金の香種と黒の貴種 異世界中華オメガバース

ゆまは なお

文字の大きさ
11 / 46

貧乏王子の派遣3

しおりを挟む
 ビフレナリア大陸を代表する大国ソブラリアの第二王子でありながら爵位も領地も持たないペルルノアは、王子なら所属するはずの騎士団にも入っていない。当然、戦場に出たこともないため、戦の功績を称える戦勝会は肩身が狭いだけだ。
 女官のリーノが正装用に髪を結い上げるのに任せて、ペルルノアはため息を殺した。
「本当に素敵ですわ」
 頭に白いものが混じるリーノはソブラリア人ではない。元々はペルルノアの母のエレナ姫の乳母で、彼女が輿入れするときに祖国ディサからソブラリアに従ってきた。
 十年前にエレナ姫が亡くなった後もそのままペルルノアに仕えている。いつも柔和な笑顔で多少の事には動じない頼りになる女官だった。

「すっかり大人におなりですね」
 成人済みの肩飾りをつけたペルルノアを感慨深そうに見上げている。
「エレナ様が生きていらっしゃれば、さぞ喜んだことでしょう」
 ペルルノアは黙って微笑んだ。
「では、いってらっしゃいませ」
 向かった大広間は人であふれていた。誇らしげにしているのは騎士たちで、その従者や各地の領主たちも笑顔で挨拶を交わしている。
 貴族が集まる場は苦手だ。元々好きではなかったが、十七歳のペルルノアにアルファの判定が出た途端、周囲の態度はあからさまに変化した。

 それまで貧乏王子と呼んで見向きもしなかった貴族たちがペルルノアにすり寄って友誼を結ぼうとする姿は、滑稽を通り越して不気味ですらある。
 ペルルノアはすべての茶会を断り、贈り物の受取りを拒否していたが、贈り物がダメならとオメガの男女が贈られるようになった。彼らはとても美しく社交的に振る舞っていたが、ペルルノアを得ようとする熱意は恐ろしかった。
 さらに面倒なことに、後継者争いに参入すると勝手に見なされ、判定直後から身辺が物騒になった。皇太子の第一王子とそれに張りあう第三王子の派閥の者から、しばしば毒物や刺客が送られてきたりする。
 心穏やかに暮らしたいペルルノアにとって、迷惑以外の何ものでもない。
 そんなわけで貴族が揃う社交の場は苦痛なだけで、王の挨拶がすむとそそくさと姿を消すのが常だったが今日はそうはいかない。

 広間の中央に従弟のファイウスの姿が見えた。ファイウスは今回の戦闘でも活躍していた。祝いの言葉を掛けるべきだが、何人もの騎士が周囲を囲んでいる。
 遠巻きに凛々しい姿を眺める。騎士団の礼服に身を包み、堂々とした立ち姿はいかにもアルファらしく臆したところがない。ふとファイウスが顔を上げ、目が合ったと思ったら平然とやって来た。
「ペルルノア、久しぶりだな。元気だったか?」
 よく一緒に遊んだ幼なじみなので口調はくだけたものだ。
「まあな。リーノが寂しがってる。ファイウス様がいらっしゃらないとフォルロの焼き方を忘れそうですって」
 それを聞いたファイウスはにこりと笑った。フォルロは胡桃を使った焼き菓子だ。ファイウスのお気に入りで、リーノはいつも焼きたてを出したものだ。
「リーノのフォルロは最高だったな」
 王都の侯爵邸に住んでいた頃はよく一緒に遊んだが、最近は疎遠になっている。十五歳になったファイウスが騎士団に入るために領地に帰ったからだ。

 貴族の男子は地元で初等教育を受けた後、十歳で王都の領主館にやってきて王宮内の学問所に通って王侯貴族と親交を深め、十五歳で騎士団に入るために領地に戻る。そして十八歳までには初陣を経験する。
 貴族の子弟や他国の王族が集まる王宮の学問所で、王弟を父に持つファイウスと親しくなりたい者は多かったのに、彼はなぜかペルルノアと親しくしたがった。侯爵家に媚びないペルルノアの態度が気持ちよかったからだと後に知ったが、今になって当時のファイウスの気持ちが理解できた。
 近況を話しているうちにブラッシア二世が登場し、戦勝会は騎士や兵士への感謝の言葉で始まった。王は美辞麗句を並べたりせず、簡潔な言葉で勝利を祝い、その働きを労った。

「ところで、皆が集まっているここで知らせたいことがある」
 ブラッシア二世は一同を見渡して、腹に響く声で告げた。
「ペルルノア、ここへ」
 ペルルノアは口元を引き締めて、注目を浴びながら王の側に近寄った。ブラッシア王はどこか無機質な目でペルルノアを眺め、それから口を開いた。
「第二王子ペルルノアをトウレイ国へ派遣する。国交を開くための交渉を命じる」
 その発表に、広間は戸惑いの気配にざわついた。
「使節団を編成し、出発準備を整えるように。よいな、ペルルノア」
「王命、謹んで拝命いたします」
 みなの注目が集まる中、ペルルノアは胸に手を当てて頭を垂れた。


