7 / 18
2-3
しおりを挟む
「えー、何でや?」
「田中の厚かましさと強引さを分けて欲しいってこと」
からかうように言ったが田中は豪快に笑い、「そうやろ、早瀬はイケメンの割に小心なとこあるもんなー」とあっさり言ってのけた。
やっぱ小心者って思われてるのか。でも田中にはそう言われても怒る気はしなかった。
「あ、彼、知ってる? 背の高い方」
すでに別の場所に移動していたさっきの男を指して訊ねたら、田中は二人の背中を見て「ああ」とうなずいた。
「名前忘れてしもたけど、この前、帰国講演会した奴やろ?」
「…ああ、そっか」
どこかで見た顔だと思ったが、講演会を聞いたんだった。
先々週の研修留学の帰国講演会では髪を上げてかっちりしたスーツ姿だったから、浴衣姿の今とかなり印象が違っていた。
彼はこの国の現状と発展についての考察を述べ、法律の整備と民衆の政治参加の重要性を説いていた。どこか皮肉っぽい笑みを時々浮かべて、質疑応答に応えていた。
あの時はもっと大人っぽいノーブルな雰囲気だったが、浴衣姿のせいか今はそうでもない。
「あれこそイケメンって感じやな。んー、イケメンなんて軽い感じとはちゃうかな。なんて言えばいいんやろな、ああいう男前は」
「男前って言い方いいね。イケメンより硬派な感じ」
田中の言いたいことは分かる。顔立ちの良さはもちろんだが、身にまとう雰囲気が違う。庶民の俺とは関係ない世界の男。
大学の文化祭でもなければ、こんな屋台になんて来ないに違いない。
カキ氷を食べ終わり、田中は手を上げて離れていき、俺はまたぶらぶら回り始めた。盆踊りの歌がまだ聞こえている。この国の人たちに盆踊りの歌はどんなふうに聞こえてるんだろう。
バルコニーの側の柱に立っている彼を見つけたのはその時だった。小柄な彼はいなくなって、一人で難しげな顔をして立っている。なんだか様子がおかしい。俺はすたすたと彼に歩み寄り、そっと声をかけた。
「こっちに来て」
無表情にもぞもぞしていた男の腕をかるく引いた。
「え、いや……」
「結んであげるよ。解(ほど)けたんだろ?」
「……ああ、ありがとう」
お礼の言葉は日本語だった。
帯を押さえて、すぐ横のバルコニーに連れ出した。
「田中の厚かましさと強引さを分けて欲しいってこと」
からかうように言ったが田中は豪快に笑い、「そうやろ、早瀬はイケメンの割に小心なとこあるもんなー」とあっさり言ってのけた。
やっぱ小心者って思われてるのか。でも田中にはそう言われても怒る気はしなかった。
「あ、彼、知ってる? 背の高い方」
すでに別の場所に移動していたさっきの男を指して訊ねたら、田中は二人の背中を見て「ああ」とうなずいた。
「名前忘れてしもたけど、この前、帰国講演会した奴やろ?」
「…ああ、そっか」
どこかで見た顔だと思ったが、講演会を聞いたんだった。
先々週の研修留学の帰国講演会では髪を上げてかっちりしたスーツ姿だったから、浴衣姿の今とかなり印象が違っていた。
彼はこの国の現状と発展についての考察を述べ、法律の整備と民衆の政治参加の重要性を説いていた。どこか皮肉っぽい笑みを時々浮かべて、質疑応答に応えていた。
あの時はもっと大人っぽいノーブルな雰囲気だったが、浴衣姿のせいか今はそうでもない。
「あれこそイケメンって感じやな。んー、イケメンなんて軽い感じとはちゃうかな。なんて言えばいいんやろな、ああいう男前は」
「男前って言い方いいね。イケメンより硬派な感じ」
田中の言いたいことは分かる。顔立ちの良さはもちろんだが、身にまとう雰囲気が違う。庶民の俺とは関係ない世界の男。
大学の文化祭でもなければ、こんな屋台になんて来ないに違いない。
カキ氷を食べ終わり、田中は手を上げて離れていき、俺はまたぶらぶら回り始めた。盆踊りの歌がまだ聞こえている。この国の人たちに盆踊りの歌はどんなふうに聞こえてるんだろう。
バルコニーの側の柱に立っている彼を見つけたのはその時だった。小柄な彼はいなくなって、一人で難しげな顔をして立っている。なんだか様子がおかしい。俺はすたすたと彼に歩み寄り、そっと声をかけた。
「こっちに来て」
無表情にもぞもぞしていた男の腕をかるく引いた。
「え、いや……」
「結んであげるよ。解(ほど)けたんだろ?」
「……ああ、ありがとう」
お礼の言葉は日本語だった。
帯を押さえて、すぐ横のバルコニーに連れ出した。
6
あなたにおすすめの小説
この胸の高鳴りは・・・
暁エネル
BL
電車に乗りいつも通り大学へと向かう途中 気になる人と出会う男性なのか女性なのかわからないまま 電車を降りその人をなぜか追いかけてしまった 初めての出来事に驚き その人に声をかけ自分のした事に 優しく笑うその人に今まで経験した事のない感情が・・・
僕たち、結婚することになりました
リリーブルー
BL
俺は、なぜか知らないが、会社の後輩(♂)と結婚することになった!
