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第8章-1 違和感のなかで

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 そろそろ帰らないと晩ごはんに間に合わない。プレゼントはひとまず保留にした。

 本多のいうとおり、一緒に買いに来るのが正解かもしれない。綾乃は祐樹と出かけるとうれしそうだし、誘ってみよう。そういえば、祐樹から誘ったこともなかったかもしれない。

 祐樹が綾乃とうまくいっているのは、綾乃がのんびりした性格でふたりで過ごしていればそれで満足しているところが大きい。

 手をつないだりふたりきりならキスくらいはするが、誘われるまま一緒に出かけて買い物したりカラオケしたりボーリングしたり、それだけで楽しそうにしているように見える。

 高校生と大学生の生活時間があまり合わなくて、それほど頻繁に会えないというのも大きいかもしれない。

 祐樹の学校は行事が多く、放課後も準備や課外の活動で時間を取られることが多いし、綾乃は綾乃でアルバイトやサークルに部活、友達付き合いにとあれこれ忙しい。

 そういうわけで平日のデートは週に1回くらい、それすら会えないときもある。週末も祐樹の学校は土曜日は半日授業があり、綾乃もどちらかはアルバイトを入れていて毎週末会えるわけではない。

 そんな日常のなか、祐樹くんに会うとかわいくて癒されるなあというところからしても、男として期待されているとは思えない。もしかしたら、高1という祐樹の年齢に遠慮しているのかもしれない。

 なにかと祐樹の恋愛の進展具合を聞きにくる河野には、お前らふたりって恋愛ごっこだなと言われる始末だ。中学生の仲良しカップルみたいだということらしい。

 綾乃がそれでいいのなら祐樹には不満はない。血気盛んな河野からみれば、祐樹ののんびりさ加減というか、欲のなさは信じられないらしい。

 近くの女子高に彼女を作った河野は、少なくとも週に2,3回は会っているし、週末もほぼ一緒のようだ。すでにキスはしていて、クリスマスが次に進むタイミングかななどと鼻息荒く計画を練っている。

 「欲望あらわ」に迫ったらダメなんてどの口が言うんだ、と祐樹がからかうと、目のまえに彼女がいたらやっぱ無理、などと開き直っていた。

 それでも彼女のまえでは必死に取り繕って、涼しい顔をしていろいろと我慢しているらしいのが健気といえば健気だ。

 クリスマスは結局、綾乃の友達を含めたクリスマスパーティに参加した。

 パーティに行くまえにふたりで買い物に行って、綾乃と一緒にピアスを選んだ。綾乃は祐樹に財布をプレゼントしてくれた。

 サークルのメンバー中心に40人ほどでイタリアンレストランを貸し切ってのパーティで、海水浴のときのメンバーもいたのでそれほど緊張はしなかったが、大学生メインのパーティはやはり気疲れする。

 大澤や顔見知りのメンバーが話しかけてくれたり、綾乃もなるべく一緒にいてくれて、それなりに楽しかったがそれでも疲れた。

 ふたりきりのクリスマスとどっちが気疲れしただろうとなにげなく考えて、祐樹ははっとした。じぶんは綾乃とふたりだと疲れるのかと虚をつかれた気分で、そんなことを思うじぶんに戸惑った。

 綾乃はかわいいしやさしいし、好きだと思っている。それなのに、なぜそんなふうに思うのだろう。

 初めての彼女という特別な存在は素直にうれしかったのに、いつの間にそんなふうに思うようになったのだろう。

 綾乃の笑顔はかわいい。それが見たくて祐樹は、綾乃の誘いはできるだけ断らないようにしてきた。学校行事やテストなどどうしても無理なときは仕方ないが、それ以外は綾乃を優先させてきた。

 綾乃のほうも祐樹がこまるようなわがままや無理難題を言ったことはなく、半年近く、ケンカらしいケンカもしないまま過ごしてきたのだ。
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