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「ざっけんじゃねーーーーーっっ」
部屋に入ってくるなり、大声で怒鳴った孝弘は、事務所の一番奥までずかずか歩いて行って、天井からつるされたサンドバッグに思いっきり蹴りを入れた。
その勢いのまま数回がしがしと蹴りをかまして、ふうううっと肩を揺らして大きく息をつく。
もう5時の終業時間を30分過ぎているからスタッフは誰もいない。基本的に残業しない主義の中国の職場はこういうものだ。
「お疲れさま、孝弘」
怒り心頭といった孝弘にまったく動じず、くすくす笑ったレオンがグラスを差し出した。冷たい花茶《ホァチャ》を一気に飲み干して、孝弘がもう一度大きく息をつく。
「また突っ返された?」
「マジ殺す。あいつら全員ぶっ殺す。てめーらが言った資料、全部そろってんじゃねーかよ。もったいぶってもたもたしやがって。あーーーー、むかつくっ」
叫びながら、もう一発、蹴りをかました。
役所に申請書を提出に行ってきたのだが、ここ数日あれが足りないこれを記入しろと何枚も似たような書類のやりとりをしているのだ。
レオンは櫻花珈琲店の北京2号店、西単《シーダン》店の開店準備で先週から北京入りしている。本来の予定では8月末にオープン予定だったが、何事も予定通りにいかない中国のこと、あれこれトラブルが重なって1か月半も延びたのだ。
一号店の王府井《ワンフージン》店は比較的スムーズにオープンで来たので、ここまで難航するのは予想外だった。
先週は2回レオンが提出に行ったが却下された。人を替えれば同じ書類が通ったりするという摩訶不思議が起こることがあるので、仕事でたまたま北京に来た孝弘がものは試しと懇願されて、時間を作って行ってきたのだ。でも今日も申請は通らなかった。
王府井店が開店するときと同じ書類を用意していると言うのに、どういうことだ。よくあることだが腹は立つ。仕事も忙しい中、何とか役所の空いている時間にギリギリ滑り込んだというのに。
ともかく現在、店もスタッフの準備もほぼ出来上がっていて、3日後にはオープン予定になっている。なのに最終の申請書が通らないと言う事態だ。
まあレオンが何とかするだろう。
その辺はぞぞむもレオンも中国事情をよくわかっていて、予定通り事が進まなくても慌てたりはしない。もちろん最善は尽くすのだけれど、何事も思い通りに行くほうがめずらしいのだから、それくらいであわあわしていてはこの国で仕事はできない。
「まあまあ、気持ちはわかるけどそうカッカしないで」
レオンはくしゃくしゃと孝弘の頭を撫でる。髪を乱されて嫌そうに顔をしかめて、孝弘がその手を乱暴に振り払った。
「さわんじゃねーよ。明日はレオンが行けよ。ホントは俺は表に出られないんだからな」
「はいはい、わかってるよ。忙しいとこありがと。ところで孝弘」
「何だよ?」
まだ不機嫌が収まらない孝弘にレオンが楽しげに告げた。
「祐樹さん、来てるよ」
「……え?」
ソファを振り向いた孝弘は、そこでマグカップを持ったまま目を丸くして自分を見ている祐樹を見つけて、うろたえた顔になる。
その滅多にない動揺した孝弘の顔を見て、レオンが爆笑した。
予想通りというか予想以上の孝弘の反応に、してやったりと遠慮なくげらげら笑うレオンの尻に膝で軽く蹴りを入れて、孝弘は祐樹に近づいた。
思いがけず素の自分を見られて、取り繕えばいいのか開き直ればいいのか少し迷う。
ヤベ、マジ切れ見られた。
いやべつに見られて困るわけではないのだが、でもこんなふうに感情を爆発させた姿を見せたことはなくてすこし慌てる。
部屋に入ってくるなり、大声で怒鳴った孝弘は、事務所の一番奥までずかずか歩いて行って、天井からつるされたサンドバッグに思いっきり蹴りを入れた。
その勢いのまま数回がしがしと蹴りをかまして、ふうううっと肩を揺らして大きく息をつく。
もう5時の終業時間を30分過ぎているからスタッフは誰もいない。基本的に残業しない主義の中国の職場はこういうものだ。
「お疲れさま、孝弘」
怒り心頭といった孝弘にまったく動じず、くすくす笑ったレオンがグラスを差し出した。冷たい花茶《ホァチャ》を一気に飲み干して、孝弘がもう一度大きく息をつく。
「また突っ返された?」
「マジ殺す。あいつら全員ぶっ殺す。てめーらが言った資料、全部そろってんじゃねーかよ。もったいぶってもたもたしやがって。あーーーー、むかつくっ」
叫びながら、もう一発、蹴りをかました。
役所に申請書を提出に行ってきたのだが、ここ数日あれが足りないこれを記入しろと何枚も似たような書類のやりとりをしているのだ。
レオンは櫻花珈琲店の北京2号店、西単《シーダン》店の開店準備で先週から北京入りしている。本来の予定では8月末にオープン予定だったが、何事も予定通りにいかない中国のこと、あれこれトラブルが重なって1か月半も延びたのだ。
一号店の王府井《ワンフージン》店は比較的スムーズにオープンで来たので、ここまで難航するのは予想外だった。
先週は2回レオンが提出に行ったが却下された。人を替えれば同じ書類が通ったりするという摩訶不思議が起こることがあるので、仕事でたまたま北京に来た孝弘がものは試しと懇願されて、時間を作って行ってきたのだ。でも今日も申請は通らなかった。
王府井店が開店するときと同じ書類を用意していると言うのに、どういうことだ。よくあることだが腹は立つ。仕事も忙しい中、何とか役所の空いている時間にギリギリ滑り込んだというのに。
ともかく現在、店もスタッフの準備もほぼ出来上がっていて、3日後にはオープン予定になっている。なのに最終の申請書が通らないと言う事態だ。
まあレオンが何とかするだろう。
その辺はぞぞむもレオンも中国事情をよくわかっていて、予定通り事が進まなくても慌てたりはしない。もちろん最善は尽くすのだけれど、何事も思い通りに行くほうがめずらしいのだから、それくらいであわあわしていてはこの国で仕事はできない。
「まあまあ、気持ちはわかるけどそうカッカしないで」
レオンはくしゃくしゃと孝弘の頭を撫でる。髪を乱されて嫌そうに顔をしかめて、孝弘がその手を乱暴に振り払った。
「さわんじゃねーよ。明日はレオンが行けよ。ホントは俺は表に出られないんだからな」
「はいはい、わかってるよ。忙しいとこありがと。ところで孝弘」
「何だよ?」
まだ不機嫌が収まらない孝弘にレオンが楽しげに告げた。
「祐樹さん、来てるよ」
「……え?」
ソファを振り向いた孝弘は、そこでマグカップを持ったまま目を丸くして自分を見ている祐樹を見つけて、うろたえた顔になる。
その滅多にない動揺した孝弘の顔を見て、レオンが爆笑した。
予想通りというか予想以上の孝弘の反応に、してやったりと遠慮なくげらげら笑うレオンの尻に膝で軽く蹴りを入れて、孝弘は祐樹に近づいた。
思いがけず素の自分を見られて、取り繕えばいいのか開き直ればいいのか少し迷う。
ヤベ、マジ切れ見られた。
いやべつに見られて困るわけではないのだが、でもこんなふうに感情を爆発させた姿を見せたことはなくてすこし慌てる。
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