後輩はモテモテな25歳。
俺は37歳。
笑えるBL。ラブコメディ💛
fujossyの結婚テーマコンテスト応募作です。
シスルの花束を
碧月 晶
BL
年下俺様モデル×年上訳あり青年
~人物紹介~
○氷室 三門(ひむろ みかど)
・攻め(主人公)
・23歳、身長178cm
・モデル
・俺様な性格、短気
・訳あって、雨月の所に転がり込んだ
○寒河江 雨月(さがえ うげつ)
・受け
・26歳、身長170cm
・常に無表情で、人形のように顔が整っている
・童顔
※作中に英会話が出てきますが、翻訳アプリで訳したため正しいとは限りません。
※濡れ場があるシーンはタイトルに*マークが付きます。
※基本、三門視点で進みます。
※表紙絵は作者が生成AIで試しに作ってみたものです。
狼騎士と初恋王子
柚杏
BL
Ωのクレエは、狼の獣人であり国の誇り高き騎士レストに暇さえあれば勝負を挑んでいた。
しかし、一度も勝った試しはない。
そのレストから、見合い話が出ていると聞かされたクレエは思わず父の元を訪れる。
クレエはレストが守る国の第二王子で、父はその国の王だった。
αの王族の中で、何故か一人だけΩとして産まれたクレエはその存在を隠されて暮らしていた。
王子と知らずに扱うレストと、その強さに憧れを抱くクレエ。
素直になれないクレエに、第一王子である兄がそっと助言をする。
出来損ないの花嫁は湯の神と熱い恋をする
舞々
BL
凪が生まれ育った湯滝村は、温泉地として栄えた地域だ。凪は湯滝村で一番老舗とされている温泉宿、「椿屋」の一人息子。幼い頃から両親の手伝いをして、椿屋を支えている。そんな湯滝村にある湯花神社には、湯の神「湯玄」が祀られ、村人たちから信仰されてきた。
湯滝村には湯玄に花嫁を捧げるという風習ある。湯玄は花嫁から生気を貰い、湯滝村に温泉をもたらすのだ。凪は自ら志願し、花嫁となって湯滝神社へと出向いたが「子供には用がない」と追い返されてしまった。村に戻った凪は「出来損ないの花嫁」と村人たちから後ろ指をさされ、次第に湯玄を恨むようになる。
凪が十七歳になり、美しい青年へと成長した頃、湯玄より「もう一度凪を花嫁として捧げよ」という申し渡しがあった。しかし凪は、湯玄からの申し渡しを受け入れることができずにいる。そんな凪に痺れを切らした湯玄は、椿屋に押しかけてきてしまったのだった。
湯玄が椿屋に来てからというもの、貧乏神、アカシャグマ、商売繁盛の神に五穀豊穣の神……色々な神が椿屋を訪れるようになる。椿屋を訪れる神々は実に個性豊かで、椿屋は次第に以前のような活気を取り戻していく。
はじめのうちは突然椿屋にやってきた湯玄に反発していた凪。しかし、強引に迫ってくるだけではなく、自分を溺愛してくる湯玄に少しずつ心を許し、二人の距離は次第に縮まっていく。
出来損ないの花嫁凪と、温泉の神湯玄。そして八百万の神々が送る温泉宿物語。
僕がそばにいる理由
腐男子ミルク
BL
佐藤裕貴はΩとして生まれた21歳の男性。αの夫と結婚し、表向きは穏やかな夫婦生活を送っているが、その実態は不完全なものだった。夫は裕貴を愛していると口にしながらも、家事や家庭の負担はすべて裕貴に押し付け、自分は何もしない。それでいて、裕貴が他の誰かと関わることには異常なほど敏感で束縛が激しい。性的な関係もないまま、裕貴は愛情とは何か、本当に満たされるとはどういうことかを見失いつつあった。
そんな中、裕貴の職場に新人看護師・宮野歩夢が配属される。歩夢は裕貴がΩであることを本能的に察しながらも、その事実を意に介さず、ただ一人の人間として接してくれるαだった。歩夢の純粋な優しさと、裕貴をありのまま受け入れる態度に触れた裕貴は、心の奥底にしまい込んでいた孤独と向き合わざるを得なくなる。歩夢と過ごす時間を重ねるうちに、彼の存在が裕貴にとって特別なものとなっていくのを感じていた。
しかし、裕貴は既婚者であり、夫との関係や社会的な立場に縛られている。愛情、義務、そしてΩとしての本能――複雑に絡み合う感情の中で、裕貴は自分にとって「真実の幸せ」とは何なのか、そしてその幸せを追い求める覚悟があるのかを問い始める。
束縛の中で見失っていた自分を取り戻し、裕貴が選び取る未来とは――。
愛と本能、自由と束縛が交錯するオメガバースの物語。
彼の想いはちょっと重い
なかあたま
BL
幼少期、心矢に「結婚してほしい」と告げられた優希は「お前が高校生になっても好きな人がいなかったら、考えてやらなくもない」と返事をした。
数年後、高校生になった心矢は優希へ結婚してほしいと申し出る。しかし、約束をすっかり忘れていた優希は二ヶ月だけ猶予をくれ、と告げる。
健全BL
年下×年上
表紙はhttps://www.pixiv.net/artworks/140379292様からお借りしました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる