人生に疲れて南の島へ

ゆまは なお

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 この国では「できる人がやって当り前」みたいな考え方をするから、車を持っている大倉が誰かを送っていくことはよくあることだった。だから陽斗の態度は、大倉にはとても新鮮に映った。
 久しぶりに日本人の奥ゆかしさに接した気分になったが、もうそろそろ慣れてくれてもいいのにとも思っている。陽斗はそういう性格であけっぴろげに親しくできないと知ってはいるけれど、遠慮がちな態度は距離があるように思えて寂しい。

 車の空気が入れ替わったら車を出した。窓を開けて海風を感じながら海岸沿いの道路を走るのは気持ちがいい。
「ちょっとスーパーで買い物していい?」
 スーパーまで10分ほどの道のりだ。嵐に備えて2、3日は家から出なくてもいいように常に買い置きはしているが、すこし補充しておきたい。

「いいですよ。僕も買い物しなきゃと思ってて」
 陽斗も同じらしい。
 このまま泊まっていくように言おうかな。陽斗の顔を見た瞬間から、大倉の頭の中にはそんな段取りが浮かんでいた。
 どうせ陽斗も仕事は休みだろう。どこかわくわくするような、でもすこし怖いような嵐の夜を一緒に過ごすのもいいよな。

「何を買うつもり? 嵐対策?」
「はい。やっぱりパンとかバナナとか缶詰とか買っておいたほうがいいですよね。この前の嵐の時、冷凍パスタがあるから大丈夫と思ってたんですけど、停電しちゃって食べられなかったんです」
眉を下げて笑う。陽斗は一緒に過ごすことなど、まるで考えていないらしい。

「それは大変だったな。やっぱり心配だから、うちに泊まる?」
「え?」
「陽斗に何かあったら心配だし、嵐の夜は俺と一緒にいたほうが安心だろ?」
 駐車場に車を停めて、大倉は助手席の陽斗に顔を向けた。陽斗は「ええと、あの」と言いながらうっすら頬を赤くして、目線をウロウロさせている。
「ひとりだと何かと不安だし、泊まって欲しいな」
 ちょっと強引に家に誘ったら、陽斗はほんのすこしためらってからうなずいた。

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