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「へえ、きれいな色だね」
「ちょっと派手かと思ったけど、祐樹のスーツって落ち着いた色のが多いから、そういうのも悪くないかと思って」
すっきりした細めのストライプのネクタイは織が凝っていてきれいな青と深い緑色をしていた。
「うん、いい色だね。ありがとう」
「当日はそれ着けて」
「そうする。うれしいな」
祐樹の誕生日当日は勤務後に孝弘も含め事務所のスタッフ8人で食事会をすることになっている。
「だけど誕生日なのに本人がみんなにご馳走するって聞いた時はびっくりしたな」
「だよな。俺も自分の聞き間違いかと思った。まだ中国語始めたばっかりだったから」
日本と違って、誕生日パーティは当人が周囲の人にご馳走するものだ。だから祐樹の食事会ももちろん中国式で祐樹のおごりだ。
誕生日なんて個人的なことをわざわざ仕事場のスタッフと祝わなくてもいいと祐樹は思ったが、孝弘は事務所の中国人スタッフを誘うようにアドバイスした。
「日本人スタッフの誕生祝いに誘ってもらえるってことが大事なんだ」
「そういうもの?」
「そういうもの。面子大事。今後の人間関係がスムーズになるから」
「本当に?」
「ああ」
孝弘がこう言うのだから本当なのだろう。
広州や深センではどうしてたっけ?と思って、わざわざ誕生日を教えたりしなかったと思い出した。あの時は女性スタッフがかなりあからさまに祐樹に言い寄って来たので、仕事以外では関わらないよう細心の注意を払っていたのだ。
「実際は誕生日に行くってだけで、ただの食事会だから構える必要ないよ」
孝弘のアドバイスに従って、中国人スタッフに評判のいい、普段より少しいいランクの広東料理の店を予約した。
当日案内されたのは、食事をするテーブルの横にソファセットも置いてある大きな個室だ。
「高橋さん、誕生日おめでとうございます」
「このお店、来てみたかったんです」
「ここすごくおいしいって有名ですよね」
「そうらしいね。おれも初めて来たんですよ」
広い個室で最初に乾杯の挨拶をして、あとはごく普通にみんなでご飯を食べるだけだ。
4人の中国人スタッフはとても喜んで、大きな声でよくしゃべり、よく食べた。青木も片言の中国語と日本語で会話に混じり、和気あいあいと食事会は進んだ。
一通り料理が出て、お腹が落ち着いた頃にはソファセットに移ってカラオケになる。レストランの個室にはカラオケが備えてあることが多い。
中国人スタッフの歌を聴きながらテレビ画面をぼんやり眺めていたら、いつの間にか隣りの席に張秀高が座っていた。日本に留学経験もある社会人3年目の優秀な男性社員だ。
「高橋さん、お誕生日おめでとうございます」
「ああ、ありがとう」
「これ、どうぞ」
小さな包みを渡されて「え?」と顔を見たら「ほんの気持ちです」と言われた。
中身が何かわからないがプレゼントを受け取らないわけにもいかず、戸惑いながら「ありがとう」と礼を言った。
「それで、あの、この前はすみませんでした」
続けて気まり悪げに言うから、本当に言いたかったのはこれかと祐樹は張秀高の横顔をちらりと見た。頬のあたりが赤い。
「いや、気にしてないよ」
「私の勘違いでした。あの時、言えなくて…」
先週、伝票に書かれた数字が違っていたのだ。まだ発注前に祐樹が気がついて先方に確認したので問題は起こらなかったが、張秀高が受けた注文だったので、勝手に人の仕事に口出しするなとへそを曲げてしまった。
先方に確認するより先に自分に言って欲しかったということらしい。たまたま張が出張で大連にいなかったから取引先に確認しただけのことだったが、ようするに面子をつぶされたと思ったのだ。
「ちょっと派手かと思ったけど、祐樹のスーツって落ち着いた色のが多いから、そういうのも悪くないかと思って」
すっきりした細めのストライプのネクタイは織が凝っていてきれいな青と深い緑色をしていた。
「うん、いい色だね。ありがとう」
「当日はそれ着けて」
「そうする。うれしいな」
祐樹の誕生日当日は勤務後に孝弘も含め事務所のスタッフ8人で食事会をすることになっている。
「だけど誕生日なのに本人がみんなにご馳走するって聞いた時はびっくりしたな」
「だよな。俺も自分の聞き間違いかと思った。まだ中国語始めたばっかりだったから」
日本と違って、誕生日パーティは当人が周囲の人にご馳走するものだ。だから祐樹の食事会ももちろん中国式で祐樹のおごりだ。
誕生日なんて個人的なことをわざわざ仕事場のスタッフと祝わなくてもいいと祐樹は思ったが、孝弘は事務所の中国人スタッフを誘うようにアドバイスした。
「日本人スタッフの誕生祝いに誘ってもらえるってことが大事なんだ」
「そういうもの?」
「そういうもの。面子大事。今後の人間関係がスムーズになるから」
「本当に?」
「ああ」
孝弘がこう言うのだから本当なのだろう。
広州や深センではどうしてたっけ?と思って、わざわざ誕生日を教えたりしなかったと思い出した。あの時は女性スタッフがかなりあからさまに祐樹に言い寄って来たので、仕事以外では関わらないよう細心の注意を払っていたのだ。
「実際は誕生日に行くってだけで、ただの食事会だから構える必要ないよ」
孝弘のアドバイスに従って、中国人スタッフに評判のいい、普段より少しいいランクの広東料理の店を予約した。
当日案内されたのは、食事をするテーブルの横にソファセットも置いてある大きな個室だ。
「高橋さん、誕生日おめでとうございます」
「このお店、来てみたかったんです」
「ここすごくおいしいって有名ですよね」
「そうらしいね。おれも初めて来たんですよ」
広い個室で最初に乾杯の挨拶をして、あとはごく普通にみんなでご飯を食べるだけだ。
4人の中国人スタッフはとても喜んで、大きな声でよくしゃべり、よく食べた。青木も片言の中国語と日本語で会話に混じり、和気あいあいと食事会は進んだ。
一通り料理が出て、お腹が落ち着いた頃にはソファセットに移ってカラオケになる。レストランの個室にはカラオケが備えてあることが多い。
中国人スタッフの歌を聴きながらテレビ画面をぼんやり眺めていたら、いつの間にか隣りの席に張秀高が座っていた。日本に留学経験もある社会人3年目の優秀な男性社員だ。
「高橋さん、お誕生日おめでとうございます」
「ああ、ありがとう」
「これ、どうぞ」
小さな包みを渡されて「え?」と顔を見たら「ほんの気持ちです」と言われた。
中身が何かわからないがプレゼントを受け取らないわけにもいかず、戸惑いながら「ありがとう」と礼を言った。
「それで、あの、この前はすみませんでした」
続けて気まり悪げに言うから、本当に言いたかったのはこれかと祐樹は張秀高の横顔をちらりと見た。頬のあたりが赤い。
「いや、気にしてないよ」
「私の勘違いでした。あの時、言えなくて…」
先週、伝票に書かれた数字が違っていたのだ。まだ発注前に祐樹が気がついて先方に確認したので問題は起こらなかったが、張秀高が受けた注文だったので、勝手に人の仕事に口出しするなとへそを曲げてしまった。
先方に確認するより先に自分に言って欲しかったということらしい。たまたま張が出張で大連にいなかったから取引先に確認しただけのことだったが、ようするに面子をつぶされたと思ったのだ。
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