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「そうなんだ。孝弘、行ったことあるの?」
「あるわけないだろ。何だっけ、まだ留学して来たばっかの頃、みんなで北京観光っていうか、色々見て回ろうって計画してた時に、誰かが言ったんだよ。そこ、夜は集まるスポットだから近寄るなって。だからホントかどうかは知らない」
「あっても不思議じゃないけどね」
「確かに。ゲイバーもどこかにあるんだろうけど、さすがにチェックしてなかった」
「いや、しなくていいから」
「祐樹が言いだしたんじゃん」
「そうだけど。知りたいっていうより素朴な疑問だったんだよ」
「二丁目みたいな場所は北京では聞いたことなかったな」
「接待で行くわけないもんね」
二人で顔を見合わせたら何だかおかしくなってくすりと笑った。ベッドで裸で抱き合って一体何の話をしてるんだか。
「だけど祐樹こそ、女の子のいる店行くことあるだろ?」
「まあ…、なくはない」
男の世界のおつき合いで、接待と言う場で断れない時は当然ある。
「どうしてんの、そういう時」
「適当にしゃべって終わり。面倒な時は体調悪いとか酔いすぎたとか言って寝かせてもらったり」
祐樹は女性を抱けないわけじゃないが興味はない。店の女の子に不能だと思われても痛くも痒くもないが、おかしな噂が立っても困るのでそう言い訳している。
「女の子にとってはいい客だな」
「うーん…。一概にそうとも言えない」
「え、なんで?」
「何もしないとサービス料取れないって文句言われたことある」
そんなクレームを受けるとは思わなくて祐樹も困惑したが、彼女は何もさせてもらえないなんて自分に魅力がないと思われて店での評価が下がると祐樹に食い下がった。
疲れて何もしたくないから金だけ払うとチップを追加したら、それでは悪いからと彼女は普通に肩と背中を揉んでくれた。
「へえ、なかなか仕事熱心と言うか…。まあ金稼ぎたくて仕事してんだもんな」
孝弘は感心したように言う。
「でも今度から俺もそう言おう。体調悪いから寝かせてくれって」
「行かずにすめば一番なんだけどね」
「まあな。でも仕事上の関係だと断りづらいしな。…ちゃんとわかってるから信じてるし、俺のことも心配しなくていいから」
真っ直ぐに目を合わせてはっきり言われて、祐樹は自分の本心を知った。そうか、この言葉が欲しかったのか。
実際のところ、孝弘が店でどうしていようと構わない。もちろん孝弘がこういうのだから本当だろうと信じている。
でもこうして祐樹の不安をわかってくれて、安心させてくれたのが何よりうれしい。きちんと言葉をくれる孝弘のこういうところが好きだと何度も思う。
翌日、会社から帰ってきた孝弘がスーツのまま、祐樹の部屋にやって来た。
「祐樹、月餅まだある?」
突然そう訊かれて面食らう。
「あるよ。食べるの?」
まだまだ賞味期限はあるがそんなに好きでもないし、どうせ食べきれないからもう捨てようかと言う話をしたのは三日前のことだ。
「いや。引き取りたいって人が現れたから、全部渡そうと思って」
「え、嘘。だれ?」
「児童福祉施設っていうか、孤児院というか、の職員さん」
「あ、そうなんだ」
「おやつに食べるから手つかずなら欲しいって」
「マジで? 全部持って行ってもらおう」
積んでいた月餅はすべて引き取ってもらえた。
「よかったね。無駄にならなくて」
「来年は最初から箱は開けずに全部あげよう」
「うん。そうしよう」
こうして二人の間で中秋節の行事が二つ増えた。
「あるわけないだろ。何だっけ、まだ留学して来たばっかの頃、みんなで北京観光っていうか、色々見て回ろうって計画してた時に、誰かが言ったんだよ。そこ、夜は集まるスポットだから近寄るなって。だからホントかどうかは知らない」
「あっても不思議じゃないけどね」
「確かに。ゲイバーもどこかにあるんだろうけど、さすがにチェックしてなかった」
「いや、しなくていいから」
「祐樹が言いだしたんじゃん」
「そうだけど。知りたいっていうより素朴な疑問だったんだよ」
「二丁目みたいな場所は北京では聞いたことなかったな」
「接待で行くわけないもんね」
二人で顔を見合わせたら何だかおかしくなってくすりと笑った。ベッドで裸で抱き合って一体何の話をしてるんだか。
「だけど祐樹こそ、女の子のいる店行くことあるだろ?」
「まあ…、なくはない」
男の世界のおつき合いで、接待と言う場で断れない時は当然ある。
「どうしてんの、そういう時」
「適当にしゃべって終わり。面倒な時は体調悪いとか酔いすぎたとか言って寝かせてもらったり」
祐樹は女性を抱けないわけじゃないが興味はない。店の女の子に不能だと思われても痛くも痒くもないが、おかしな噂が立っても困るのでそう言い訳している。
「女の子にとってはいい客だな」
「うーん…。一概にそうとも言えない」
「え、なんで?」
「何もしないとサービス料取れないって文句言われたことある」
そんなクレームを受けるとは思わなくて祐樹も困惑したが、彼女は何もさせてもらえないなんて自分に魅力がないと思われて店での評価が下がると祐樹に食い下がった。
疲れて何もしたくないから金だけ払うとチップを追加したら、それでは悪いからと彼女は普通に肩と背中を揉んでくれた。
「へえ、なかなか仕事熱心と言うか…。まあ金稼ぎたくて仕事してんだもんな」
孝弘は感心したように言う。
「でも今度から俺もそう言おう。体調悪いから寝かせてくれって」
「行かずにすめば一番なんだけどね」
「まあな。でも仕事上の関係だと断りづらいしな。…ちゃんとわかってるから信じてるし、俺のことも心配しなくていいから」
真っ直ぐに目を合わせてはっきり言われて、祐樹は自分の本心を知った。そうか、この言葉が欲しかったのか。
実際のところ、孝弘が店でどうしていようと構わない。もちろん孝弘がこういうのだから本当だろうと信じている。
でもこうして祐樹の不安をわかってくれて、安心させてくれたのが何よりうれしい。きちんと言葉をくれる孝弘のこういうところが好きだと何度も思う。
翌日、会社から帰ってきた孝弘がスーツのまま、祐樹の部屋にやって来た。
「祐樹、月餅まだある?」
突然そう訊かれて面食らう。
「あるよ。食べるの?」
まだまだ賞味期限はあるがそんなに好きでもないし、どうせ食べきれないからもう捨てようかと言う話をしたのは三日前のことだ。
「いや。引き取りたいって人が現れたから、全部渡そうと思って」
「え、嘘。だれ?」
「児童福祉施設っていうか、孤児院というか、の職員さん」
「あ、そうなんだ」
「おやつに食べるから手つかずなら欲しいって」
「マジで? 全部持って行ってもらおう」
積んでいた月餅はすべて引き取ってもらえた。
「よかったね。無駄にならなくて」
「来年は最初から箱は開けずに全部あげよう」
「うん。そうしよう」
こうして二人の間で中秋節の行事が二つ増えた。
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