金の香種と黒の貴種 異世界中華オメガバース

ゆまは なお

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貧乏王子の派遣2

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「オメガの女王だ、発情期にはアルファを求めるだろう。女王がいくつかわからぬが、まだ若いという噂だ」
 ペルルノアは黙って父の目を見返した。本気なのか?
「お前の外見ならたいていの女性は好意を持つだろう。アルファらしく振る舞って、女王に気に入られるのだ」
「しかし、すでに結婚されているのでは?」
 番のアルファがいてペルルノアには目もくれない可能性が高いし、結婚後のオメガは人前には出てこないものだ。
「その場合は諦めて王族のオメガを探せ。可能な状況なら妊娠させて子を生ませよ」
 成功すればソブラリア王家の血を引く子供が生まれるが、ずいぶんと乱暴な策だ。
「そんなにうまくいくでしょうか?」
 さすがに無茶だろうとペルルノアは眉をひそめた。
 正式に婚約を申し入れるならまだしも、一国の王家に対してそんな策が通用するのか? それともオメガの国なら可能だろうか?

「その時はその時だ。まずは国交を開くために、王子ペルルノアをトウレイ国へ滞在させて欲しい旨の書簡を宰相には渡しておく」
 その滞在期間に女王と親しくなり、発情期を過ごす仲になれ、それが無理なら王族のオメガを探せというのだ。こちらのほうが真の狙いなのか? 子供ができればトウレイ国王家の中に堂々と入っていける。
 遠いトウレイ国と国交を開くよりはるかに手っ取り早い。そのためにアルファの自分を送るのだと思えば納得がいく。
「ペルルノア、これはあくまで水面下の策だ。正式に国交のない国に婚約の申し入れもできぬ。かといって、これから国交を開いて婚約の申し入れをするとなれば何年先になるかわからぬ」
 だからペルルノアの胸の内にしまっておいて、実行可能であればやるようにというのだ。
「お前にはアルファの王子として期待している」
 底知れぬ光を宿した黒い目でペルルノアを見つめ、ブラッシア二世は微かに笑みを浮かべた。ペルルノアは息詰まるような緊張を覚えて、その視線を受け止めた。

「それから今夜の戦勝会には出席するように」
「はい」
 体を固くする息子を一瞥して、王は席を立った。話はこれで終わりらしい。ペルルノアは手を胸の前に当てて大きな背中を見送った。
 取り残されたあずまやで、立ったまま考える。オメガの女王だからアルファの自分を選んだのだろうが、こんな大雑把な策が通るのか?
 いや、女王との関係はひとまず水面下でいい、まずはトウレイ国にたどり着いて滞在を許可されるのが先だ。魔の樹海を越えることができるのか?
「ペルルノア様、どうされました?」
「セルリアか」
 突っ立って考えこんでいるペルルノアに声を掛けてきたのは従者のセルリアだ。ソブラリア人らしく立派な体格に端正な顔立ちの二十七歳の騎士で、こげ茶の髪に青い目をしている。

「陛下のお話は何だったんですか?」
 滅多にない王からの呼び出しに心配そうな顔をしている。ペルルノアは今聞いたことをすべてセルリアに伝えた。
「本気ですか? あの幻の国へ派遣? しかも女王と親しくなれ?」
 目を丸くしたセルリアは大きくため息をついて「無茶ぶりが過ぎますね」とひと言いった。
「俺もそう思う」
「ジェルナ国がこのやり方で国を奪ったからでしょうか?」
「そうかもな」
 この方法を実行して成功した国がある。表向きは王族の交換留学という形を取って、まだ若い王女を誘惑して子を孕ませ、王家に食い込んで次世代で国を乗っ取ったのだ。
「同行者はどなたです?」
「まだ知らない。宰相が選ぶだろ。使節団を編成するって言うし」

 ペルルノアの生活状況をよく知っているセルリアは目を伏せた。親族のいないペルルノアは王宮に住んでいても孤児のようなものだった。
「王宮にいてさえ暗殺が心配なのに、そんな旅ではいつ殺されるかわかりませんよ」
「そんな心配はいらない。王の使者を勝手に殺すわけにはいかないだろ。国を出るなら逆に安全だ」
 ペルルノアはセルリアを促がして歩き始めた。庭園を横切り、いちばん山の方にある自分の宮へと歩きながら、さっきの話を思い返した。
 セルリアはしばらく黙って隣を歩いていたが、ふと口を開いた。
「ペルルノア様、本気でトウレイ国にたどり着けると思いますか?」
「どうかな。幻の国だから何とも」
「うちの領地にはトウレイ国に行って来たという商人もまれに来ます」
 セルリアがいう「うちの領地」とは彼の出身領地、ハベナリアのことだ。ハベナリアはいちばん東の領地で、魔の樹海と接している。

「へえ。魔の樹海ってどんな場所なんだ?」
「恐ろしい魑魅魍魎が棲み、騎士でもあっという間に餌食になるそうです」
「そうか。心配してくれてありがとう」
「何をのんきなことを」
「大丈夫だよ。いいかげん、俺も役割を果たさないとな」
 王子として育って成人したのにいつまでも何の責任もなくふらふらしているわけにはいかない。王宮で暗殺ごっこをするのも飽きていた。
「だからってトウレイ国は簡単にたどり着ける場所じゃありませんよ」
「そうだな。セルリア、お前は残ってくれるか?」
「は? 何を言うんです。私しか従者がいないのに来るなとは何事ですか?」
「でも護衛がいなくなるとリーノ達が不安だろ?」
 ペルルノアの宮は母の時代から仕えている者ばかりで年齢も高いし、危険な旅に同行させるわけにはいかない。そうなると、ここに残していくしかない。
 しかしそれを聞いたセルリアは「何言ってるんですか」と一蹴した。
「みんなしっかりしていますよ。宮の者たちには出発までに新しい勤め先を手配しますから大丈夫です。だから私を置いていくなんてバカなことは考えないでくださいね」
 セルリアはしっかり念を押した。
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