金の香種と黒の貴種 異世界中華オメガバース

ゆまは なお

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香種上位の国5

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「ノアは両国が交流して、いい関係が築けると思うか?」
「そうなればいいと思う。こうして一緒にお茶を飲んで、食べ物や考え方の違いを知って驚くのも楽しいし」
 と口に出して初めて、ペルルノアは自分が飛煌フェイファンとの時間を楽しく思っていることを自覚した。その途端、急にむず痒いような気持ちが湧いてきて、とっさに口を閉ざした。
「楽しいし、なに?」
 突然黙ったペルルノアに、飛煌フェイファンは首をかしげて続きを促がす。
 これ言ってもいいのか? 一瞬迷ったものの、続きを待っている飛煌の視線に抗えず、口からするりと言葉が出ていた。
「もっとフェイファンのことを知りたいとも思う」
 飛煌はあっけに取られた顔をして「何だそれ」とつぶやき、不意に顔を赤くした。

「おれのことを知っても仕方ないだろ」
 そっぽを向いて茶杯を手に取り、ごくりと茶を飲んでいる。
  ペルルノアもおかしなことを言ってしまったと耳が熱かった。使者として来ているから個人的な関係を望んでも仕方ないのに。
 しばらくもぞもぞした空気が流れたが、やがて飛煌フェイファンが顔を戻した。
「そうだな。仕事が済んだら王宮まで送ってやってもいい」
 相変わらず偉そうな口ぶりだが照れ隠しだとわかって、ペルルノアはにやけそうになる。そんな顔を見せたら怒るだろうと予想できて何とか表情を繕った。

「本当か? 助かるよ」
「ま、ここからなら三日くらいで着くし」
 それを聞いてウーヤンのことを思い出して気を引き締めた。今のところ飛煌フェイファンは親切だし助けてもらって感謝しているが、彼を信じていいのかよくわからない。
 飛煌フェイファンはペルルノアを「身分が高いんだろうと思った」と言ったが、それを言うなら飛煌こそ身分がありそうだ。人に命じることに慣れた態度だし、動作にも品の良さがある。本人は巫術師と言うが、出身は貴族かもしれない。
「フェイファンは貴族なのか?」
「どうしてそう思う?」
 質問に答えず質問で返してくる。当たりだったか?

「態度や口調から見て上位の者にしか見えないが」
「まあね。庶民じゃないよ。貴族でもないけど」
 貴族じゃない特権階級が存在するのか。あるいは巫術師が特別な存在なのか?
「そうか。巫術師って多いのか?」
「それほど多くない。だから国中を回るので忙しい」
「なるほど」
 それなら何カ所も隠れ家を持っていることも納得できる。

 飛煌フェイファンは昨日「おれのほうが強い」と言った。それはないだろうと思ったが、今日の妖魔との戦闘を見る限り確かに強い。
 体格差があるから一対一の剣術勝負で負けるとは思わないが、飛煌が巫術の力でペルルノアを殺そうと思えば可能かもしれない。
 しかしここでペルルノアを殺す理由はないだろう。
 少なくとも敵ではない。だが味方とも言い切れない、今のところは。ペルルノアはそう結論付けた。
 身分を明らかにしたことはよかったのか? 飛煌フェイファンが裏切る可能性もあるか?
 答えがわからないまま、あまい茶を飲んだ。

 その後も樹海を回って、夕刻前には洞窟へ戻ってきた。
 夕食用に狩った鳥に手持ちの塩とハーブをすりこんだ。鳥を狩って血抜きして羽をむしったのはペルルノアだ。昨日から世話になってばかりなので、せめてもの礼のつもりだった。
「その鳥はすばしこいので有名なのによく三羽も獲れたな」
「弓は得意なんだ」
香りのいい木の葉に包んで炭火の下に埋める。こうすると直火で炙るより早く火が通って焦げ付かないのだ。それを見ていた飛煌フェイファンがからかうように言った。
「ソブラリアの王子様は手際がいいな。戦場で覚えたのか?」
「いや。普段から狩りはしていた」
 ペルルノアは淡々と答えた。ソブラリアでの立場や生活について飛煌フェイファンに話す気はない。祖国では役立たずで居場所がなかった自分の話を聞いても仕方ないだろうと思う。

