金の香種と黒の貴種 異世界中華オメガバース

ゆまは なお

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塔麗国の金の双子1

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 ヒュー―――ルルル―――――、ヒュールルルル―――――。
 鳥の高い鳴き声が山奥の深い谷に響き渡った。
 ヒュー―――――ルルル―――――、ヒューーールルルル―――――。
 反響と余韻を重ねながら、緑の木々の上を鮮やかな青い鳥が飛んでいた。いくつもの山が連なり、深い谷や小さな滝が点在する美しい風景の中を降下していく。
 それぞれの山頂には塔麗国とうれいこくの名の由来にもなった白い尖塔がいくつも並んでいた。
 渓谷の合間をぬって飛ぶ青い鳥が目指すのは、谷間の奥、朱塗りの大門の先にある建物だ。赤土の瑠璃瓦が美しい建物の扉には飛翔する青龍が刻されており、扁額には大らかな書体で翡翠宮とある。
 ここは塔麗国、王都、承環しょうかんの王宮だ。

 鳥は澄んだ鳴き声を響かせながら建物のほうへと降りて行った。中庭を囲んで四つの建物が建っている。
 その庭園の梅の木に青い鳥は舞い降りた。満開の梅の花があたり一面にいい香りを漂わせ、小柄な青年が木のそばに立って香りを楽しんでいた。
 背中まで伸ばした金の髪を軽く結い上げ、金の髪飾りが青年の存在感を際立たせるように初春の陽光を弾いて輝き、明るい緑の瞳は生き生きとした光を放っている。
 整った顔立ちは少女にも見えるが服装は男子のものだ。立襟の濃紺の短袍には見事な刺繍が施され、縫いつけられた宝玉が彼の身分の高さを示している。ゆったり幅をとった長跨ちょうこ(長ズボン)は膝から下が絞られて、騎馬用の革の長靴を履いていた。
 腰には剣を下げているが、しばしば妖魔に襲撃される塔麗国ではこれは普通のことだ。

 目の前の白梅の枝に止まった青い鳥を見て、青年はにこりと笑った。
「戻ってきたのか、いい子だね」
 青い鳥は首を傾げて、つぶらな黒い目で主人を見つめて甘えるようにキュルキュルと鳴いた。
「何か変わったことはあった?」
 青年が手のひらに乗せた小さな水晶の粒を与えると、鳥はひと声鳴いて嘴でちょいとついばんだ。そして水晶を食べ終えると、驚いたことに人の言葉を話し始めた。聞いた言葉を再生しているかのように、少女の声で滑らかに言葉を語っていく。
 この鳥は普通の鳥ではない。魔の樹海に棲む妖鳥だ。
 青鳥せいちょうと呼ばれており、目的の人物の匂いを覚えて居場所を探して飛ぶことができるため貴人の伝令として使われる。

 青年は黙って青鳥の言葉を聞いていたが、だんだんおもしろそうな表情になっていった。最後まで聞き終えると口元に微笑を浮かべてつぶやいた。
「ふーん、おもしろいことになったな。この塔麗国を目指すとはね」

飛煌フェイファン、青鳥が帰ってきたの? どこの綿毛から?」
 建物の中から少女が出てきた。立襟の上衣に青の帯を締め、くん(スカート)の裾には大輪の牡丹の刺繍が刺してある。
 少女は庭に面した回廊で立ち止まり、ふりそそぐ陽射しに目を細めた。その顔は庭で青鳥の背を撫でている青年とそっくり同じだった。少女のほうは編んだ髪を複雑に結い上げて、翡翠玉が連なった簪を挿している。
 輝く金の髪に明るい緑の瞳をもつ二人は、双子の姉弟だった。

