきたんだ。
私が…私の「弱さ」ゆえに…!
気付かぬうちに私はただ譫言のように母に謝罪の言葉を漏らしていた。
「ごめんなさい。ごめんなさい…」
その時の場の空気は酷いものだっただろうが、私はその時そこまで気を配る余裕はなかった。ただ、事実が全部繋がってしまっただけでもう一杯一杯だった。
やっぱり自分のせいで母が死んでしまった。私がもっとしっかりしていれば、私がもっと強ければ、防げたかもしれないのに、とただ後悔ばかりが滲み出てくる。もういなくなりたい。カトリナさんたちの実の娘を殺した私の居場所はここじゃない。こうなるのだったら、どこかで野垂れ死ぬ方がマシかもしれない…
ここまではそう考えていた。でも、話には続きがあった。
「手紙を預かっています」
カトリナさんは確かにそういった。
「え?お母様の?」
思わず口に出てしまった。
「そうです。本当はもっと早く渡すべきだったかもしれませんが…でも、今読んでみてください」
そう言って白い封筒を差し出してきた。封筒には「ベレッタへ」と書かれていた。筆跡からして母のものに間違いはなさそうだ。
ゆっくり丁寧に封筒を開け、中身を取り出す。便箋には文字が書かれていた。私はそれを読むために目を落とした。

「愛しいベレッタへ」
「これを読んでいるなら、きっとつらい目に遭ってしまったのでしょう。ごめんなさい。私にはそれが防げなかった。でも、これを読んでいるなら、きっともう大丈夫。もうあなたが狙われることはないはず。だから、落ち着いて。私がいなくてもきっとベレッタはやっていける。あなたは自分で思っているよりも素晴らしい人間なの。私はそんなベレッタの母親になれて幸せです。」
「ベレッタ。私の娘でいてくれてありがとう」
「あなたの母エリーナより」

便箋の下の方にはもうもう一文添えられていた。
「約束覚えてる?楽しみに待っているからね」
ずるい。こんなのはずるいよ。
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