 おまけに使者としてトウレイ国に遣わされたのに、使節団も騎士団も全滅して、王宮にたどり着いてもいない。父が聞いたら何というだろう。
 きっと怒り心頭だよな。トウレイ国派遣については大臣たちも寝耳に水だったらしくあの発表の後、議会で論争になったらしい。
 はるか遠い幻のトウレイ国と国交を開いてどんな利益があるのかと。噂に過ぎないトウレイ国との国交について、みんな現実的ではないと思っていた。
 父は大臣たちにも目的を伏せていたのだ。本当にそんな薬や毒が存在するのか? あったとして父の目論見通りにいくか? 
 何しろ香種上位の国だ。父の予想通りに計画が進むとは思えない。この先、どうしたものか……。

「いい匂いがするな」
 飛煌フェイファンの声でペルルノアはハッとして顔を上げた。
「ああ、そろそろいいかな」
 取り出した鳥はちょうどよく焼けていた。骨から肉を外している間に飛煌フェイファン焼餅シャオビンを炙ってくれて、夕食にする。
 空が茜色に染まって、昨日と同じように巣に帰る鳥が空を飛んでいる。平和な風景だ。
 鳥肉を食べた飛煌がぺろりと唇をなめた。
「これは何を塗ったんだ? 薬草だよな?」
「ああ。薬草の一種といっていい。塩とハーブを混ぜた調味料だ。騎士団の行軍の時にはそのスパイスを持ち歩くんだ」
「すごく香りがいい。肉がうまくなってる」
 セージやローズマリーやバジルなど数種のハーブが入ったもので、肉や魚にかけてもスープにしてもうまい。

「気に入ったのか? 馬車に種が積んであったはずだ」
「そうか。じゃあ取りに行こうかな」
 ペルルノアは目を丸くした。昨日の装飾品には興味を持たなかったのに、ハーブの種は欲しがるのか? 飛煌フェイファンの価値観がよくわからない。
「フェイファンは種が欲しいのか?」
「ああ。新しい植物は薬師が喜ぶからな。こんな香りの薬草は塔麗国にはないし」
 薬師と聞いて納得する。
「ソブラリアでも頭痛や不眠時にハーブのお茶を飲む人がいたが多くはなかった。トウレイ人は薬草が身近なんだな」
「山に色々生えてるからだろ。昔から薬草の研究が盛んだった」
 トウレイ人はやはり薬の調合に長けているのだ。ペルルノアは慎重に次の質問をする。

「だったら、例えば長生きの薬とか、あるいは人を殺すような薬草もあるのか?」
「もちろんあるよ」
 飛煌は平然と答えて、緑の目をきらりと光らせた。
「ノアはそういうのが欲しいのか?」
「いや、いらない。だが噂で聞いた。トウレイ人は誰にも知られず確実に殺せる薬を持っていると」
「だけど、そのくらいどこの国にもあるだろ」
 飛煌フェイファンの口ぶりはあっさりしていた。巫術という不思議な術を身に着けている飛煌にとって、そんな薬はたいした価値を持たないのかもしれない。

「ソブラリアの薬師や魔術師だってそんな薬の一つや二つ、開発してるだろ」
 確かにそうだ。どの国にも秘術や秘薬があって、真偽が知れない薬は数多い。しかし父はその中でもトウレイ国の秘薬に特に興味を抱いている。
「多分な。完成してるかどうか俺は知らないが」
「紛争を抱えてるソブラリアでは需要があるだろうけど、塔麗国じゃそんな薬、あまり価値がないと思う」
 飛煌フェイファンはのんびりと焼餅をかじり、肉を口に放りこんだ。
 ソブラリアの名が出たのでペルルノアは用心した。ソブラリアの王子だと知られているのだ。疑いを招くような言動はできない。その後は話題を変えて、穏やかに食事を終えた。
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