魔族の寵愛

ゆまは なお

文字の大きさ
2 / 4

2

しおりを挟む

 ラファエルが魔族に体を差しだすのは、4歳上の兄のためだった。

 兄はある日突然、謎の湿疹が全身に現れ、徐々に全身の力が入らなくなるという原因不明の病に侵された。

 両親は跡取り息子の発病にたいそう嘆き悲しんだ。領主の息子の病に高名な医術師や呪術師がやってきたが、治療の甲斐なく病は徐々に進行し、半年前には寝たきりになってしまった。


 ラファエルは兄の回復を祈るため、毎日学校帰りに教会に通った。
 まだ16歳の少年には、そのくらいしか兄のためにできることがなかったからだ。

 ある冬の夕刻、熱心に祈りを捧げた後、薄闇のなか帰宅を急ぐラファエルに、魔族はあまく低い声で誘いを掛けてきた。

「お前の生気を分けてくれるなら、兄を助けてやろう」

 紅い瞳に黒髪の美しい魔族は、この世の物とは思えないほどの禍々しさで笑いながらそう誘ったのだ。

 この者の言葉に耳を貸してはいけない。

 そのくらいのことはラファエルも承知していたが、両親の嘆きや兄の辛そうな顔が思い出されて、つい足を止めてしまった。

「兄はもう3ヵ月も寝たきりなのです。本当に助けられますか?」
「ああ。我に不可能なことなどない」



 天使よりも悪魔のほうがきっと美しい生き物だ。

 彼に出会って、ラファエルはそう思うようになった。そうでなければ、魔族の手に堕ちる人間がこんなにも多いわけがない。

 いまだに名前も知らないが、彼は律義に週に数回、屋敷へやってきてラファエルを抱く。

 どんな術が施されるのか、その間、ラファエルがどんなに泣いても叫んでも、絶対に誰も部屋にはやって来ない。
隣りの部屋に控えているはずの、ラファエル付きのメイドはもちろん、屋敷の警備に立っているはずの夜警でさえも。

 きっとこのまま、魔族が飽きてしまうまで体を貪られるのだろう。

 あるいは魂まで食われてしまうのかもしれない。

 そう考えると、ラファエルは絶望的な気持ちになる。
 こんなことがいつまで続くのだろうと考えて不安になる夜もある。

 あるいは時おり、怖くなることもある。
 怖いのは魔族と取引きしたことではない。

 ラファエルが怖いのは、自分が自分を保っていられるのかということだった。このまま魔族に取りこまれて、自分も魔族になってしまうんだろうか?

 魔族の淫らな性はまだ16歳のラファエルには想像もできなかったほどの淫蕩ぶりで、彼に抱かれている間、あまりの快楽に意識を失うこともたびたびだった。


 けれども、兄は確かに元気になりつつある。
 それだけが救いだった。

 最近は食事も軟らかく煮たスープやパンなら食べるし、起き上がって座ることもできるようになった。自分が魔族に従っている限り、このまま回復するのだろう。

 跡取りである兄が元気になれば、それは本当に嬉しく、両親のためにもそして領民のためにも安心できることだ…。

その思いだけで、ラファエルは今の状況に耐えているのだった。


「あ、あぁ、もう、許して…」

 泣きながら懇願しても魔族は楽しげな笑みを見せるだけで、ラファエルのお願いなど当然聞いてはくれない。

「どうした?」
「熱い…。おかし、く、なる…」

 体の奥が疼いて、魔族を欲しがっているのがわかる。

 自分がこんなに淫らだなんて信じたくない。
 でもこの熱を放出したくて、自然に体は揺れ、愛撫をねだる。

 あさましくてそんな自分は嫌なのに、どうしても抑えられない。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。抱かれたら身代わりがばれてしまうので初夜は断固拒否します!

雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
隣国の国王キリアン(アルファ)に嫁がされたオメガの王子リュカ。 しかし実は、結婚から逃げ出した双子の弟セラの身代わりなのです… 本当の花嫁じゃないとばれたら大変! だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、 だんだんキリアンに惹かれてしまい、苦しくなる…という お話です。よろしくお願いします<(_ _)>

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

従僕に溺愛されて逃げられない

大の字だい
BL
〈従僕攻め×強気受け〉のラブコメ主従BL! 俺様気質で傲慢、まるで王様のような大学生・煌。 その傍らには、当然のようにリンがいる。 荷物を持ち、帰り道を誘導し、誰より自然に世話を焼く姿は、周囲から「犬みたい」と呼ばれるほど。 高校卒業間近に受けた突然の告白を、煌は「犬として立派になれば考える」とはぐらかした。 けれど大学に進学しても、リンは変わらず隣にいる。 当たり前の存在だったはずなのに、最近どうも心臓がおかしい。 居なくなると落ち着かない自分が、どうしても許せない。 さらに現れた上級生の熱烈なアプローチに、リンの嫉妬は抑えきれず――。 主従なのか、恋人なのか。 境界を越えたその先で、煌は思い知らされる。 従僕の溺愛からは、絶対に逃げられない。

オメガ修道院〜破戒の繁殖城〜

トマトふぁ之助
BL
 某国の最北端に位置する陸の孤島、エゼキエラ修道院。  そこは迫害を受けやすいオメガ性を持つ修道士を保護するための施設であった。修道士たちは互いに助け合いながら厳しい冬越えを行っていたが、ある夜の訪問者によってその平穏な生活は終焉を迎える。  聖なる家で嬲られる哀れな修道士たち。アルファ性の兵士のみで構成された王家の私設部隊が逃げ場のない極寒の城を蹂躙し尽くしていく。その裏に棲まうものの正体とは。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

神父様に捧げるセレナーデ

石月煤子
BL
「ところで、そろそろ厳重に閉じられたその足を開いてくれるか」 「足を開くのですか?」 「股開かないと始められないだろうが」 「そ、そうですね、その通りです」 「魔物狩りの報酬はお前自身、そうだろう?」 「…………」 ■俺様最強旅人×健気美人♂神父■

彼は罰ゲームでおれと付き合った

和泉奏
BL
「全部嘘だったなんて、知りたくなかった」

処理中です...