人生に疲れて南の島へ

ゆまは なお

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 大倉が陽斗に告白して十日が経つ。
 一緒に映画を見た帰り「つき合って欲しい」と言ったら、陽斗は目を丸くしてあわあわしていた。6歳下の陽斗は本当に素直で、感情がすぐに顔に出る。

「あの、僕とつき合っても、そんな楽しいこととかないと思うんですけど」
 大倉の告白に、陽斗は困惑しきった顔でそんな返事をした。
「大丈夫、楽しいかどうかは俺が決めるよ」
 それを聞いた陽斗は鳩が豆鉄砲を食ったように目を瞬いて、大きな目で大倉を見返した。

「俺は陽斗と話してるの楽しいよ。話していて嫌味がなくて、いい子だなあって思ってる」
 いい子と言われて真っ赤になって、うろたえている陽斗はかわいい。イケメンでも美人でもないが、全体の雰囲気が優しくて人のよさがにじみ出ている。
「男はダメ?」
「いえ、あの、それはないです」

 もしかしてそうかなと予想していたがやはりゲイで、でも誰ともつき合ったことがないと打ち明けられた。
 高校時代に自分の性志向に気づいたが、何事においても平凡で目立つところのない陽斗は積極的に恋人を作ろうと思わなかったらしい。
 大学生になって周囲に流されるように合コンに連れ出されたことはあるものの、女性と恋愛関係になるわけもなく、愛想笑いで何とか乗り切ったと苦笑いした。

「東京ならゲイのコミュニティもたくさんあるだろ? そういう場所には行かなかったの?」
「大学生の時に一度だけ、行ってみたんですけど」
カジュアルな雰囲気のゲイバーに勇気を振り絞って行ってみたら、ガタイがよくて押しの強い男に迫られて怖くなって逃げ出してしまい、それ以来、男性との出会いを求めて行動することができず、誰にもカミングアウトできないままここまで来てしまったと言う。

「だったら俺とつき合おうよ」
 三ヶ月前に知り合って、まじめな人柄と不器用ながら一生懸命に仕事をするところがとても好ましかった。そう思うのは大倉だけではなく、陽斗は職場でもたいそう人気がある。
 日本に比べて奔放なこの国で、あっという間に誰かに告白されてしまうのではと、実はやきもきしていたが、純粋な陽斗には下心ありの連中もなかなか手を出せなかったらしい。
 というよりも、来たばかりの陽斗は言葉や習慣の違いに何かと驚いてばかりで、モーションをかけられてもまるで気がつかなかったのだ。



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