あの日、北京の街角で4 大連デイズ

ゆまは なお

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 孝弘がレオンと話しているのを、祐樹はビール片手に聞いていた。リラックスした表情だから退屈しているわけじゃない。

 小姐を呼んでビールの追加と軽いつまみをいくつか頼んだ。いつの間にか、鍋はほとんど空になっていた。

「ところで二人はどうなの? 大連生活楽しい?」
「まあまあ。開発区内だと生活の不便はないし」

「外寒いから出不精になるけどね。駐在員が太るのもわかるよ」
「だよねー。でも仕事も生活も狭い範囲で済むから楽だよね」

「マジでな。俺、日本の通勤電車とか絶対無理だな。6月に本社行って死ぬかと思ったもん」
「すごいよね、東京で仕事してる人たちって。毎日あんな満員電車乗って通勤一時間以上とかでしょ?」

 レオンは東京に遊びに来て、地下鉄や電車の混雑ぶりに驚いたらしい。

「でもちゃんと時刻表通りに電車来るし人多いのに街がきれいだし、ほんとアンビリーバブルでワンダフルな国だよね、日本は」

「アンビリーバブルなら中国も負けないだろ」
「別の意味でねー」

 レオンがくすくす笑って「そこで仕事してる俺たちも相当アンビリーバブルだけどね」と混ぜっ返す。
 
 まったくだと孝弘は思う。高校生の自分に、将来中国で起業して商談のために国内を飛び回ってるよなんて教えても絶対信じないだろう。

 いやそれよりも、男の恋人ができて、二人で仲良くほぼ一緒に暮らしてるってことのほうがびっくりするよな。当時は女の子とつき合っていたし、男性を恋愛対象として意識したことなんか一度もなかった。

 そう思うと意外にアンビリーバブルなことが多い人生だ。

 その後は仕事の話ではなく、お互いの子供の頃の話や学生時代の笑い話なんかをたくさんして、お腹が痛くなるほど笑った。鍋の〆に雑炊を作って食べてから、会計を頼んだ。

「レオンはホテル予約してるの?」
「ううん、孝弘が泊めてくれるっていうから取ってない」

「あ、そうなんだ」
「明日は朝から開発区の店の打合せだしね」

「俺は祐樹の部屋行ってるから、レオンの好きにしてていいぞ」
「うん、そのつもり」

 ちゃっかりそう返事したレオンが、外に出て首をすくめた。痛いくらいに冷たい外気にきゅっと身が引き締まる。

「うわ、夜はやっぱ寒い」
 零下10度近いのだから当り前だ。

 吐く息が白く、きんと冷えた大気に溶ける。からからに乾燥しているからさらりとしていて空気は軽い。肺が痛くならないよう、ゆっくり息を吸ってレオンが言う。

「東北《トンベイ》来たなって感じするよ」

 三人でタクシーに乗って開発区に戻り、レオンと一緒に一旦自分の部屋に入ってざっと部屋の説明をした。

「シャワーそっちな。適当にしといて。祐樹の部屋もすぐそこだし」
「うん。いいよね、何ていうんだっけ。スープの冷めない距離?」

「もっと近いけどな。パンとコーヒーは冷凍庫に入ってる。冷蔵庫の中も好きに食って」
「ありがと。朝は挨拶しないよ、こっちも適当に出るから」

「わかった。夜は外食?」
「どうだろ、接待交流的に何かあるかも?」

「そっか。まあ部屋で会えるからいいだろ」
「予定わかったら連絡するよ。じゃあ、おやすみ」

 明日の着替えとバッグを持って、祐樹の部屋へ行く。このまま泊まって、明日は祐樹の部屋から出勤するつもりだ。
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