金の香種と黒の貴種 異世界中華オメガバース

ゆまは なお

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貧乏王子の派遣1

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 広い庭園のあずまやで、ペルルノアはかしこまって椅子に掛けていた。目の前にはソブラリア国王ブラッシア二世が庭園の景色に目を向けている。
 冬の終わりの庭は陽射しがぽかぽかとさしているが、対面する親子の雰囲気はいつも通りひんやりとしていた。
「知っているか、ペルルノアよ。トウレイ国はこのビフレナリア大陸の中で唯一、オメガが治める国だ」
「はい」
「しかも現在は女王が王位にいるそうだ」
「オメガの女王が治めているのですか?」
 虚弱なオメガが王位に就く? しかも女王? このソブラリア王国では考えられないことだった。

「ああ。かの国は大陸の東の果て、魔の樹海の先にある。魔の樹海の話は知っているか?」
「噂では恐ろしい魔獣が森をうろつき、怪しい魔術を使う部族が住むとか」
 父がそんな話を信じているとは思えないがペルルノアはそう答えた。
「そうだ。その危険な樹海を越えねばトウレイ国へはたどり着けぬと聞く」
 そこまで言って、ブラッシア二世はペルルノアに目を移した。
 鋭い目つきにペルルノアは身を固くした。

 父は歴戦の武人らしくがっしりした体格にくっきりした目鼻立ちをしている。豊かな黒髪と深い黒い目がさらにその印象を強めていた。
 王位を継いで以来、周辺国と領土争いが続く中、多くの争いをくぐり抜けて来た。勝者だけが身にまとう気迫が全身からにじみ出て、その迫力にペルルノアは息をするのも苦しい気がするほどだ。
「一体どのような国であろうな。オメガの女王が治める国とは」
 ブラッシア二世は右手で立派な鬚を撫でながら思案気につぶやく。黒い目は鋭い光を宿して、遠い幻の国を見通すかのようだ。
 父に対峙しているペルルノアは黒髪黒目の二十歳の青年だ。立派な体格が多いソブラリア男性としては細身で、優しげな容姿は母から受け継いだものだ。
 すっと通った鼻筋にアーモンド形の目で、笑顔を浮かべたら若い娘がぽうっとなりそうなやわらかい雰囲気があった。王侯貴族の習慣で背中まで伸ばした髪を後ろで軽く束ねている。

 二人の間を風が吹き抜け、ブラッシア二世のマントが揺れた。
「お前は興味をひかれないか、トウレイ国に」
「興味、ですか?」
 ペルルノアはすこし首を傾げて考えた。
 この会話は単なる雑談ではない。こんな見晴らしのいい庭園に呼び出されたのがその証拠だ。つまりこれは人に聞かれたくない話らしい。
「正直に申し上げれば、考えたことがありません。トウレイ国は噂だけの幻の国ですし、オメガが治める国はこの周辺にはありませんからどのような国なのか想像もつきません」
 本当のことだった。東の樹海の果てにこの世で唯一オメガが統治する国があるという噂は知っている。だがそのトウレイ国と交流を持つ国はこのビフレナリア大陸にはない。
「幻の国か」
 ブラッシア二世はしばらく黙りこんだ。

 ペルルノアは背筋を伸ばして座っている。
 この話は一体、どういう意味を持つのだろう。忙しい王がわざわざ自分を誘ってこんな話をするのには理由があるに違いない。でもそれが何なのか見当がつかなかった。
「先日、捕らえたカランセ王国の貴族の屋敷にオメガの女がいたのだが」
 唐突に変わった話題にペルルノアは黙ってうなずいた。カランセは先月まで小競り合いをしていた隣国だ。
「その女がトウレイ人だったらしい」
 ペルルノアは驚きに目をみはった。
「だが逃げられたそうだ」
 続いた言葉にはさらに驚愕した。
「逃げた? オメガが?」

 この世には男女の性別とは別に、アルファとオメガという希少種が存在する。
 オメガは優美な外見だが虚弱なため成人する数がとても少ない。特徴的なのは成人する頃から発情期が訪れることだ。ふた月に一度、満月の時期に発熱し体からフェロモンを放つ。
 そしてごく少数の者だけがそのフェロモンを感知する。それがアルファだ。アルファは頭脳明晰で武力に優れ、圧倒的に支配階級に存在する。
 オメガは男女に関係なく妊娠でき、かなりの高確率でアルファを生む。そのため結婚相手にオメガを欲しがるアルファは多く、富裕層に嫁いで裕福に暮らせるから捕虜になっても逃げることはまずないのだ。
「ああ。オメガとわかって保護していたが忽然と姿を消したそうだ。どうやって逃亡したのかわからないと騎士団長も首を傾げていた。トウレイ人が魔術を使うという噂は本当らしいな」
「トウレイ人は魔術使いなのですか」
「ああ。お前にはそれが事実かどうか確かめてきてもらいたい」
「確かめてくる?」
 訝し気に問い返したペルルノアにブラッシア二世は軽くうなずいた。

「それにトウレイ国では不老不死の薬や証拠を残さず人を殺せる毒があるそうだ。その薬や毒の存在を確認し、本当にあるのなら現物を手に入れてくれ。作成方法がわかればもっとよい」
「承知しました」
 難しい任務だがペルルノアはうなずいた。王命に対して否と言うことは許されない。武力で他国を叩きのめしてきた父がそんな物を欲しがるのは意外だったが、存在を確認しておきたいというのは理解できる。
「それから何より大事な点がある。よく聞け」
 黒光りするブラッシア二世の眼がぎろりとペルルノアを捉えて、ペルルノアは背筋が凍える心地で父を見返した。
「トウレイ国はオメガの女王が治めている。お前は女王と親しくなって、王宮に出入りできる地位を得よ」
「いま何とおっしゃいました?」
 黙って聞いていたペルルノアは思わず問い返した。
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