「ソブラリアにいる綿毛からの報告だ」
 飛煌は青鳥を撫でながら返事をした。
「ソブラリア? 大陸中央部にある大国ね」
「うん。翠耀ツイヤオ、どうやらブラッシア王は我が国に興味を持ったらしいよ」
「あら。それはそれは。戦でも仕掛けて来るの?」
 翠耀ツイヤオはかわいらしく小首を傾げた。戦好きのブラッシア王のことはたまに話題になる。
「いや。国交を開くための使者として第二王子を派遣するんだって」
「第二王子をうちに? 彼は王位継承者ではないの? 君主制の国では第二王子くらいまでは大事にされるんじゃなかった?」
 国王が絶対的な権力を持つ国家では、第二王子は皇太子に何かあった時の代用として育つものだ。だから国を離れることはないと翠耀は聞いている。

「そうだけど、この王子様はソブラリア貴族の血筋じゃないから王宮では居場所がないらしい」
「じゃあ、母親は誰なの?」
「さあ? でも貴族の後見人がいないから使者に選ばれたんだろ。ここまで来るには魔の樹海を越えなきゃならないんだからな」
 魔の樹海はその名の通り、妖魔がうろつく危険な森で人は容易には立ち入れない。使者として第二王子が来たとしても、妖魔に食われて翡翠宮まではたどり着けないだろう。
「あらまあ、それはお気の毒に」
 これっぽっちも気持ちのこもらない翠耀ツイヤオの言葉に、飛煌フェイファンはくすりと笑った。

 翠耀ツイヤオは手を伸ばして青鳥を撫でる。鳥は頭を振ってキュルキュル鳴いた。
「王子なのに戦場にも出なくて王宮では役立たずと陰口を叩かれてるってさ」
貴種きしゅ(アルファ)男子至上主義らしい考え方だわ。てことは、第二王子は貴種ではないのね?」
「いや、それが意外なんだけど貴種だって」
「あら、それなのに国を出されるの?」
「王子に何か問題があるのかもしれないな」
「問題ありの貴種の王子様ねえ」
 翠耀ツイヤオは可愛らしく首をかしげた。
「どうしたの? 興味ある?」
「そりゃ少しはね。異国の貴種に会ったことがないんだもの。異国人でも貴種だったら惹かれるものかしら?」
「どうだろうな。おれも異国の貴種に会ったことはないから何とも言えないな」
 香種こうしゅ(オメガ)の二人はそっくりな仕草で顔を見合わせた。

 この世界には男女の性別とは別に、香種と貴種という特別な種がまれに存在する。
 香種は幼少期から優美な外見をしており、手先が器用でたいてい体が弱い。そのため幼いうちに命を落とすことが多く、成長する数が非常に少ない。
 特徴的なのは成人する頃から発香はっこうと呼ぶ現象が現れることだ。ふた月に一度、満月の時期に発熱し、体から花のようなあまい香り、香気こうき(フェロモン)を放つ。そして男女ともに子を生むことができる特別な種だ。
 
 そして不思議なことに万人が香気に気づくわけではない。ごく少数の者だけが香気を感知することができる。それが貴種だ。
 貴種の多くは立派な体格を持ち、頭脳明晰で武力に優れている。妖魔の襲撃が多い塔麗国では、護衛はほぼ貴種で固められていると言っていい。
 貴種は通常では自分が貴種だとは気づかない。香種の香気に反応して初めて、己が貴種だと知ることになる。つまり発香を通じて香種と貴種は互いを認識し、強く惹かれあうのだ。

「さて、彼は魔の樹海を越えられるかな」
「無理でしょう。樹海の妖魔には大陸の騎士団では太刀打ちできないもの」
 翠耀ツイヤオはあっさり断じた。
「もしかしたら来るかもしれないよ。樹海入りするなら護衛も雇うだろ」
「そのあたりの護衛をいくら雇っても意味がないわ。巫術ふじゅつを使えない騎士じゃ妖魔に勝てっこない」
「確かに。じゃあ、王子が保鏢バオビャオを雇ったら?」
「そんな簡単に保鏢に会えるはずないでしょ」
 保鏢とは特に巫術と剣術に優れた能力を持つ特別な護衛の名称だ。
「それにソブラリア人を護衛するもの好きな保鏢なんていないと思うわ」
「そうだな。この翡翠宮までやってきた異国の使者はこれまでいないしな」
 二人は王子が来るか来ないか、言葉遊びのように予想する。


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