「ペルルノア、広間は大騒ぎになってるぞ」
 バルコニーでワインを飲んでいたペルルノアは振り向いて、ファイウスに向かって苦笑した。
「なにしろ幻の国だからな」
「事前に聞いていたのか?」
「今日の昼間にね」
 片手にワインの瓶を持ったファイウスは軽く肩をたたいて、ペルルノアを庭に誘った。庭園には燈火が灯っているが、まだ花も咲かない時期で人は少ない。
 花のないバラ園のベンチに二人で座った。
「陛下はなぜペルルノアを行かせるんだ?」
「俺がアルファだからだ。オメガの女王にあてがおうって魂胆らしい」
「でもオメガなら早くに番を得ているだろう。独身ってことはないだろうに」
「番でなくても愛人の一人でもいいくらいの考えだろうね。あるいは王族のオメガを探せって言われてる。これ、内緒の話だからな」
 ペルルノアはブラッシア二世の計画をファイウスに打ち明けた。

「……ジェルナの策を取る気なのか、陛下は」
 ファイウスも気づいたようだ。
「らしいね。遠いトウレイ国と国交なんて本気と思えないけど、乗っ取りを考えてるならあり得ないことじゃない」
「そんな策が成功すると思うか?」
「何とも言えない。女王の年齢も知らないし。まあ、俺を送り込むことそのものに意味があるんだろう」
「それにしたって、乱暴すぎる。魔の樹海もあるってのに」
 眉をひそめるファイウスは本気でペルルノアを心配している。
「でも王命だぞ、断るなんて選択肢があるのか?」
 ペルルノアがいたずらっぽく返すと、今度はため息をついた。ペルルノアがこの派遣を嫌がっていないことに気づいたのだ。

「それに兄弟たちは安心するだろ、アルファの王子がいなくなって。暗殺者を送り込むのも疲れてただろうし、今ごろ祝杯をあげてるかな?」
「お前はのんきすぎる、ペルルノア」
 怒ったようにぱしんと肩をたたかれた。ペルルノアに刺客が向けられていることを知っているファイウスは渋い表情だ。
 ペルルノアは何も言わずほほ笑んだ。
 アルファは一般的には縄張り争いすると言われるが、ファイウスとは張り合いながらも気が合ってずっといい関係だった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

鳥籠の夢

hina
BL
広大な帝国の属国になった小国の第七王子は帝国の若き皇帝に輿入れすることになる。

番に見つからない街で、子供を育てている

はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。 異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。 現世の記憶は失われているが、 この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。 街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、 ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。 だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。 再会は望まない。 今はただ、この子との生活を守りたい。 これは、番から逃げたオメガが、 選び直すまでの物語。 *本編完結しました

運命の番は僕に振り向かない

ゆうに
BL
大好きだったアルファの恋人が旅先で運命の番と出会ってしまい、泣く泣く別れた経験があるオメガの千遥。 それ以来、ずっと自分の前にも運命の番があらわれることを切に願っていた。 オメガひとりの生活は苦しく、千遥は仕方なく身体を売って稼ぐことを決心する。 ネットで知り合った相手と待ち合わせ、雑踏の中を歩いている時、千遥は自分の運命の番を見つけた。 ところが視線が確かに合ったのに運命の番は千遥を避けるように去っていく。彼の隣には美しいオメガがいた。 ベータのような平凡な見た目のオメガが主人公です。 ふんわり現代、ふんわりオメガバース、設定がふんわりしてます。

身代わりにされた少年は、冷徹騎士に溺愛される

秋津むぎ
BL
第13回BL大賞奨励賞頂きました! 最終17位でした!応援ありがとうございます! あらすじ 魔力がなく、義母達に疎まれながらも必死に生きる少年アシェ。 ある日、義兄が騎士団長ヴァルドの徽章を盗んだ罪をアシェに押し付け、身代わりにされてしまう。 死を覚悟した彼の姿を見て、冷徹な騎士ヴァルドは――? 傷ついた少年と騎士の、温かい溺愛物語。

運命よりも先に、愛してしまった

AzureHaru
BL
幼馴染で番同士の受けと攻め。2人は運命の番ではなかったが、相思相愛だった。そんな時、攻めに運命の番が現れる。それを知った受けは身籠もっていたが、運命の番同士の子供の方が優秀な者が生まれることも知っており、身を引く事を決め姿を消す。 しかし、攻めと運命の番の相手にはそれぞれに別の愛する人がいる事をしり、 2人は運命の番としてではなく、友人として付き合っていけたらと話し合ってわかれた。 その後、攻めは受けが勘違いしていなくなってしまったことを両親達から聞かされるのであった。

希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう

水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」 辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。 ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。 「お前のその特異な力を、帝国のために使え」 強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。 しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。 運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。 偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!

普通のβだった俺は

りん
BL
普通の大学生として過ごす白瀬凪が、αの先輩に絡まれる話 凪は普通の大学生だ。βで、容姿も中身も平均値ぐらいだと認識している。ある日、大学でもよく噂されている先輩に声をかけられる。先輩の独特の雰囲気と空気に、次第に巻き込まれていく凪。 ※オメガバ系で結構ご都合な設定ありかもです!地雷だったらごめんなさい!!

やっぱり、すき。

朏猫(ミカヅキネコ)
BL
ぼくとゆうちゃんは幼馴染みで、小さいときから両思いだった。そんなゆうちゃんは、やっぱりαだった。βのぼくがそばいいていい相手じゃない。だからぼくは逃げることにしたんだ――ゆうちゃんの未来のために、これ以上ぼく自身が傷つかないために。

処理中です...